
2025年の薬機法等改正は、医薬品の安全性確保と安定供給を目的に成立しました。市販薬の販売拡大やオンライン服薬指導が導入される一方、販売制限や供給責任強化などの規制も整備され、事業者は適切な対応が求められます。
目次
薬機法等改正がビジネスにも影響がある可能性があるものの、改正内容がよくわからないという方もいるのではないでしょうか。本記事では、薬機法等改正のポイントをわかりやすく説明します。改正の背景や業界別の対応ポイントもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
薬機法等の改正とは?

薬機法等の改正とは、医薬品や医療機器の品質を守りながら安定的に供給できるようにすることを目的に、社会環境の変化や不正事案の発生に応じて薬事関連法を見直し、必要な制度を追加・修正する取り組みを指します。
直近では、2025年5月14日に国会で改正法が可決され、同月21日に公布されました。
参考:厚生労働省「令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について」
■改正の背景
薬機法等改正の背景には、近年の製薬メーカーで起きた製造記録の改ざんや必要な試験の未実施といった不正事案によって、薬の出荷停止や回収につながったことが挙げられるでしょう。
市場を取り巻く状況としては、海外で承認済みの新薬が日本で承認されにくい「ドラッグ・ラグ」や、そもそも開発が行われない「ドラッグ・ロス」が指摘されています。また、ジェネリックの原料を海外に依存することで地政学リスクや為替変動による供給不安定化も影響しているといわれています。
市場環境の変化も重なることで、必要な薬が十分に行き渡らない状況が発生しており、薬機法等改正はこれらの問題に対応するために実施されました。
参考:厚生労働省「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会
■施行時期
薬機法等改正の施行は一括ではなく、段階的に進められる点が特徴です。現時点で決まっている施行スケジュールは以下のとおりです。
・出荷時届出制度や協力要請などの一般的な改正:公布後6ヵ月以内
・濫用防止医薬品の販売制限や小児用医薬品の開発努力義務など:公布後1年以内
・品質保証責任者の設置義務やオンライン販売制度など:公布後2年以内
・製造方法変更手続の合理化など:公布後3年以内
これらのスケジュールに合わせて、各事業者は計画的に準備を進めていくことが求められます。
薬機法等改正のポイント

2025年の薬機法等改正では、医薬品の安定供給や安全性を確保しつつ、利用者の利便性を高めるための制度が整えられました。
具体的には、コンビニでの市販薬販売やオンライン服薬指導の導入、調剤業務の外部委託など新たな仕組みが導入される一方、不正防止や供給責任の明確化といった規制強化も盛り込まれています。2025年の薬機法等改正のポイントを解説します。
■コンビニ等で市販薬が取り扱えるように
今回の薬機法等改正により、薬剤師や登録販売者が不在のコンビニ等でも市販薬を扱えるようになることが決まりました。従来は有資格者が店舗に常駐している状況に限定されていましたが、改正後はICTを活用した遠隔管理によって販売が可能になります。
オペレーションとしては、薬局の薬剤師がオンラインを通じて購入者に情報を提供し、販売店舗で受け渡しを行う流れです。ただし当面は、有資格者の所属先と販売店舗が同じ都道府県内であることが条件とされています。
■調剤業務の一部を外部委託できるように
薬局の調剤業務の一部を、同一都道府県内の別の薬局へ外部委託できるようになります。調剤業務の外部委託は、人手不足を補い、薬剤師が対人業務や専門性の高い業務に専念できる環境を整備することが主な目的です。
外部委託が可能になるのは、医薬品のピッキングや包装、事務作業などに限られます。患者対応や服薬指導は対象外であることに注意しましょう。
■20歳未満への咳止めや風邪薬販売を制限
薬機法等改正のポイントの1つとして、若年層のオーバードーズ対策のための、医薬品販売の制限が挙げられます。20歳未満には咳止めや風邪薬などの「濫用等のおそれのある医薬品」を複数や大容量で販売することが、原則禁止となります。
販売時には、購入理由の確認や必要な情報提供が義務付けられ、乱用を未然に防ぐ仕組みが強化されました。購入者の年齢に応じた販売制限や、陳列方法の工夫も求められます。さらに、頻回購入に対して購入者の状況を確認して必要に応じて販売を断る、あるいは数量を制限するといった対応フローも導入されます。
■要指導医薬品にオンライン服薬指導を導入
薬機法等改正により、「要指導医薬品」の一部について、オンラインでの服薬指導と販売が認められるようになりました。オンラインでの服薬指導は購入者の利便性を高める一方で、安全性も確保するための仕組みです。
限定された範囲のみが対象となり、とくにリスクが高く対面販売が必要な品目は「特定要指導医薬品」として厚生労働大臣が指定します。たとえば、処方薬から一般用医薬品に移行したばかりのものや劇薬などが特定要指導医薬品に該当します。
利便性と安全性を両立させるために、段階的にオンライン化が導入される点が改正のポイントといえるでしょう。
■創薬系スタートアップ企業を支援
創薬系スタートアップ企業の支援も、今回の薬機法等改正の柱です。国費や寄付をもとに「革新的医薬品等実用化支援基金」が設けられ、創薬スタートアップを中心に資金面での後押しが可能となります。
創薬系スタートアップ企業の支援は、日本が直面する、海外で既に承認された医薬品の国内導入が遅れる「ドラッグ・ラグ」や、一部の医薬品が日本で開発されなくなってしまう「ドラッグ・ロス」への対応が目的です。日本におけるこれらの課題を解消し、創薬力の向上を目指します。
■特定医薬品の供給体制を管理する責任者を設置
薬機法等改正では医薬品の安定供給を確保するために、製薬会社に対して特定医薬品の供給体制を管理する責任者を設置することを義務付けました。背景には、ジェネリック医薬品を中心とした供給不足の問題があります。
責任者が行うのは、需給状況のモニタリングや供給体制の強化への取り組み、不足時の対応策の策定です。これにより突発的な供給不安への備えが進み、患者が必要な医薬品を継続して入手できる環境づくりが期待されます。
■処方せんなしで販売する「零売薬局」が原則禁止に
薬機法等改正によって、医療用医薬品を処方せんなしで販売する「零売薬局(れいばいやっきょく)」が原則禁止となりました。零売薬局を原則禁止とするのは、安全性の確保と不適切な利用を防ぐ狙いからです。
ただし例外として、患者が医師の処方に基づいて服用中の薬を切らしてしまい、さらに医療機関への受診もできないケースや、災害や感染症の拡大時に医薬品の販売が必要なケースでは、販売が認められます。また、漢方薬や生薬は一般用医薬品から医療用医薬品に移行した経緯があるため、従来どおり販売が続けられるよう配慮されます。
薬機法等改正に伴う業界別の対応ポイント

今回の薬機法等改正では、対象となる事業者ごとに段階的な対応が必要です。ここでは、各業種において優先的に取り組むべき事項と、施行スケジュールに沿った準備の進め方を整理してご紹介します。
■ドラッグストア・小売業者・コンビニ等
ドラッグストアや小売業者、コンビニ等の事業者は、一般用医薬品販売の新制度に対応する必要があります。薬機法等改正により、薬剤師や登録販売者が常駐していない店舗でも、一定条件を満たせば市販薬(一般用医薬品)を販売できるようになるためです。
そのため販売側であるドラッグストアや小売業者、コンビニ等は、オンライン服薬指導やICTを活用した遠隔管理の仕組みを整える必要があります。
優先的に取り組むべき項目としては、オンライン販売の整備が挙げられるでしょう。施行は薬機法等改正の公布日から2年以内とされており、準備期間は6~12ヵ月程度かかることが見込まれています。
加えて、濫用防止医薬品の販売制限への対応も重要です。濫用防止医薬品の販売制限は1年以内に施行される予定で、3~6ヵ月程度の準備期間が見込まれています。
■薬局・調剤薬局
薬局や調剤薬局には、主に調剤業務の一部を外部に委託できる制度への対応が求められます。したがって、外部委託を行う範囲や体制、安全管理の仕組みを整えることが重要です。
調剤業務の外部委託は2年以内の施行が予定されており、6~12ヵ月程度の準備期間が目安とされています。また、濫用防止医薬品の販売制限への対応も不可欠で、1年以内に施行される見込みであり、3~6ヵ月程度の準備が求められます。
さらに、オンライン販売の整備も対象です。施行は2年以内、準備期間は6~12ヵ月程度とされています。
■製薬企業・医療用医薬品製造販売業者
今回の薬機法等改正では、製薬企業や医療用医薬品の製造販売業者に対し、安定供給体制の強化や品質管理責任の明確化が求められます。
とくに「特定医薬品供給体制管理責任者」の設置が義務付けられており、2025年下半期には改正内容の整理と優先順位づけのほか、責任者候補の選定を進める必要があります。2026年には組織体制や社内規定を見直し、補助制度の申請準備も行うことが重要です。
そして2027年5月末までに責任者の設置・届出を完了させ、体制運用や社内教育を定着させることが最終ゴールとなるでしょう。
薬機法に違反した場合の罰則

そもそも薬機法とは、医薬品等の品質や有効性、安全性を確保するために、製造や販売、広告などに関する規則を定めた法律です。
医薬品等とは、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の5つをまとめた呼び方であり、それぞれ以下のようなものを指します。
【医薬品等のそれぞれの具体例】
・医薬品:頭痛薬、抗アレルギー薬、漢方薬、経口投与のビタミン剤など
・医薬部外品:制汗剤、薬用化粧品、虫歯を予防する歯磨き粉など
・化粧品:ファンデーション、マニキュア、シャンプー、リンス、石けんなど
・医療機器:コンタクトレンズ、体温計、心臓ペースメーカー、家庭用マッサージ器など
・再生医療等製品:培養皮膚、培養軟骨など
これらを取り扱う事業者には、広告表現を含めたさまざまな規制が課されています。つまり、薬機法を守らない行為は消費者の安全を脅かすだけでなく、事業者自身が法的なリスクを負うことになりかねません。
そのため、薬機法の罰則内容を正しく理解し、日々の業務で遵守する姿勢が重要です。ここからは、違反した際に科される具体的な罰則について解説します。
■刑事罰
薬機法に違反した場合、事業者にとって最も重い責任となるのが刑事罰です。刑事罰は、単なる行政処分にとどまりません。その対象となることで、社会的信用が失墜したり事業継続に大きな影響を与えたりする可能性があります。
主な法定刑は、以下のとおりです。
・無許可での営業や処方箋医薬品の不正販売:3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、もしくはその両方(薬機法84条)
・虚偽・誇大広告や未承認医薬品の宣伝、不正な販売行為:2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、もしくはその両方(同法85条)
・無登録営業や特定疾病用医薬品の一般向け広告:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、もしくはその両方(同法86条1項)
なお、これらの罰金刑は、課徴金の納付命令と重複することもあることに注意しましょう。
■課徴金納付命令
課徴金納付命令は、薬機法違反の中でもとくに広告規制に反した場合に科される、金銭的な制裁のことです。
課徴金納付命令は厚生労働大臣が行う行政処分で、違反広告によって得られた経済的利益をはく奪することを目的としています。具体的には、問題となった広告を出していた期間に該当する医薬品等の売上額の4.5%が課徴金として算定されます。
そのため、売上規模の大きい商品で違反が見つかった場合には、高額の納付を命じられる可能性がある点に注意が必要です。課徴金は事業者にとって大きな経営リスクとなり得るため、広告表現を慎重に確認し、法令順守を徹底することが不可欠です。
■廃棄・回収等の行政処分
薬機法に違反した商品を販売している場合、行政処分を受ける可能性もあります。
具体的には、厚生労働大臣や都道府県知事から廃棄や回収、業務停止が命じられるほか、違反の程度が悪質な場合は医薬品等の製造・販売に関する許可・登録が取り消されることもあります。
行政処分は事業活動そのものに直結する厳しい措置であるため、日常的にコンプライアンスを徹底することが重要です。