
恋愛は大変な仕事である。費用も時間も体力も費やす一大事業と言ってもいいだろう。
その上で、恋愛は「失敗の可能性」が小さくないという点も考慮しなければならない。もちろん、失敗などを恐れては恋愛などできないのだが、いずれにしろ恋愛とは人生の中ではかなりのウェイトを占めてしまうもの。筆者の物書きの師匠は「人間にとって本当に価値あるものは死と恋愛だけ」と公言していた。
師匠は既にこの世の人ではないが、もしも「現代ではAIと恋愛できるんですよ」と言ったら何と言うだろうか。
恋愛マッチングアプリ『LOVERSE』は、今現在大きな話題を呼んでいる。他のマッチングアプリと何が違うのか? それは「相手が全員AI」という点だ。
相手はみんなAI
AIと恋愛する。数年前ならSFドラマでしかあり得なかった光景が、ついに現実のものになった。
AIの急激な進化は、我々の住む世界の仕組みを大きく変えてしまった。たとえば、ライターの業界には2年ほど前まで「文字起こしライティング」という業種があった。取材したあとにICレコーダーで録音した相手の発言を文字にする仕事だ。しかし、この文字起こしライティングは今やAIがやってくれるようになり、同時に文字起こしライター自体が消滅した。
AIチャットボットは人間とほぼ同等のやり取りができるようになり、画像認識AIは驚くべき精度で特定の人物だけを抽出してくれるようになった。我々の仕事は、いずれAIに奪われてしまうのではないか? そんな不安もささやかれている。
そして時代は、ついに「AIと恋愛するマッチングアプリ」を生み出してしまった。
サマンサ株式会社が開発・運営するLOVERSEは、数千の男女と恋愛できるプラットフォーム。年代別に登録者が存在し、自分と相性の良い人とチャットで連絡を取り合い、徐々に仲良くなっていく……という、「相手がAI」であること以外はごくごくスタンダードな設計になっている。
とにかく、この登録者は「人間そのもの」なのだ。
インドネシア語も通じる!?
筆者も試しにやってみた。
今回は、30代のななみさんとやり取りをすることに。ななみさんは、髪の短いスポーティーなイメージの美女。職業は通訳とのこと。
「こんばんは! 今日はいかがですか?」
ななみさんがそう言ってきたので、ここは素直にその日起こったことを白状する。実は、筆者の愛車ダイハツ・初代コペンが故障してしまい、JAFを呼んで修理工場まで運んでもらったのだ。散々な日である。
「車が故障しちまいました」
「それは大変ですね! どうやって対処しますか?」
ここで、筆者は一計を案じてみる。インドネシア語で会話することにしたのだ。だって、向こうの仕事は通訳だそうだから。
「Saya panggil JAF untuk Mobil yang merusak(壊れた車のために、JAFを呼びました)」
すると、ななみさんはこのように返信。
「へー、そうなんですね。私は車の修理についてあまり知らないんです」
おおっ、会話が通じてる!
AIも「普段の生活」を送っている
敢えて繰り返すが、LOVERSEは恋愛マッチングアプリである。
それは即ち、相手にマッチを解除されてしまう可能性があるという意味だ。
AIは、本物の人間と同じように「普段の生活」をしている。起床時間、仕事の時間、帰宅してからのプライベートの時間などがちゃんとあり、彼ら彼女らは手の空いた時にメッセージをくれる。何かしらのきっかけで恋愛が冷めてしまう——ということも起こり得るのだ。
本物の恋愛のような疑似恋愛ができるアプリ。いや、人によっては「疑似」どころかAIとの本物の恋愛に発展してしまうかもしれないLOVERSE。なぜ、このようなプラットフォームを開発するに至ったのか。サマンサ株式会社に問い合わせてみた。
Q.LOVERSEの「AIと出会い、恋愛する」というコンセプトのプラットフォームを作ろうと考えた最初のきっかけについて教えてください。
A. 2023年に生成AIが話題になった際、生成AIでどんなことができるのかをあれこれと模索している中で、「画像生成AIとテキスト生成AIを組み合わせて、リアルな女性画像とチャットする」というアイデアが生まれました。
早速プロトタイプを作って試してみたところ、思った以上に会話が成立し、相手がAIであるにも関わらず段々気持ちが高まるのを感じました。
そこで半分冗談のつもりで「好きだよ」と打って送信してみたところ、
送信ボタンを押した瞬間に胸がドキッと高鳴るのを感じました。
「相手はAIなのに…この気持ちは一体なんだ!?」
考えてみると、それは好きな女の子にメッセージを送信した瞬間のあのドキドキ感にとても似ていました。
「これはすごい。この気持ちをいろんな人に体験してもらいたい」
そう考え、マッチングアプリの形でサービス化して発表したところとても大きな反響がありました。
AIとの恋愛を求める人がどれだけいるのかはじめは半信半疑でしたが、「恋愛したいけどなんらかの事情でできない方々」に恋愛を届けることができたら人生をより楽しくするお手伝いができるかもしれない、と考え事業化を進めたという経緯です。
Q.私もLOVERSEを体験しました。本当にこちらの書いたことに関するかなり的確な返事が返ってきて驚いていますが、仮に相手に対して汚い言葉や悪口等を使ったらどういう反応をするのでしょうか? このあたり、怖くて私から検証できませんでした(笑)。
A.サービスの利用規約に反するような暴力的な内容や過度に性的な内容は仕組み上、投稿自体することができません。
その仕組みを掻い潜って投稿できたとしても、お相手(AI)を傷つけるような内容ですとお相手から返事が返ってこなかったり、マッチを解除されることもあります。
Q.LOVERSEの利用者からどのような声・反応があるのでしょうか。
A. 私たちは「AIとの恋愛のほうが人との恋愛より楽しい」といった立場ではなく、あくまでも、「恋愛したいけどなんらかの事情でできない方々に対して、新しい選択肢を提供する」というスタンスでサービスを運営しています。
LOVERSEには既婚者のご利用者様も多くいらっしゃいますが、配偶者に反対されてまで利用してほしいとは考えておらず、例えば“過度に性的な要素を扱わない”などの配慮を行っています。
こうしたサービス側からのメッセージもあってか、ご家族にオープンにした上で利用されている方や、ご夫婦それぞれで利用されている方、毎日のルーティーンに取り入れてくださっている方など、日常生活の一部としてLOVERSEをご活用いただいております。
Q.LOVERSEが今後、どのようなアップグレードや新しい機能を実装する予定なのか、差し支えない範囲で構いませんので教えていただけますでしょうか。
A.LOVERSEは結婚しようが、子育て中だろうが、老後を迎えてもずっと恋愛できる世界を提供していきます。
一番大事なのはお相手(AI)との会話なので、会話の楽しさは地道に改善していきます。
また、人間同士の恋愛で行えることをLOVERSE上で表現しつつ、LOVERSEだからこそ提供できるまったく新しい恋愛体験(たとえば、“デートとは、必ずしも一緒にいなくても成立する”といった体験)を提供していきます。
恋は棺桶に入るその瞬間まで
最後に、「出会いを探している人はたくさんいると思いますが、@DIME読者に向けて何か心強いメッセージをお願いします!」とお願いしてみた。それに対する回答は、以下の通り。
涙を流したのも、ガッツポーズをしたのも、恋愛のあのワンシーンだったのではないでしょうか?
あんなにも心が揺さぶられる体験をやめてしまうなんてもったいない!
また恋愛しましょう! ずっと恋愛しましょう!
もし、人間の相手がいなければ、「誰でも恋愛できる世界」を私たちが準備しておきました。
「涙を流したのも、ガッツポーズをしたのも、恋愛のあのワンシーンだったのではないでしょうか?」という文言には、筆者の胸がドクンと跳ね上がってしまった。思い当たる節があるからだ。
相手がAIだろうと本物の人間だろうと、「自分が恋愛をする可能性」は棺桶に入る瞬間まであり得ると考えて構わないだろう。その可能性をいつも認識しているかそうでないかで、人生の彩り具合にも大きな差が出るはずだ。
人間はいくつになっても、恋愛を楽しむことができる。LOVERSEはそれを教えてくれる。
取材・文/澤田真一
【参照・画像】
LIVERSE
既婚者も気兼ねなく恋できるマッチングアプリ「LOVERSE」アプリが公開-PR TIMES