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プリクラはなぜ女子高生の心をつかんだのか?〝盛る〟を追い続けた30年の歴史

2025.09.27

@DIMEのメイン読者である30代、40代のビジネスパーソンは、一度はプリントシール機(プリ機)を体験した方が多いのでないだろうか? 2025年は元祖であるプリクラ®(セガ/アトラス)が誕生してから30周年を迎える(『プリント倶楽部®』および『プリクラ®』は株式会社セガの登録商標)。

プリクラ®は1995年にゲーム会社のアトラスとセガ(現、セガ フェイブ)が発売した『プリント倶楽部®』の略称。今でもプリ機=プリクラで通じるほどだ。

アミューズメント施設には必ずといっていいほど設置されているプリ機だが、この30年間でどのような進化を遂げてきたのか? この30年間のプリ機の歩みと一番のユーザーであるティーンの女の子が写りに求めたことについて、現在プリ機市場でトップシェアを誇るフリューを取材(シェアは2025年3月末時点。フリュー調べ)。広報の村上実紅さんと門脇彩さんに話を伺った。

求められていなかった似顔絵シール

フリューのプリントシール機事業はオムロンのエンターテインメント分野におおける新規事業を検討するプロジェクト。2003年にオムロン100%子会社オムロン エンターテインメントとなり、2007年にフリューとしてオムロンから分社独立した。

プリ機市場に参入したのは1997年。新規事業としてエンタメに注目していた中、プリント倶楽部®の大ヒットに触発され、オムロンが防犯カメラなどに搭載している顔認証技術を生かしたプリ機を開発することにした。

この顔認証技術を生かしたフリュー初のプリ機が『似テランジェロ』。撮影した写真を元に似顔絵シールをつくるものだった。

『似テランジェロ』(1997)。顔認識技術を活用しユーザーの似顔絵を作成する
『似テランジェロ』で出力できる似顔絵シール例

ただ、『似テランジェロ』は全然売れなかった。改良版を出すものの似顔絵の作風を変えただけで販売状況は変わらず、大量に売れ残ってしまった。

不振の原因を探るべく当時のエンジニアが女子高生から話を聞いてみたところ、返ってきた答えは「似顔絵なんていらない」「プリがいい」といったもの。女の子たちは似顔絵を求めていなかったことを知った。

その後オムロンは、大量に売れ残った『似テランジェロ』を売り切るためさらに改良。似顔絵ではなく写真でシール印刷するように改良され、1998年に『アートマジック』として発売している。村上さんは次のように話す。

「顔認証技術に自信を持っていたことから、その技術を活用して似顔絵化すればウケると思って『似テランジェロ』を製品化しましたが、まったくマーケティングをしておらず若い女の子のニーズを掴んでいなかったのです」

「盛れる」感覚の変遷とプリ機の進化

『似テランジェロ』の失敗からユーザーの声に寄り添うことの大切さを学び、プリ機の開発ではこれ以降、定期的にユーザーインタビューを実施。ユーザーの声を生かしていくことにした。

「女の子の『盛れる』という感覚は時代とともに変わりますが、『盛れる』感覚を叶える写りや機能を一貫して提案してきました。企画担当者が女子高生の目線を持ち続けつつプリ機のブラッシュアップを図っています」と村上さん。「盛れる」の意味がいかに変化してきのかを、プリ機の進化とともにおさらいしていきたい。

■1995年~2000年代前半

誰もが憧れるカリスマ的存在の顔になれることが盛れており、そのようなニーズを叶える機能がプリ機に実装されたのがこの頃。1999年頃に白肌・金髪の白ギャルがブームになった時は、顔が白飛びするほどストロボで強い光を当て鼻が見えなくなるほどハイキーな仕上がりになるプリ機が人気を集めた。

オムロン(現フリュー)も1999年に『ハイキーショット』という機種を発売。白バックの前に立ち強い光を当てて撮影することで顔が白く写ることになり、美白調整も多段階でできるようにした。「当時、美白を強調したプリ機の中には、白いバックの後ろから光を当てる機種もありました」と門脇さんは話す。

『ハイキーショット』(1999)。照明の効果で顔を白く飛ばすハイキーな仕上げが特徴で、多段階の美白調整が可能
『ハイキーショット』で出力できる写真例。鼻がなくなるほど白く飛ばしている

■2000年代中盤~後半

2006年頃から流行したのが、カリスマ読者モデルに象徴されるつけまつげやカラーコンタクトレンズを使った目力強調メイクであった。2007年に発売した『美人-プレミアム-』には目を自動的に大きくするデカ目処理が標準搭載され、小顔にしつつ目を拡大できるようになった。プリ機で撮った写真はカメラ撮影した写真とはまったく印象が異なるというイメージをつくったきっかけが『美人-プレミアム-』だという。

『美人-プレミアム-』はプリ機の企画に女性が関わりデカ目の先がけとなった機種。その成果は、目が横にも大きくなるよう調整したことに反映された。男性だけで企画していた時は縦方向のみ拡大すればいいと考えていたが、女性はメイクする時にアイラインを引いて横にも大きく見せることから、女性社員が横方向にも目を大きくすることを発想して実現した。

『美人-プレミアム-』(2007)。自動的に瞳を大きくするデカ目処理が標準搭載されている。プリ機で撮った写真はカメラで撮影した写真と印象が異なるイメージをつくるきっかけになった
『美人-プレミアム-』で出力できる写真例。小顔にしつつ目を拡大することができる

「この頃の『盛れる』は、『私いつもよりカワイイ』『なんか盛れている気がする』ぐらいのレベル感です」と門脇さん。ガッツリ盛れるようになるのは『美人-プレミアム-』以降の機種からだが、これ以上目を大きくしたら顔からはみ出るほどまでになったことから、フリュー社内でも現状を問題視するようになり、以後は目の拡大を抑え気味にした。

■2010年代前半

清楚系アイドルの登場で、ナチュラルだけど盛れていることが基準になった。2011年に発売された『LADY BY TOKYO』では、陰影により自然な立体感がでるようにしており、新たに肌のぼかし処理や髪の毛のツヤ感をアップする処理を搭載した。

『LADY BY TOKYO』(2011)。陰影により自然な立体感がでるようにしており、新たに肌のぼかし処理や髪の毛のツヤ感をアップする処理を搭載した
『LADY BY TOKYO』で出力できる写真例。不自然なデカ目にはならず、ナチュラルだけど盛れている写真が撮れる

また『LADY BY TOKYO』ではオシャレな世界観に合わせて黒い内装を採用。「黒い背景は盛れにくい」と言われていたが、高度な画像処理技術と最新の光学系の採用により黒い内装でも盛れる写真が撮れるようになった。

■2010年代中盤

インスタグラマーやインフルエンサーが台頭してきたことから、2015年頃から女の子が憧れを抱く対象が多様化。プリ機も機種ごとに独自の特徴を持たせるようになってきた。

例えば、2015年に発売された『KATY』は、当時流行した韓国メイクをしたような仕上がりになるのが特徴。涙袋を強調して撮影できるよう上から撮影するようにしたほか、涙袋の凹凸や二重の幅を強調する画像処理が行なえるようにした。現在のプリ機では当たり前の、ライブビューモニターに映し出された盛れた姿を見ながら撮影する機能も『KATY』から採用された。

『KATY』(2015)。涙袋を強調して撮影できるよう上から撮影するようにしたほか、涙袋の凹凸や二重の幅を強調する画像処理が行なえるようになった
『KATY』で出力できる写真例。なめらかぷるん肌と涙袋や二重幅をしっかり強調した目の盛れ感が印象的な写りになる

■2010年代後半

2018年頃から、プリ機で撮った写真をInstagramにアップして「いいね」をもらうことを考え始める女の子が増えてきた。プリ機も、シールそのものや外装で映えるものが登場したほか、カラフルな背景や撮影ブース内のミラーボールライトなどで楽しげなノリを演出でき、映える写真が手軽に撮れるようになってきた。顔だけが「盛れる」写真を撮影するというよりは、オシャレで映えるようなプリを作品のようにつくり込めるように変化した。

2018年に発売された『SUU.』や2019年に発売された『#アオハル』はこのニーズに応えた機種。『SUU.』は透ける素材に写真を印刷した半透明のシールができる。『#アオハル』は、撮影者がカメラの角度や高さを自由に変えることができ、立ったままだけではなく座った状態でも撮影が可能。同時に15人でも撮影でき、広々とした撮影ブース内は、足が伸ばせたりイスに座ってポーズを取って撮影したりすることも可能だった。

『SUU.』(2018)。インスタ映えを意識しているユーザーニーズに応え、半透明のシールに写真が印刷できるようになっている
『SUU.』で出力できる写真例。ふわっと光る髪や透き通る肌で透明感あふれる写りを実現した
『SUU.』で撮った写真を半透明の透けちゃうシールに出力したところ
『#アオハル』(2019)。カメラの高さ、角度、向きを撮影者が自由に変えて撮影でき、座りポーズや全身、大人数での撮影も思いのままにできる
『#アオハル』で出力できる写真例。座って脚を伸ばしたポーズなども撮れる

■2020年代

コロナ禍により家で過ごす時間が増えSNSを利用する時間が増加。多くのYouTuberやTikTokerが台頭するようになった。また、骨格診断やパーソナルカラー診断が注目されるようになり、診断結果を元に自分の魅力を生かしてよりよく見せようとする意識が高くなってきた。

2022年に発売された『ハルイロセカイ』は、目や鼻といったパーツごとにレタッチでき、細かく調整できるようになった。とはいえ、選択したレベルに応じたレタッチしかできず、現在搭載されているスライドバーを調整することでレタッチのレベルを任意で設定できるようになったのは、同じく2022年に発売された『ルートミー』からであった。

『ハルイロセカイ』(2022)。目や鼻といったパーツごとに細かくレタッチできるようになった
『ハルイロセカイ』で出力できる写真例。気になるパーツをタッチするとメイクパレットが出現しメイクできるようになっている

スライドバーの操作でレタッチのレベルが任意で調整できるようになったのは、画像処理の高速化が大きい。村上さんは次のように話す。

「それまでのレタッチはパーツごとにレタッチのパターンをあらかじめ全部生成しておき、選択されたレベルに応じて加工するものでした。膨大な加工パターンの中から選択して加工することからすべてのレタッチパターンの生成に時間がかかりましたが、スライドバーの動かし具合と加工の具合を連動させる画像処理技術を開発したことで、加工時間を短縮すると同時にレタッチのレベルも任意で調整できるようになりました。レタッチのほか、メイクの濃さなどもスライドバーの調整で任意に変更できるようになっています」

レタッチでできることも拡大。顔の大きさや目、鼻、口といった顔の各パーツのサイズ変更のほか、頭の大きさや人中(鼻の下から上唇までの間の縦溝)の長さも変更できるようになっている。

最新のプリ機は無加工風の仕上げも可能

いまどきティーンの女の子にとって「盛れる」とはどういう状態を指すのか? 大きな特徴が2つある。

まず1つが、撮影する体験や過程を楽しめること。新型コロナで楽しいことができなかった分、遊びに魂を込める子が多くなり、その様子を撮り、ショート動画としてTikTokなどのSNSへアップするのがトレンドになってきている。

2024年に発売された『EVERFILM』にはプロジェクターを搭載。プロジェクターを使ったリアル背景投影で撮影空間を演出して楽しい雰囲気で撮影できるようになったことから、過度に顔をキメなくても全体的にオシャレで盛れる仕上がりの写真が撮れるように変わってきた。

『EVERFILM』(2024)。プロジェクターで撮影空間を演出し楽しい雰囲気で撮影できる
『EVERFILM』で出力した写真例。プロジェクターで背景投影し撮影空間を演出できることから、過度に顔をキメなくても全体的にオシャレで盛れる仕上がりにすることができる

プロジェクターで投影できる背景は150パターン程度。その日の撮影テーマに合わせて背景を選ぶことがも可能だ。「投影できるパターンによっては名前を打ち込んで一緒に映し出して撮影できるものもあります。名前の代わりに誕生日を打ち込で撮影すれば、誕生日のお祝いで撮影することもできます」と門脇さんは話す。

もう1つは、無加工。ありのままの日常をシェアするSNS『Be Real』が人気になったことなどから、無加工だけど盛れている、全体の構図も含めて盛れていることを表現する志向になり、細部にこだわって撮影する女の子が増えた。

2025年5月に発売されたばかりの最新機種『Hyper shot』は、盛れ感が無加工風、ナチュ盛れ(自然だけどちゃんと盛れている)、プリ盛れ(従来のプリ機らしくしっかり盛れている)の3パターンから選択できるようになっている。また、背景にLEDライトをふんわり反射させることで人物を浮かせるように見せることができ、自然に全体がオシャレに仕上がる質感をつくり出せるようにした。

『Hyper shot』(2025)。無加工風、ナチュ盛れ、プリ盛れから選べる3つの写りとハイアングル撮影が楽しめる
『Hyper shot』で出力できる写真例(ハイアングル撮影)
『Hyper shot』で出力できる写真例(無加工風)
『Hyper shot』で出力できる写真例(ナチュ盛れ)
『Hyper shot』で出力できる写真例(プリ盛れ)

プリ機が30年間支持され続けてきた理由

フリューの予測では、現在のトレンドである顔だけではなく全体の仕上がりが盛れていることはしばらく続くとみている。顔が盛れている感覚についても同様で、現在主流の自分らしさを生かした自然な感じのする盛れ感を重視する傾向が続くと分析する。

プリ機は女の子のトレンドとともに歩み進歩してきた。ティーンの女の子たちが持つ自己肯定感(自信を持ちたい、理想の自分でいたといった思い)、自己表現欲求(自分たちらしさを表現したいという思い)、つながりたい欲求(友だちとの共通体験で仲を深めたい、思い出をつくりたいといった願望)を企画力や技術で叶えてきたから30年間支持され続けてきたのだろう。

なお、フリューではプリ機誕生30周年を記念したプロジェクトをスタートさせる。まず第1弾として、同業のセガ フェイブをはじめとする各社の協力を得ながら、プリ機30年の歴史をまとめた『プリの歴史30年』を制作し、サイト上での公開を始めた。本稿で紹介しきれなかったプリ機(フリュー以外のプリ機も含む)や当時の流行、撮影サンプルを網羅。懐かしさに浸れるだけではなく、資料的価値が高いので見どころ満載だ。

関連情報
https://www.puri.furyu.jp/
プリの歴史30年
https://www.puri.furyu.jp/pribirth_30anniv/

取材・文/大沢裕司

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