
トヨタ自動車が展開する「TOYOTA UPCYCLE プロジェクト」の新しいプレミアムアップサイクルブランド「Tsugi-Craft(ツギクラフト) by TOYOTA UPCYCLE」が、2025年9月19日に誕生しました。
「クルマメーカーがプレミアムバッグをなぜ作るの?」……そう思う方も多いはず。
実はこのバッグ、レクサスのシートの端材で、通常は廃棄される素材を使っているのです。
そして、「廃材なら安いバッグができるんじゃない?」……と思う方もいるのではないでしょうか?
しかし、このバッグは10万円弱が中心価格帯。決して安くはありません。
「?」が続くこのブランドですが、独特のパッチワークに存在感があり、デザインがとても洗練されています。
トヨタがなぜプレミアムなバッグを作ったのか? その秘密に迫ってみます。
「Tsugi-Craft(ツギクラフト) by TOYOTA UPCYCLE(トヨタ アップサイクル)」とは?
「Tsugi-Craft(ツギクラフト)」は、レクサスのシートに使われる高品質な牛革の廃材を使ったプレミアムなアップサイクルブランドです。
ローンチしたのは、「TOYOTA UPCYCLE(トヨタ アップサイクル) プロジェクト」です。
【参考】TOYOTA UPCYCLE
トヨタの只熊さん、中村さんは、クルマの製造過程でやむなく発生する、リユース・リサイクルしにくい端材などを、廃材のまま終わらせないために、〝「モッタイナイ」を「もっといい」へ〟をコンセプトに、環境・人・地域に配慮したエシカルな価値創出のため、2021年春からTOYOTA UPCYCLE(トヨタ アップサイクル) プロジェクトに取り組んでいます。
このプロジェクトの新たなチャレンジとして、「アップサイクルにプレミアムを宿す」(中村さん)ため、プレミアムアップサイクルという新しいスタイルを提案すべく、「Tsugi-Craft(ツギクラフト)」が誕生しました。
【参考】Tsugi-Craft by TOYOTA UPCYCLE
クルマのレザーシートの品質は異次元。廃材するには「モッタイナイ」
クルマのレザーシートの廃材は、不均一なために工業製品の素材としては、とても扱いにくい素材です。そのため、トヨタでは、やむを得ず廃棄処理していました。
しかし、クルマのレザーシートは「耐久性が高く、軽量」(中村さん)です。そんな高い品質のレザー素材を廃棄するのは、実に「モッタイナイ」ことでした。
「モッタイナイ」を「もっといい」へ。
「Tsugi-Craft(ツギクラフト)」は、そんな「モッタイナイ」廃材をアップサイクルして、「もっといい」物づくりをするチャレンジです。
そして、「身近な存在のバッグから、環境配慮に取り組む」(中村さん)挑戦が始まったのです。
そのプレミアムブランド立ち上げに尽力したメンバーの1人が、トヨタの加藤さんです。
加藤さんは、普段の業務では自動車のシートの素材や塗料などの先行開発をしています。もちろん、自動車製造のプロですが、バッグ製作となると話は別。
そこで、ConcePioneのクリエイティブディレクターの一法師さんと協業して、クルマメーカーがアップサイクルで作るブレミアムバッグという前代未聞の課題に挑んだのです。
「Tsugi-Craft(ツギクラフト)」の第一歩は端材という不均一な素材への挑戦だった
加藤さん、一法師さんがツギクラフトで挑んだ最初のステップは、素材選びでした。
選ばれたのはトヨタのプレミアムブランド、「レクサス」のシート製造過程で発生する高品質な牛革の廃材です。
「自動車にとって重量は、燃費への影響がとても大きいです。そこで、シート用のレザーは極力軽く作られています。さらに、夏はものすごく車内は暑くなりますし、雨に濡れることもあります。そのため、耐久性については万全の対策を行っています。そんな上質で耐久性のあるレザーですから、バッグになれば、様々な場所へ気兼ねなく持ち出せ、ウィークエンドにも使えるのではないかと思いました」(加藤さん)
しかし、シート用にカットした後に出る端材は、それぞれがバラバラの形状になってしまいます。
「トヨタは自動車メーカーですから、新しい素材を作る技術は進んでいます。しかし、今まで捨てられてきたものを生かそうとすると、完全に未知の領域です。素材として整ったものを使うのと、不均一なものを扱う技術はまったく別もの」(加藤さん)だったと言います。
そして、一法師さんと共に、プレミアムバッグの素材にふさわしいレザーを用意するための試行錯誤が始まりました。
「日本には古くから『金継ぎ』という技術があります。割れた器などを接ぐためにあえて金を入れて、継ぎ目をおしゃれに見せている。『隠すのではなく、あえて目立たせることで美しいデザインにする』、その発想にヒントを得て、接ぎを目立たせるデザインにしました」(一法師さん)
パッチワークで端材が高級生地に
レクサスのレザーシートの廃材を継ぎ合わせ、それをあえてパッチワークで目立たせることで、ツギクラフトのレザーは唯一無二の存在感とデザイン性を生み出す事に成功しました。
しかし、デザインの方向性は決まったものの、それを製造するのはまた別の難しさがあったと言います。
「廃材を均一にカットするため、『レザーの抜き型』を使うのですが、この型のデザインが全部バラバラで、別々のパーツになっているんです。これをパッチワークして生地にするのは本当に難しい」と一法師さんは苦労を語ります。
「最初のサンプルを見た時は『大丈夫かな?』と不安になりましたが、パッチワークができたときに『これだ!』と思えるうれしい瞬間がありました。しかし、作るには非常に手間がかかる。トヨタ自動車の発想では『真逆』のことでした」(加藤さん)
そこで、「重なり感やどこにステッチを入れるかなどの工夫」(加藤さん)を加えつつ、「工場の『手作業の技』に頼りました」(一法師さん)と言います。トヨタの工業生産の技と、工場の手作業の技が組み合わされることで、レザーの廃材が、プレミアムバッグの高級生地へと生まれ変わったのです。
「オールジェンダー」で「オールエイジ」、「多国籍」な物づくり
デザインについて、一法師さんはコンセプトの段階で悩んだと言います。
「バッグなので最初はなんとなく女性向けなのかな? とか、トヨタが作るから男性向けかな? とか思っていました。しかし、デザインコンセプトを固める中で、『オールジェンダー』で、『オールエイジ』なものづくりがしたいと思うようになりました」(一法師さん)
「さらに多国籍なみなさんに使っていただきたいと思い、商品撮影のモデルさんも『オールジェンダー』で、『オールエイジ』で『多国籍』な方にお願いしました」(一法師さん)
また、ツギクラフトのバッグはすべて黒で統一されています。
「黒になった理由は、自動車では黒の室内色に人気があり、その廃材を使う必然です。ただし、自動車のインテリア素材は室内全体のカラーに合わせる必要があるので、一般的にみなさんが思われる黒とは違い、やや明るめになっています」(加藤さん)
アップサイクルにプレミアムを宿す難しさ
アップサイクルのバッグと聞くと、多くの人が「人が乗っていたシートを再利用するから、安いんでしょ?」と思うかもしれません。
しかし、ツギクラフトのバッグはレクサスのシートの製造時に出る廃材なので、新品の素材を使っています。
一方、アップサイクルの物づくりは全体を通じて工程が増えるので、本来はコストを下げるのが難しいものです。
「これまでは扱いづらいため、やむなく棄ててきた廃材を利用できるのは、未来につながる良い行為だと思います。そして、アップサイクルの素材にコストがかかるなら、価格を下げる方向より『ものづくりのクオリティ』を伴わせて、価格にふさわしい製品にしようと思いました。ただし、高い製品を作りたいのではなく、誇りを持って価格を伝えられる、そんなものづくりをしたかったのです」(一法師さん)
今回のツギクラフトの製品発表には、GENERATION TIMEのエシカルディレクター、坂口さんもゲスト参加されました。
坂口さんはアッシュ・ペー・フランスに入社し、セレクトショップやアート事業、Eコマースの立上げなどに関わった後、2017年にエシカル事業部を設立してディレクターに就任。幅広い企業にエシカル/サステイナブルのビジネスコンサルティングを行う、日本エシカル推進協議会アドバイザーでもあります。
その坂口さんは「ツギクラフトが日本のエシカルファッションの中で、アップサイクルにプレミアムな価値を作ったことはとても重要」だと言います。
「ラグジュアリーブランドでは、価格が30万円のバッグなど当たり前ですが、『アフォーダブルラグジュアリー』というキーワードがあり、10万円前後の価格帯のバッグを作ることが、ファッション界で盛り上がっています。『エシカル、サスティナブルは安い』というイメージが一般的に強いのは事実です。でも、本来は手間がかかる行為であり、廃棄される部材を集めるのも大変です。ですから、価格が高くなるのは当然です。その点、欧米のブランドはプレミアム性を訴求するのが上手です。そのような中、日本でもツギクラフトのようなブランドが出てきたことがうれしいですね」(坂口さん)
「Tsugi-Craft(ツギクラフト)」のラインアップ
それでは、ツギクラフトの製品ラインアップをご紹介しましょう。
15-Totebag
大容量でありながらエレガントな15-Totebag。付属のストラップで、ショルダータイプにも変化させられます。
9万4600円
9-Handbag Large
スクエアなシルエットが印象的な9-Handbag Large。付属のストラップで、ショルダータイプにも変化させられます。
9万9000円
9-Handbag Medium
スクエアなシルエットが印象的な9-Handbag Medium。付属のストラップで、ショルダータイプにも変化させられます。
9万3500円
15-Pouch Large
柔らかなシルエットが魅力の15-Pouch Large。付属のストラップで、多様なスタイリングも可能です。
9万9000円
15-Pouch Medium
柔らかなシルエットが魅力の15-Pouch Mediumは大きすぎずも収能力があるバランスの良いデザインを採用。付属のストラップで、多様なスタイリングも可能です。
9万3500円
6-Pouch
こぶりな6-Pouchは必要最低限のアイテムをスマートに収納。6枚のオリジナルパッチワークが織り成す柔らかなシルエットが特徴です。付属のストラップで、多様なスタイリングも可能。
6万4900円
2025年9月30日までPOPUP STOREを開催
ブランド誕生を記念して、9月19日(金)から9月30日(火)まで、代官山 蔦屋書店でポップアップストアを開催します。
ほかにも、大阪高島屋などでもポップアップストアを開催予定。
詳しくは、こちら(av_up_base_t@mail.toyota.co.jp)までお問い合わせください。
取材/文:中馬幹弘