Hondaの新型軽EV「N-ONE e:」は走る蓄電池!アウトドアや災害時に役立つ給電機能はかなり便利
2025.09.25
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
Hondaの新型軽乗用EV「N-ONE e:(エヌワン イー)」の発売を記念して、二子玉川ライズにて体験イベント「N-ONE e: Park」が開催された(※イベントはすでに終了)。
“走る蓄電池”として給電も可能!国民車「N360」の価値を受け継いだ「N-ONE e:」
「N-ONE e: Park」は、生活に寄りそう“相棒”と呼びたくなるような愛らしいデザイン、蓄電池として電化製品に給電もできる実用性を兼ね備えた「N-ONE e:」を、実際に見て、触れて体験できるイベント。会場には「N-ONE e:」を展示し、“家電としての車”を感じてもらうコーナーも設けられた。
イベント初日にはタレントの谷まりあさんをゲストに、本田技研工業株式会社 「N-ONE e:」 開発責任者の堀田英智氏、株式会社本田技術研究所 「N-ONE e:」開発デザイナーの古小路実和氏が登壇した「N-ONE e: Park」ステージイベントが開催された。
堀田氏「HONDAには、愛らしいデザイン、そして軽自動車でありながらもしっかり4人乗って走れる“国民車”として愛された『N360』がありました。
EV化するにあたっては、N360の愛らしいデザインといったヘリテージを大切にしながら、HONDAとしてもEVはチャレンジでもあるため、こうした思いを込めてN-ONE e:を開発しました。
コンセプトに『e:Daily Partner(イー デイリー パートナー)』を掲げており、パートナー、つまり相棒になってほしいという強い思いがあります。日常使いできる身軽さ、気軽さで運転していただけるEV軽自動車です。
ガソリン車のN-ONEは全高が1.55m以下で、軽ハイトワゴンとしては低めであるため、機械式駐車場に入るサイズ感ということも大変評価をいただきました。EVになっても全高1.545mとN-ONEと同等で、都市部の駐車場を利用する際にも便利なサイズ感を継承しました」
古小路氏「私はCMF(カラーマテリアルフィニッシュ)を担当していまして、車の色、触った時の質感や素材、表面の仕上げの処理などの開発を主に行っています。
デザインチームとしては身軽・気軽というキーワードを中心に、お客様の日常を後押しできるような色々なポイントが散りばめて開発しました。
『N-ONE e:』はEV車ということで、サステナブルな素材、地球の環境に配慮した素材にもこだわっています。フロントグリルにつぶつぶのような素材を使っていますが、こちらは今までのHonda車の廃棄されたバンパーを再利用した『バンパーリサイクル材』を使用しています。
バンパーを再利用する試みは本田宗一郎さんの時代から行っていましたが、今までは見えない場所に使っていたものを、今回はデザインとして見える場所に利用していることが大きくこだわったポイントになります」
堀田氏「コンパクトでありながら市街地でも乗り回しがしやすいということが、お客様が軽に求めるニーズだと考えています。
今回EV化するにあたり、EVならではの静かでスムーズな加速に加え、扱いやすく小回りがきくハンドリングや、EV化に伴ってガソリン車より重くなったことをうまく活用した、床下に配置したバッテリーによる低重心設計が生み出す高い走行安定性など、運転のしやすさと快適な走りを両立しています。
EV化での大きなポイントのひとつが『シングルメダルコントロール』をHondaの軽乗用車として初めて採用したことです。これはアクセルペダルの操作だけで加速から減速、完全停車まで行える機能です。
市街地走行や駐車時におけるペダルの踏み替え操作の煩わしさを軽減することで、日常のドライブをより快適にする仕様になっています」
「N-ONE e:」は、給電機能やV2H(Vehicle to Home=EVに蓄えた電力を自宅で使えるようにするシステム)など、EVならではの便利でくらしに役立つ機能も備えているのが特長。
AC外部給電器「Honda Power Supply Connector(パワーサプライコネクター)」を使用することで最大1,500Wまで出力が可能。
堀田氏「走る蓄電池なんて言われていますが、電気を蓄えることができるのは非常に大きなメリットだと感じています。アウトドアなどお出かけ先での活用はもちろん、昨今、線状降水帯など災害も増えてきていることから、停電した場合でも、電気を車から取り出せるのは、いざというときの備えにもなります。また、夜間の安価な時間帯に充電した電気を日中にV2H機器を介して家庭で使用することで、電気代の節約にも貢献します」
「Hondaさんは遊び心のある車を作るイメージでしたが、いろいろ調べると実はとんがった車を作る会社だということがわかって、今日はそのとんがり具合や、こだわりを聞けたらうれしいですね」とトークイベントに臨んだゲストの谷まりあさん。
「N-ONE e:」は充電口がフロントグリルにあるため、充電しながらでもスムーズな乗り降りが可能。谷さんはフロントグリルにあるフタを開けて充電口にパワーサプライコネクターを差し込み、電気を取り出して家電を動かす給電を体験した。
「すごく簡単にできます!」と驚いた様子の谷さんは、開発デザイナーの古小路氏と共に車に乗り込み、内装やデザインのこだわりについても聞いた。
古小路氏「ターゲットユーザーのライフスタイルを調べると、スーパーに行ってまた降りる、お子さんの送迎に行ってまた降りる、というように、1日の中で頻繁に乗り降りを繰り返す方が多いとわかりました。そのため、シートの高低差をなくすことでスムーズに乗り降りできるような形状にしています」
谷さん「確かにすごく地面から近くて乗りやすいですね、今日のような裾の長い服装でも、乗り降りにまったくストレスがないです!」
古小路氏「フロントまわりは見晴らしの良い視界を確保できるよう、インパネ(インストルメントパネル)がとてもフラットな水平基調のデザインになっています。インパネ上部を薄さが感じられる造形とすることで、室内の広がりを感じられる空間にするとともに、前方視界が広く確保でき、車幅感覚もつかみやすく安心できる運転につながります。
アクセントに使っているベージュの素材もサステナブルな、植物由来の『デュラビオ』という特殊なバイオ樹脂を使っています。
直感的にわかる、というのがとても大事だと考えていて、操作に必要なスイッチ周りは左手で届く範囲に集約していますので、わずらわしさがなく操作していただけます。
バッテリーの残量を確認するメーター表示もスマートフォンと同じような表示になっていて、スマートフォンの延長線上のような感覚で気軽に使えるものになっています」
谷さん「車の収納装備はとても大事なので気になるところです。私は自分の家のような感覚で車に乗ることが多いので、ティッシュのような日常まわりのもの、携帯やお財布を入れる場所など収納についてはこだわっています」
古小路氏「ターゲットユーザーへのリサーチから、収納にこだわっている方が多いと感じていましたので、例えばトレイの部分はスマートフォンなどが気軽に置けるような幅になっていまして、くぼみもついているので滑りづらい仕様にしています。
リサーチをしていた中で黒いトレイに黒いスマートフォンを置くと、出るときに置き忘れてしまったというご意見があり、今回のターゲットユーザーは車の乗り降りを頻繁に行う方が多いと想定して、トレイの部分はあえて視認性が高い明るい色を使用しています。
また、センターコンソールにはエコバッグや、普段使っているトートバッグもサッと置けるような大きさで、ドアポケット部分は長財布ぐらいのサイズでも収納できるようになっています」
N-ONEの特長でもある「室内の広さ」と「使い勝手の良さ」は、「N-ONE e:」にも継承しており、フロア下に搭載するバッテリーを薄型化することで、大人4人が快適に乗車できる空間を確保。
さらに、「ダイブダウン機構」によりリアシートを倒すことで、荷室から続くフラットな床面を実現するとともに、助手席の座面をはね上げてスライドさせることができる「チップアウト機構」により、背の高い荷物が積載可能になるなど、多彩なシートアレンジによって、N-ONEと同等の利便性を備えている。
【AJの読み】EV車に対する面倒さや不安を払拭して選択肢のひとつに
HondaにどのようなEV車を作ってもらいたいかと聞かれた谷さんはこう話した。
「ここまでEV自動車を身近にしていただいたことに感謝していますが、強いて欲を言えばスマートフォンのようにワイヤレスで充電ができたら、もっと身近に感じられるのかなと思いました。特定の位置に停車したらそのまま充電ができるというような技術が、いつか叶ったらうれしいですね」
堀田氏「携帯電話もケーブルを挿す充電から、ワイヤレス充電に進化しました。EV車もいつかはそうなるべきだと我々も思っています。人が使う上で面倒だったり、不安を感じるところは解消すべきであり、技術屋としてはやっていかなくてはいけないと感じています。
充電時の操作や手間を減らすことで、充電待機時間のストレスを減らす取り組みとして、『Honda Charge』という、アプリで簡単に充電できるサービスを開始しています。
EVに充電プラグを差し込むだけで認証し充電、決済までできるプラグアンドチャージシステムで、これからもお客様の使い勝手の良さを進めていきたいと考えています」
電動化はハイブリットが中心の日本では海外と比べてEV比率が低く、海外メーカーからの出遅れが指摘されているが、今秋は日系大手メーカー7社のラインナップにEVが組み込まれた。9月12日に発売されたHonda「N-ONE e:」もそのひとつ。
「EVの良さは必ずあるはずで、今回のイベントもそうですが、お客様にEVを知っていただくことから始めなければいけないと考えています
私たちもチャレンジしている部分が多いですが、お客様にとってもチャレンジなんです。ガソリン車から電気自動車になると大きく環境が変わりますので、お客様のチャレンジを後押しできるようなことを我々としてはやっていかなければならないと思っています。『N-ONE e:』はこうした不安を払拭できるように開発を進めてきました。イベントや試乗会で体験いただき、EVを選択肢のひとつにしていただきたいと考えています」(堀田氏)
取材・文/阿部純子