世界的観光地が林立する大都市。選手にとっては集中力を欠く側面も?
ニューヨークのもう1つの1つの大きなポイントは、つねに大勢の人々で賑わう世界的大都市という点。マンハッタンにはウォール街として知られるファイナンシャル・ディストリクト、国立9月11日記念館・博物館とワールドトレードセンター、エンパイアステイトビル、ユニオン・スクエア、セントラルパークといった観光名所が林立しているし、ブルックリンにもブルックリン橋やウイリアムズパークという名所がある。つまり、非常に雑音が多く、選手たちが集中できる雰囲気の街ではないということだ。
もちろん本大会になれば、彼らは郊外のニュージャージーにある高級ホテル滞在し、練習会場やスタジアムを往復することになるだろうが、注目度はひと際、高まるはずだし、プレッシャーも大きくなる。他の都市でのゲームとは異なる環境になるのは確かだ。
その雰囲気に慣れる機会のないまま、本番にのぞむことになるのは、一抹の不安もある。日本代表選手たちはよりタフなメンタリティや環境適応力が求められてくる。そこはきちんと頭に入れておいた方がいい。
日本代表を応援するサポーターにしても、ニューヨークは魅力的である反面、物価の高さに悩まされることになりそうだ。その筆頭が宿泊施設。筆者は今回、知人宅にお世話になったため、ホテルに泊まることはなかったが、マンハッタンの一定グレードのホテルは1泊3~5万円は当たり前だという。確かにサンフランシスコの市街地でも2~3万円かかったというから、そのくらいは普通なのかもしれない。
W杯本番のような世界的ビッグイベントが開催される際にはもっと高値になるはず。宿泊する場所を郊外に移すか、あるいはレンタルハウスなどを探すといった工夫を凝らさないと、円安・日本の旅行者は乗り切れそうもない。
食事にしてもハードルの高い要素。今回、マンハッタンでハッピーアワー(夕方)を活用し、大人3人と子供1人でカジュアルなカフェバーに入り、ビール2杯ずつとジュース1杯、軽食を頼んだら、チップ合わせて100ドル(1万5000円)以上はかかった。ユニオン・スクエアにある日本のラーメン店の前を通ったら、「ラーメン1杯・22ドル(3300円)」という値段が出ていて、目が飛び出そうになった。
週末のブロック・パーティーで見られた興味深い出来事
今年6月にシアトルに滞在した際は、料理できるレンタルハウスに滞在したため、自炊で飲食コストを抑えることができたが、そういうことができるなら一番いい。今のアメリカは気軽に外食できる国ではない。それは多くの人が言っていることかもしれないが、改めて肝に銘じるべきだ。
何もかもが高額ゆえに、滞在自体に二の足を踏んでしまいそうだが、この町は一度、足を踏み入れただけで、独特の熱気と自由さ、包容力に魅了されるところがある。それがニューヨークの凄さかもしれない。
今回、知人ファミリーとともにブルックリンで開催されていたブロック・パーティー(街のある一角が主催するイベント。週末になるとさまざまなエリアで開かれている)というものに参加する機会に恵まれたのだが、そこで子供たちがフェイスペインティングの商売を立ち上げ、1回当たり2ドルを稼ぎ、貯めたお金を持ってネイルサロンに出向くという姿が見られたのには驚かされた。
日本であれば、「小学校に通っている子供が道端で商売をして、稼ぐなんてもってのほか」という話になるだろうが、ニューヨークは何でもありなのだという。
確かに、子供もお金を稼ぐ大変さを小さいうちから学んだ方がプラスになるし、自分が貯めたお金を好きなことに使う喜びも経験した方がいい。日本では昨今、子供が投資の勉強を始める例が増えているというが、そういうことを自然と学び、自身の成長の糧にしていける環境があるのはポジティブなことだろう。
ニューヨークはスポーツ三昧の街!
ニューヨークに滞在してもう1つ、メリットを感じたのが、日本、欧州、アメリカのスポーツをいい時間帯に見られる環境面だ。
筆者も滞在中の9月13日には、まず朝6時(日本の夜19時)からJリーグのサンフレッチェ広島対京都サンガ戦をDAZNで観戦。14時半(欧州20時半)からブンデスリーガのレバークーゼン対フランクフルトを観戦。翌14日もいい時間帯にブライトンの三笘薫やモナコの南野拓実のプレーを見ることができた。
日本の場合は欧州のゲームを見ようとすると深夜になってしまうから、なかなか難しいのだが、ニューヨークにいれば、アジア・欧州・アメリカと主要国全てに目を向けられる。これはアメリカ東海岸の確かにメリットだ。
ニューヨークではアルコールの飲めるお店の大半で野球、バスケットボール、アメフト、サッカーなどが放映されているが、それも地理的メリットが大きいからかもしれない。現地に赴いた際には、スポーツ三昧になってみるのも一案ではないか。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。