
少し前のバーと言えば、JAZZが流れる静かな店内で、酒にうるさい男たちが静かに杯を傾けている・・・・・・そんなイメージだ。
コロナ禍前に日本ウィスキーのシングルモルト人気が世界的に盛り上がったが、コロナ後はいわゆる「酒を楽しませる」オーセンティックなバーではない。例えば五感で楽しむ仕掛けや、店やカクテルのストーリー性やテーマに合わせた演出、ノンアルコールカクテルを充実させたような「新世代BAR」が注目を集めている。
インバウンド客の中には、東京のみならず日本各地の新世代BARを巡る「バー・ホッピング」を楽しむ人も増えているという。
話題の「新世代BAR」はどんな特徴?
この4月に、女性誌『Oggi』の「初めてのバー特集」でアドバイザーを務め、7月にマカオで開催されたバーの世界的コンテスト「アジアのベスト・バー50」に参加した、バー・ジャーナリストの児島麻理子さんは、最近のバーのトレンドについてこう語る。
「今年の『アジアのベスト・バー50』では日本のバーが6軒ランクインしましたが、これはインバウンド客が楽しめるバーが増えている証拠です。
インバウンド客が多いということは、『一見(いちげん)客』でも入りやすいバーが増えているということ。また、様々な嗜好の人たちを楽しませるダイバシティ(多様性)に対応するバー、お酒に弱い客も楽しめるような、ノンアルコールや低アルコールのカクテルを充実させるバーも増えています。
少し前だと例えばバーで『ノンアルコールありますか?』とかは聞きにくかったけど、今は揃えていることがむしろアピールになります」
確かに筆者も、今回のベスト・バー50にランクインした香港の『バー レオーネ』(24年・25年と連続1位)と『GOKAN』(25年初登場33位)を訪ねたが、充実したノンアル・メニューがあり、特に若い女性のグループ客が楽しんでいたのが印象的だった。
「アジアのベスト・バー50」とは、アジア各地のバー業界の関係者やジャーナリストが「この1年間で実際に行って良かったバー」をランク付けするコンテストで、バー文化のトレンドが非常によくわかるランキングだ。因みに今年の日本の最上位は「バー・ベンフィディック」(東京・新宿)の9位だった。
「バーというと、特に女性は、お酒やカクテルの知識がないと入りにくいイメージがありますよね。でも、ベンフィディックは、お客ひとりひとりの話を聞いて、オーダーメイドで好みのカクテルを作ってくれるバーなんです」(児島さん)
酒の知識がないバー初心者でも楽しめるハードルの低さと、自分好みのカクテルをその場で作ってくれるエンターテイメント性が魅力なのだ。
ゼロプルーフのカクテルを楽しむ、〝ソバーキュリアス人口〟が急増!?
ノンアル・メニューについて児島さんはこう続ける。
「実は、ノンアルの方が難しい面があります。レシピの定番がないのでバーテンダーの腕が良くないと美味しくないし、アルコールがないと深みとか出ないんです」
例えばと推薦してくれたのが、ザ・ペニンシュラ東京の「Peterバー」だ。女性バーテンダーであり、ミクソロジー&バーマネージャーの鎌田真理さんはこう語る。
「私は体質的にアルコールが飲めないのですが、だからこそ、お酒の飲めない方、弱い方、あるいは『今日はお酒を抜こう』と思われるお客様にもバーを楽しんで頂けるようなメニューを研究しています。『ザ・ゼロプルーフ』(=アルコール度数ゼロ)のメニューは常に15種類ほど揃えています。最近はバー・デビューの女性がいらしたり、男性の方でも運転などを理由に飲めない際に気軽に楽しんで頂いています」
ドライブデートの途中にモクテルをデートで楽しむ、そんなカップルもいるようだ。
事実、20代の間では、健康志向の高まりや「飲まない生活」への興味から「ソバーキュリアス」というライフスタイルが広がっている。
お酒を飲めるにも関わらず、あえて飲まない、少量しか飲まないことを指す、Sober(しらふ)とCurious(好奇心が強い)を組み合わせた造語だ。