全国の累計患者数が過去最多となった「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」を知っているだろうか。去年まで感染が確認されていなかった地域からの報告も挙がっており、全国的に注意が呼びかけられている。
近年さまざまな感染症が話題になるが、中でもSFTSは「怖い感染症のひとつ」といっていいだろう。致死率最大30%だともいうSFTSは、いったいどういう感染症なのか、感染症や公衆衛生学に詳しいナビタスクリニック川崎小児科医の高橋謙造先生に話を聞いた。
マダニが媒介する怖い感染症「SFTS」
マダニが媒介する感染症「SFTS」。マダニが活発に活動するのは春から秋にかけてといわれており、11月までは油断ができない。
「SFTSの原因となるのは、〝SFTSウイルス〟というウイルスです。風邪などと違い、人から人へ感染することはほとんどありません。血液や体液に直接触れることで感染が起こる場合もありますが、多くのケースがマダニに刺されることによるものです。感染して数日から2週間ほどで発症し、38℃以上の高い熱や強い倦怠感、吐き気や下痢といった消化器症状が現れます。さらに症状がすすみ、血小板が減少すると出血傾向に。鼻血が出たり、歯茎から出血したりします。重症化すると意識障害やけいれんを伴う場合もある怖い感染症です」
■日本での致死率は10~30%!?
インフルエンザや風邪など、一般的な感染症に比べて重症化しやすく、命に関わるケースが比較的多いのが、この感染症が怖いといわれる理由だ。
「致死率(SFTSウイルスに感染した人のうち、亡くなる人の率)は日本でおよそ10~30%とされます。高齢者や持病のある人ほど重症化しやすいことが知られていますが、若い人でも注意が必要です。特効薬やワクチンが存在しないことも、怖いといわれる理由のひとつ。治療は点滴や出血管理などの対症療法が中心です。また、初期症状が風邪などに似ているため、早期に見抜くのが難しく、症状が進行してからの治療になることも」
■鼻血など出血傾向は危険信号!
ただの風邪や胃腸炎だと思って様子を見ていると、みるみるうちに悪化することが考えられる。どのタイミングで医療機関への受診が推奨されるのだろうか。
「高熱+倦怠感+消化器症状を感じたら速やかに受診しましょう。インフルエンザやコロナと紛らわしい症状なので、医師に診断してもらう必要があります。鼻血など出血傾向があったり、意識が朦朧したりという状態であればかなり危険です。また、ダニに刺された自覚があるならば、なにかしらの症状が出たらすぐ受診してほしい」
「SFTS」の感染を防ぐには?
感染を防ぐには「マダニに刺されないこと」が最も重要といえる。山や草むらに入ることで誰もがマダニに刺される可能性があり、農作業やレジャー活動といった日常的な場面の中に感染リスクが存在する。
「山や草むらに入る際には、長そでや長ズボン、帽子などで肌の露出を避けること。シャツやズボンの裾からマダニに入り込まれないよう工夫もしましょう。そして、虫よけ剤も使うこと。帰宅後は体や衣服にマダニが付着していないかの全身チェックも必須です。そして、屋外で着用した服はすぐに洗濯しましょう」
自分が気を付けていても、ペットがマダニを付けてきてしまい、刺されてしまうということも考えられる。
「散歩時は、できるだけ草むらや藪に近づかず、散歩が終わったらブラッシングなどを行い、マダニが付いていないか必ずチェックしましょう。『SFTS』は犬や猫にも感染します。稀ではありますが、犬や猫から人に感染した事例も報告されています。口移しで食べ物を与えたり、同じ布団で眠ったりなど、過度な触れ合いを避けることも、感染対策のひとつです」
マダニに刺されても、直後は痛みやかゆみを感じないことがほとんどで、刺されたことに気づかず、数日間吸血され続けてしまうケースも珍しくないという。
「マダニは血を吸う際に麻酔のような成分を含む唾液を注入するからです。2~3日ほど経つと、刺された部分が赤く腫れたり、軽度のかゆみや痛みを感じたりすることもあります。しかし中には、まったく自覚症状がないまま、マダニが満腹になって、自然と離れていくことも。もし、吸血中のマダニを見つけても、無理に自分で引き抜いてはいけません。これは、人間もペットも同様です。マダニの一部が皮膚内に残り、化膿する可能性があります。救急科や皮膚科などを受診し、適切な処置をうけましょう」
マダニに刺されたからといって、必ずしも「SFTS」に罹るわけではない。しかし、ほかの症状が出ることもあるため、マダニに刺された後は注意が必要なのだ。
「マダニの活動が活発なのは温かい時期で、例年だと11月ころまでです。しかし、今年の感染者数の累計が過去最多の背景には、近年の異常気象による、マダニの生息域拡大と活動期間の長期化が要因のひとつと考えられます。暖冬になれば12月まで影響がある可能性もゼロではありません」
キャンプなどのアウトドア活動をまだまだ楽しむ人も多いだろうが、対策をしっかり行って、刺されないように注意をしよう。そして、もし体調に異変を感じたら早めに医療機関を受診。受診する際には、マダニに刺された可能性や、動物との接触状況を医師に伝えることが、適切な治療に繋がるポイントだ。
高橋謙造先生プロフィール
ナビタスクリニック小児科医師。東大医学部医学科卒業。専門は、国際地域保健、国際母子保健、感染症学。離島や都市部での小児医療を経て小児保健、国際保健の課題を解決するために公衆衛生分野に従事する。国立国際医療センター,国際医療協力局派遣協力課や帝京大学大学院公衆衛生学研究科などを経て現職。モットーは「現場を見て考える、子どもを診て考える」。
取材・文/田村菜津季







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