国は、宅配便の基本ルールで「置き配」をどう扱うかをはっきりさせようとしている。本記事では、その背景とねらい、利点と懸念、開始時期の現状、制度化までの流れを解説する。
目次
ネット通販の拡大で宅配需要が増えるなか、国土交通省は置き配標準化ルールの導入を検討している。
現行の標準宅配便運送約款には置き配の明記がなく、対面受け取りが前提だが、今後は再配達削減やドライバー負担の軽減を目的に、受け取り方法を見直す方針。手渡しに追加料金を設定できる案も報じられているものの、金額や制度の詳細は未定だ。
本記事では、置き配標準化ルール検討の背景や制度化までの流れ、生活者や事業者に及ぶ影響をわかりやすく解説する。
なぜ「置き配の標準化」が議論されているのか
国が宅配便の受け取り方法に置き配を標準化する検討を進める背景には、物流業界の構造的な課題や再配達削減の必要性などがある。ここでは、その背景を詳しく見ていこう。
■物流2024年問題とドライバー不足
物流業界は「2024年問題」に伴う時間外労働の上限規制で、ドライバーの担い手不足が深刻化している。ただでさえ人手不足な状況で、一層負担を押し上げる要因となっているのが再配達だ。
こうした状況を踏まえ、国はラストマイル配送の効率化をテーマに有識者検討会を設置し、受け取り方法の見直しを含む議論を進めている。宅配は生活インフラであり、基本ルールの更新が社会に与える影響は大きい。
■再配達率削減目標に向けた国の取り組み
再配達は物流効率を低下させるだけでなく、環境負荷や人手不足の深刻化にもつながる。
こうした課題を踏まえ、国は「物流革新に向けた政策パッケージ」の中で23年6月に12%だった再配達率を2025年3月までに6%へ下げる目標を掲げてきた。しかし、直近の国交省サンプル調査では、8%台にとどまり、依然として目標達成には課題が残る状況だ。
そこで、置き配の普及を進めることで不在時の持ち戻りを減らし、再配達率をさらに引き下げる狙いがある。効率化と環境対策を同時に進める政策の一つとして、置き配標準化の議論が加速しているのだ。
参照:令和7年4月の宅配便の再配達率は約8.4% 国土交通省
■「対面受け取り廃止」ではなく「受け取り方法の選択肢拡大」という検討の趣旨
一部の報道で「置き配の標準化」と聞き、対面で荷物を受け取れなくなるのではと誤解する声もあった。しかし、国が進めているのは「対面受け取り廃止」ではなく、受け取り方法の多様化をルールとして明確にすることだ。
従来の対面受け取りは継続される一方、置き配を含む複数の受け取り手段を選択できるようにすることで、利用者の利便性を高め、宅配業務の効率化を図るのが目的。
国土交通省は「誤解が広がっているが、受け取りの選択肢を広げる議論だ」と強調しており、制度の趣旨を正しく理解することが重要だ。
「置き配標準化ルール」が実現するとどうなる?
置き配が標準化されることで、再配達の削減やEC事業者への影響、ドライバー不足の改善、生活者の利便性など、多くの変化が予想される。ここでは、想定される影響について詳しく見ていこう。
■再配達削減で社会全体に広がるメリット
再配達が減れば、ドライバーの時間的負担が軽減され、燃料や車両稼働の削減につながる。効率的に配達をこなせるようになれば、同じ時間でより多くの荷物を処理できるため、生産性の向上が期待できる。
また、歩合制で働く委託ドライバーにとっても配達数を増やすチャンスとなり、収入面でプラスに働く可能性がある。
こうした流れは、物流業界の健全化や環境負荷の軽減にも直結するため、置き配標準化は社会全体にメリットをもたらす取り組みといえるだろう。
■EC・小売ビジネスに求められる新たな顧客体験設計
現状、多くの事業者は出荷側の同意なしに置き配を認めておらず、対面配達が基本となっている。置き配が広がれば誤配や盗難リスクが増すため、送料を負担するEC事業者や小売側には抵抗感が残るのも自然だ。
もし対面配達に追加料金が課されれば、コストを負担する事業者にとって価格競争力が下がり、消費者離れを招く懸念もある。
そのため、置き配の安全性や保証の仕組みを含めた新たな顧客体験設計が求められる。安心して利用できる環境をどう整えるかが、今後のEC・小売業界の課題になるだろう。
■ドライバー不足・働き方改革にもつながる可能性
不在再配達や対面対応が多く、拘束時間が長いことから敬遠されがちな宅配の仕事。置き配が標準化されれば、配達効率が高まり、コミュニケーション負担も軽減されるため、参入のハードルが下がる。
人材不足の緩和が期待でき、宅配を担う人材層の拡大につながる可能性があると見られる。また、長時間労働の是正や働き方改革の実現にも寄与するだろう。ただし、配達の質をどう担保するかは引き続き重要な課題となる。
■生活者が得る利便性と負担のバランス
利用者にとって置き配は、不在時でも荷物を受け取れる利便性がある一方で、盗難や情報漏洩への不安も伴う。対面受け取りを希望する場合に追加料金が発生すれば、家計負担が増える点も課題だ。
さらに、置き配が増えることで顧客と直接やり取りする機会が減り、宅配業者のサービス品質低下の懸念もある。荷物の取り扱い方や駐車マナーなど、顧客視点を忘れない対応が求められる。置き配標準化は利便性を高めつつ、生活者の不安や負担とのバランスをいかに取るかが鍵になるだろう。
置き配標準化で懸念されること
置き配標準化には利便性の向上といった側面がある一方で、盗難や破損への不安、商品特性による不適合、建物規約やセキュリティ面の課題も残されている。ここでは想定される主な懸念点について詳しく見ていこう。
■盗難・破損トラブルと補償のあり方
置き配には、雨濡れや誤配、盗難といったリスクが避けられない。配達完了通知が届いたのに荷物が見当たらないとの事例もすでに報告されており、補償をめぐる仕組みづくりが不可欠だ。
特に、出荷人・荷受人が置き配を了承していた場合に被害が生じたとき、誰がどの範囲まで責任を負うのかが大きな論点となる。宅配事業者やEC事業者、保険会社を交えた制度設計が求められ、現場ドライバーに過剰な責任を押しつけない仕組みとする必要があるだろう。
■高額商品・生鮮品など置き配に不向きな荷物への対応
すべての商品が置き配に適しているわけではない。高額な家電やブランド品は盗難リスクが高く、生鮮食品や冷凍食品は品質劣化の恐れがある。
こうした荷物まで一律に置き配対象とすれば、消費者からの不満やクレームにつながりかねない。
標準化を進める上では「何を置き配対象にするか」を切り分けることが、現実的な制度運用の前提となるだろう。
■集合住宅・オフィスの規約やセキュリティとの整合性
マンションやオフィスで置き配を導入するには、まず建物の管理規約や使用細則を整える必要がある。国交省は標準管理規約の改正で宅配ボックス設置や使用ルールの策定に関する指針を示しているが、共用廊下に荷物を長時間置くと避難の妨げになるおそれがある。
さらに、オートロックやタワーマンションでは入館管理やエレベーター待ちなどの事情があるため、一律に同じ運用はできない。
そのため、入居者で合意を作り責任の所在を明確にした上で、宅配ボックスを基本とする、玄関前は短時間のみ許容する、共用部の恒常的な占用はしない、監視カメラや配達記録でトラブルを抑止する、などの具体策を組み合わせるのが現実的な対応と見られている。
今後のスケジュールと制度化の見通し

置き配標準化は、国土交通省の検討会での議論を経て標準運送約款に反映され、制度として実施される見通しだ。ここでは、検討会の進行状況と改正から施行までの流れについて詳しく見ていこう。
■「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」の進行状況
検討会は2025年6月26日に初会合、7月25日に第2回、8月28日に第3回、10月9日第4回、11月6日に第5回が開催された。
最新の第5回の資料は非公開だが、置き配の約款上の位置づけや再配達抑制策が議論されている状況だ。会合資料や日程は国交省サイトで順次公開されており、議論の透明性が担保されている。
■標準運送約款改正から施行までの流れ
取りまとめ後、国は「標準宅配便運送約款」に置き配を明記する改正案を示し、パブリックコメントを経て省令改正の手順を踏む。
対面受け取りの廃止や直ちに追加料金導入を決めるわけではなく、料金や開始時期は未定であることが大臣会見でも強調されている。
制度としていつから本格稼働するかは、今後見えてくるはずだ。正式な開始時期は、今後の官報公布や省令告示を待って確認したい。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部







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