
歯の表面に装飾品を取り付ける新しいファッションアイテムがティースジュエリーだ。笑顔が華やかになるチラ見せのおしゃれを楽しみたい……と気になっている人もいるのではないだろうか。
しかし、歯に異物がつくということは、歯の健康を損なう可能性もある。いったいどういう注意点があるのか、歯科医師の加藤陽子先生に教えてもらった。
ティースジュエリー装着のしくみとは?
ティースジュエリーは、基本的に歯科医院で行われる施術だ。装着したい!と思ったら、具体的にどういう施術が行われるのだろうか。
「最初に歯の表面を荒らす処理をします。これを〝脱灰〟といいます。デコボコにすることでくっつきやすくする表面処理です。その後にキラキラのパーツなどをのせ、レジンという素材を使って固めて終了です。レジンとは、UVの光を当てると固まる透明の素材です。ジェルネイルと似たような原理です。だいたい2~3週間程度はくっついています。痛みなどは基本的にはありません」
ティースジュエリーが向かない人とは?
「治療」ではないため、自費診療になる。口の中に異物を入れるということになるのだが、施術が受けられない人はいるのだろうか。
「基本的には、パーツをつけられる面があれば誰でも受けられます。ただ、できないわけではないものの、すごく虫歯が多い方とか、歯周病で汚れが溜まっている方などは、まず治療を優先してほしい。ティースジュエリーのデメリットとして、歯周病や虫歯のリスクという点は無視できないからです。口腔環境が悪い人に、その状況を無視して施術をすると、悪化しかねない」
知っておきたいティースジュエリーのリスク
歯周病や虫歯のリスクがあるというが、いったいティースジュエリーは口腔環境にどういう影響を与えかねないのだろうか。
■磨き残しや口内炎に注意!
「装飾をつけることで、表面が凸凹になります。すると、食べ物のカスが付きやすくなりますし、磨き残しが起こりやすくもなる。口の中が清潔ではなくなるということです。また、尖った星型などデザインによっては、口の内側にあたって口内炎ができやすくなることもあります」
■歯の表面に汚れがつきやすくなるデメリットも!
施術時に表面処理をして、ツルツルの歯の表面を溶かしていること自体にデメリットもあるそうだ。
「ティースジュエリーを外した後も表面処理の影響は残ります。表面を溶かして処理しているので、その部分が弱くなり、汚れが付着しやすくなる。つまり虫歯になりやすい。この表面処理の影響は、度合いにもよりますが、基本的には元通りにはならないと考えてください。歯磨き粉のフッ素やアパタイトである程度回復することはあっても、施術前の頑丈な状態に100%戻ることはないでしょう」
リスク回避には歯科医院で「外す」ことが重要!

記念で1回きりの施術であったとしても、少なからず影響はあるわけだ。もちろん繰り返し行うことで、よりダメージは大きくなるといえる。ほか、意外と見落としがちなポイントがあるという。
「装着することだけではなく、外すところまできちんと歯科医院で行うということを考えたうえで施術に臨んでほしいですね。実際に患者さんで、ジュエリーが取れたあと、外しにいくのが面倒だったのか、透明な土台だけが残ったままの方がいました。土台の周りは変色して汚れも溜まっていた。ジュエリーは外れていても、土台があれば、凸凹は残っています。つまり、口内炎のリスクや汚れの蓄積などの問題は続きます。それこそ、ヘルペスウイルスをはじめ、ウイルスの増殖の場になることも。ほか、カンジダのようなカビが繁殖する原因にもなります。適切な入れ歯のケアをしないことで、カビが生えることもあるくらいです。装飾が取れた後の放置は非常に危険だと思ってください」
いろいろとリスクがあることは理解しても、どうしてもライブなどのタイミングで着けてみたい!という想いがある人もいるだろう。
「歯科医院選びとしては、デメリットもきちんと説明してくれる医院を選ぶことが大切です。どんどん施術を進めるのではなく、口腔環境を診て必要に応じてストップをかけてくれるような良心的な医院を選んでください」
昔は歯を削ってクラウン(被せ物)の中にダイヤモンドを埋め込むといった、直接貼り付ける方法よりもリスクが高い方法で歯のおしゃれを楽しんでいた人もいた。それよりはまし……とはいえそうだが、リスクがないわけではない。デメリットを念頭に置きながら、チラ見せのおしゃれを検討してもらいたい。
加藤陽子先生プロフィール

日本大学歯学部卒。宇医療法人社団大伸会三国歯科医院勤務。抗加齢医学会所属。日本化粧品検定3級。一人でも多くの人に、生涯自分の歯で暮らしてもらえるよう、予防意識をもつ大切さを積極的に伝える。
取材・文/田村菜津季