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「神社の未来」はつくれるか?ブロックチェーンと祈りが交差する場所

2025.10.03

未来オムニプレゼンスは、カトウとスズキによって運営されるSFプロトタイピングカンパニーだ。彼らの使命はクライアントからの依頼に基づき、未来を「予測」するのではなく、未来を「創る」ことにある。

ある日の午後、カトウとスズキのオフィスにある男性がやってきた。相談の主は、宮城県で千年以上の歴史を持つ、「杜継(もりつぎ)神社」の97代目宮司である佐藤健司が、深い憂いを抱えて訪れたのである。

「うちの神社を、どうにか次の世代に繋げたいんです」

神社――日本に約8万社存在し、千年以上の歴史を持つ精神文化の拠点。しかし杜継神社も例外ではなく、少子高齢化の波に飲み込まれていた。かつて夏休みになれば子どもたちの声で賑わった境内は静寂に包まれ、祭りの担い手もいない。氏子の減少により賽銭収入は激減し、デジタル決済の普及で現金を持たない参拝者が増え、お賽銭という文化そのものが消えかけていた。

「私には息子がいますが、神職を継ぐ気はないようです。このままでは、千年続いた杜継神社も私の代で終わってしまう」佐藤の声には切実さが滲んでいた。「でも、不思議なことに息子はアニメで描かれる神社には夢中なんです。友達とVRで聖地巡礼をしている。この矛盾をどう解決すればいいのか…」

佐藤は続けた。「神社は本来、地域コミュニティの中心であり、人々の『待ち合わせ場所』であり、子どもたちの『安全基地』でした。その本質的な価値を、現代にどう再構築すればいいのか。そこで、御社のSFプロトタイピング手法を使って、新たな発想を得たいと思ったんです」

「わかりました。杜継神社の未来、創らせていただきましょう」

スズキがにっこりと微笑み、そう答えると、佐藤の表情に一筋の希望の光が宿った。過去に未来オムニプレゼンスが手がけたプロジェクトは、伝統と革新の融合で数々の成功を生み出してきた。その実績があるからこそ、佐藤は最後の望みを彼らに託すことを決めたのだ。

佐藤が帰った後、カトウとスズキはすぐさまブレインストーミングに入った。

「神社を”維持する”ことがゴールなんじゃない。人々が”集い、繋がる場”を創ることが目的だよな」

「そうだね。物理的な神社という形態にこだわる必要があるかどうかも含めて、本質から考え直してみよう」

神社の「過去」「現在」「未来」を俯瞰する中で見えてくるものがあるはず。そこで彼らは、神社の歴史や意義を尊重する形で”SFプロトタイピング”の物語を作り上げることにした。

以下は、未来オムニプレゼンスによって杜継神社に納品された「神社の未来」を描く物語である。

【Case31:神社の進化「オムニ神社と神様ネットワーク」】

この物語の主人公は、天結神社宮司、水沢隆志(45歳)。 彼は今日も境内の掃除をしながら、寂れた神社の将来を憂いていた。最後に七五三の参拝があったのは2年前。地域の出生率は0.5を切り、氏子は高齢者ばかりになっていた。

「隆志さん、今月の収入は…これだけです」

妻の声に振り返ると、彼女の手にはほぼ空の賽銭箱があった。デジタル決済が主流となり現金を持たない人が増えた今、お賽銭という文化そのものが消えかけていた。電気代すら払えない神社が次々と廃社に追い込まれていたのだ。

そんな中、隆志の息子である蒼介(12歳)は、VRゴーグルを装着して友人たちと「聖地巡礼」を楽しんでいた。人気アニメ『神様ネットワーク』に登場する架空の神社を訪れるのが、β(ベータ)世代の間で大流行していたのだ。

「お父さん、今年の夏祭りで最後なの?」 蒼介が尋ねる。隆志は重い口を開いた。

「残念だが、後を継ぐ者もいない。お前も神職には興味がないだろう?」 蒼介は答えに詰まった。確かに神社は好きだ。でも、それはアニメで見る「みんなが集まる場所」としての神社であって、現実の寂れた神社ではなかった。

次の日、蒼介は父の悩みを友人に相談していた。するとコーディングが得意な親友のケンジが興味深い提案をしてきた。

「蒼介、天結神社を『オムニ神社』にしてみない?」 ケンジが画面に映し出したのは、現実の天結神社と完全に同期したデジタル空間だった。参拝者は物理的に神社を訪れても、世界中からバーチャルで参加しても、同じ体験を共有できるという構想だった。

「これは単なるVR神社じゃない」ケンジが説明を始めた。 「日本全国の神社をブロックチェーンで繋いで、『神様ネットワーク』を作るんだ。参拝者は物理的にどの神社を訪れても、デジタル御朱印を通じて全国の神社にアクセスできる。そして、その収益は全ての参加神社で分配される」

システムの核心は「スマート賽銭箱」だった。QRコードやNFT、暗号通貨にも対応し、参拝者は好きな方法でお賽銭を納められる。さらに、AIアシスタント巫女「ミコ」が24時間対応で、世界中からの参拝を受け付ける。

「それって、アニメの『神様ネットワーク』そのものじゃん!」蒼介が興奮した。

「そうなんだ。虚構と現実を融合させるんだよ。神社は再び『待ち合わせ場所』となって、物理的な安全基地としての役割も果たしながら、デジタル空間でも人々が集う場所になる。神社に特化した究極のメタバースさ!」

蒼介は父に相談することにした。隆志は最初、千年以上続く伝統を変えることに躊躇していた。

「お父さん」蒼介が静かに言った。「神道の本質は『結び』でしょう?人と人、人と自然、過去と未来を結ぶ。その本質は変わらない。変わるのは、結び方だけだよ」

隆志の心に、息子の言葉が響いた。確かに、神社の本質は形ではなく、人々を結ぶことにある。

さらに蒼介は続けた。「物理的な宮司は月に数回、重要な祭事を執り行えばいい。後継者問題も、全国の神職資格保有者がネットワークで補完し合える。オンライン神職養成講座も開設して、海外の日本文化愛好家も巫女や神職見習いとして参加できるようになるんだ」

このシステムには人流のほとんどなくなった神社にとって救世主となりうる、さらに画期的な機能があった。参拝者が神社でARグラスをかけると、境内に過去の祭りの様子や、神話の世界が重なって見える。子どもたちは境内でポケモンGOのような「神様集め」ゲームを楽しみ、高齢者は昔の祭りの記録映像に浸ることができる。

今ではすっかり忘れられてしまったが、神社は本来の神事を執り行う場所としての機能とは別に、重要な社会的な意味を持っていた。それは、子供たちの通学路であったり、放課後や夏休みに友人と語らったり遊ぶ場所であったり、お祭りなどで友人知人といつもと違う夜を過ごしたりなど、人と人を継なぐ場としての機能だ。今ではその機能がほとんど見られなくなったとはいえ、蒼介がアニメに描かれた神社に夢中なのは、そのような「神社の記憶」が無意識に日本人の脳内に存在しているからだろう。

「神社は時空を超えた『記憶の保管庫』にもなるんだ」と蒼介が説明した。「地域の人々の思い出や、祭りの記録、氏子たちの家族史まで、すべてがブロックチェーン上に永続的に保存される。子供たちはVRでどこにいてもそれを楽しむことができ、神社に興味を持つ。一方で、AR体験を用意することで、実際の神社にもフィジカルに足を運んでもらえる。ブロックチェーン技術が、場所も時間も世代も超えて繋いでくれるのさ」

その一年後、新たな夏。

天結神社の夏祭りは、かつてない賑わいを見せていた。

境内には地元の高齢者から、海外からの観光客、そしてARグラスをかけた若者たちが集まっていた。物理空間では伝統的な屋台が並び、デジタル空間では世界中から参加者がアバターで踊りに加わっていた。

御神輿は現実世界を練り歩きながら、同時にメタバース内の参加者たちによって担がれていた。ブラジルのサンパウロから参加している日系人家族、パリで日本文化を学ぶ学生たち、そして東京にいながらVRで参加する引きこもりの青年まで、すべての人が同じ祭りを体験していた。

「お父ちゃん、すごい人だね!」 蒼介が叫ぶ。彼は今、デジタル神職見習いとして、オンラインで神道の勉強を始めていた。物理的な後継者にはならないかもしれない。でも、新しい形で神社を継いでいくことはできる。

スマート賽銭箱には、世界中から暗号通貨やデジタル決済でお賽銭が集まっていた。基本的に少額の賽銭だが、デジタル資産保有者の特有の現象として、一部の参拝客が高額な暗号通貨を寄付してくれることは、嬉しい誤算だった。何よりも以前とは比較にならないほどの賑わいで、月間のデジタル参拝者は10万人を超え、収益は安定していた。

さらに、神社は地域の新たな機能も担い始めていた。平日の境内は、リモートワーカーのコワーキングスペースとして開放され、週末は子どもたちのプログラミング教室や、高齢者のデジタルリテラシー講座が開かれていた。まさに現代版の「寺子屋」だ。

物語を終えて

未来オムニプレゼンスが描いたのは、神社が「消えゆく文化遺産」から「未来のコミュニティハブ」へと進化する姿だ。もちろん、すべてが実現可能とは限らない。しかし、このストーリーが示唆するのは、「伝統を守る」という一方向的発想にとどまらず、ブロックチェーン、AI、AR/VRなど多様な技術を融合させることで、日本の精神文化は新たな形で世界に広がっていく可能性である。

プレゼン当日、カトウとスズキは杜継神社の社務所にて、佐藤をはじめ、地域の氏子総代や若手の神職仲間たちに向けて壮大な未来像を披露した。

そこでカトウは笑顔で言う。

「SFプロトタイピングは”夢物語”を描くためのものではありません。あり得ないことをあり得る形に落とし込むための最初の一歩なんです」

スズキが続ける。

「すでに実装されているデジタル決済やVR技術は数多くあります。どれも”あと少し”の統合があれば、我々が描いた未来像に近づいていくでしょう」

佐藤と氏子総代たちは、最初は戸惑いを見せたものの、物語が示す可能性と、若い世代への訴求力に魅力を感じ始めていた。確かに千年の伝統を変えることへの抵抗はある。しかし、このまま何もしなければ神社は消滅してしまう。

「神社の本質である『結び』を、テクノロジーで強化する。まさに私が求めていたものです」佐藤は深くうなずいた。

プレゼンを終えた後、カトウとスズキは佐藤と共に杜継神社の境内を歩いていた。夕暮れの光が鳥居を照らし、静寂の中に蝉の声だけが響いている。

カトウがふと立ち止まって言った。

「神社って、”当たり前すぎる”存在でしょう?でも”当たり前”こそ、大きく変革できる可能性がある。千年続いた杜継神社だからこそ、次の千年に向けて進化させる価値があるんです」

スズキもうなずく。

「この先、物理的な鳥居だけでは神社存続が難しくなるでしょう。でも、それはそれで新しい『チャンス』が生まれるということ。私たちは、伝統と革新が共存する未来を提案していければと思っています」

佐藤はそんな二人のやり取りを聞きながら、目の前にそびえる樹齢800年の御神木を見上げる。この木が見守ってきた千年の歴史に、新たな章が加わろうとしている――そう考えると、彼の心は不思議と軽くなった。

「よし、やってみましょう。まずは杜継神社をモデルケースとして、実証実験を始めたいです。お二人も引き続き力を貸してください」

佐藤の言葉に、カトウとスズキは力強くうなずく。

こうして神社を巡る新たな物語は一歩を踏み出した。過去の形式や慣習に囚われず、”人々が集い、祈り、繋がる場”という本質的な価値に向き合い、テクノロジーを活用して未来を切り拓こうとする姿勢。それこそが、未来オムニプレゼンスの真髄だ。彼らはただ未来を予測するのではなく、未来を創る。

もしかしたら、数十年後、私たちの子孫は「昔は神社に現金を投げ入れていたらしいよ」などと懐かしそうに話すかもしれない。一方で、伝統的な祭事を物理的に体験することの価値も、より一層高まるかもしれない。いずれにしても、今日のこの日が、神社が本当の意味で”進化”するターニングポイントになる。

未来オムニプレゼンスは、今日もどこかの組織から「未開拓の未来」を創る相談を受けている。彼らがアプローチの光を当てるのは、往々にして”当たり前”すぎて見過ごされてきたものだ。神社の進化はその最たる例だろう。

もしあなたの周りにも「伝統と現代のギャップ」があったなら、ぜひ思い出してほしい――未来は予測するものではなく、創るものだ。千年の歴史を持つ神社でさえ、イノベーションの種に変わりうるのだから。

静かな境内に子どもたちの声が響く日が再び来るのか、それともデジタルと物理が融合した新しい形の「聖域」が生まれるのか――その結論は、今まさに生まれようとしている物語の先にある。伝統と革新が交差する瞬間、当たり前は当たり前ではなくなる。

神社の未来を創るSFプロトタイピングの物語は、こうして幕を開けたばかりだ。

文/未来オムニプレゼンス
SFというフィクションを軸に、アイデアを試作(プロトタイピング)し、近未来を切り拓く創作活動を続けているSFプロトタイピングユニット。作品づくりからイベント企画、社会実験に至るまで、テクノロジー、芸術、ストーリーを総合的に活用。未来を創造する力で、新しい体験や視点を世の中へと提案していきます。

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