「アジアベストバー50」でチェックすべき新バー
今回のアジアベストバー50で、ニューエントリーしたバーでは、バー界の世界的レジェンドで、手がけたバーがこれまで6店が同ランキングインしている後閑信吾氏が、昨年香港にオープンした新店「GOKAN」が注目だ。「GOKAN」とは自身の名前「後閑」と「五感」をかけた意味で、味覚を構成する五味(甘味、酸味、辛味、苦味、塩味)と五色(青赤黄白黒)に基づいたメニューを提供する。面白いのは「五色メニュー」には、前述したように、全てノンアルカクテルが並ぶことだ。
店のストーリー性を楽しむと言う意味では、後閑氏が昨年、東京丸の内にプロデュースした「The SG Tavern(エスジー タバーン)」も面白い。店のテーマは幕末から明治期に薩摩藩から密出国し欧米に留学し、日本人で初めてタバーン(酒場)でカクテルに親しんだとも言われる15人の若者『薩摩スチューデント』の海外雄飛の物語だ。
中には、数奇な運命の末に米カルフォルニアに渡り「ワイン王」となった長沢鼎、のちのサッポロビールの創始者村橋久成、初代文部大臣となった森有礼、五代財閥を作った実業家五代友厚などがいる。鹿児島産を中心とした焼酎カクテルを飲みながら、バーテンダーと話して店のストーリー性とそこから生まれたカクテルを味わって欲しい。
世界中のバーマニアが日本のバーを巡る理由
今回、アジアのベストバー50のコンテンツ責任者であるエマ・スライトさんは、日本のバーの魅力をこう語ってくれた。
「今年のアジアベストバー50は、ニューエントリーが20店と凄く多いのですが、これはアジアのダイナミックさと成長を表しています。アジアのダイバーシティ、多様性の一層の進化です。
その典型が、日本の熊本県の『夜香木(ヤクボク)』の25位へのニューエントリーだと思います。そして、日本の伝説的なバーテンダー金子道人さん(2015年ワールドカクテルコンテスト優勝)のバー、奈良県の『ランプバー』が46位に再度エントリーして来ました。
奈良の地元産の酒やジンを使ったカクテルが面白い。日本のバーのローカルごとの非常に異なる味、文化の多様性も大きな魅力。
日本酒や焼酎は、水が違うと味が変わりますよね。例えば『広島の水だから広島の酒ができる』みたいに。日本の、小さな、しかし親密な空気を持つ「居酒屋」文化も、世界のバー文化に大きな影響を与えています。
インドのバーで今年8位のニューデリーの『ライアー』は、日本の居酒屋をテーマにしたバーです。もちろん東京には様々なタイプのバー、飲食店があり、その多様性が日本のバー最大の魅力でしょう」
東京だけでなく地方のバーにまで、目(舌)の肥えたバーマニアが旅をすると言う意味では、日本ほど酒と食の多様性に富んだ国はないと熱く語ってくれた。
「カンパリ」と「いいちこ」初のコラボレーション
このバー文化の新トレンドに注目して、バーを舞台にした本格焼酎の新製品のキャンペーンを展開しているのが、焼酎ブランドの最大手の一つ「いいちこ」の三和酒類(大分県)だ。
数年前からアメリカを始め世界展開をしている新製品「iichiko彩天(さいてん)」を、イタリアンリキュール「カンパリ」とのコラボで「麹ネグローニ」として発表。
9月28日まで日本全国124店のバーで提供するキャンペーンを行っている。
ネグローニとは、カンパリとジン、ベルモットのカクテルで、食前酒として人気が高く、「世界で最も人気のあるクラシックカクテル」とも言われる。リッツ・カールトン東京で行われたキックオフ・イベントに登場したカンパリジャパンの阿部タイガー哲社長はこう語った。
「カンパリが慈善活動として長年やっている、ネグローニ・ウィークのキャンペーンで、ずっと本格焼酎とやりたいと思いましたが、実現に5年かかりました」
また、三和酒類西和紀社長はこう夢を述べた。
「願いは一つ、世界の酒に、です。iichiko彩天を使った『麹ネグローニ』は、食中でも楽しめるのが特徴です。和と洋の融合、その垣根を越えるカクテルとして世界に広がって欲しい、と願っています」
キャンペーンには全国416店が参加し、うち124店で「麹ネグローニ」を展開すると言う。「ネグローニ・ウィーク」は2013年から取り組むチャリティーイベントで、期間中、参加店舗がネグローニの売上の一部を慈善団体に寄付する活動だ。
イベントには、前述の後閑氏も登場し、オリジナルの「備長ネグローニ」を飲ませて頂いた。
「焼酎と言えば焼き鳥が合う。炭焼き鶏の脂(備長炭スモークのシュマルツ)を使い、備長炭の冷たい煙をかけて香りをつけました。焼き鳥のスモーキーさと同時にカンパリと麹のフレーバーが楽しめます」と、食中酒としての「麹ネグローニ」の可能性を披露した。
新世代BARとは、単にお酒を提供するだけでなく、新しい顧客層の多様なニーズに応え、多様な体験や価値を提供する、従来のバーとは一線を画した新しいスタイルのバー。アジアでそして日本で増えている新世代BARは、酒を飲むだけの場ではなく、食事も含めて、その店や酒の持つストーリーやテーマ性なども一緒に楽しむ、エンタメとコミュニティ作りの場になりつつある。いわば「ライフハック」の場としての新世代バーを、上手に使いこなしたい。
アジアのベストバー50公式サイト
「ネグローニ・ウィーク」キャンペーンサイト
取材・文/福田 誠