
ハイトワゴンと呼ばれる軽自動車の代表格の1台が、ダイハツ・ムーヴ。その新型が、タントやムーヴ・キャンバスのような両側スライドドアを備えて登場。その変貌ぶりに驚いた人も多いはずだ。とはいえ、今や軽自動車の主流はN BOXやスペーシア、タントなどの両側スライドドアを備えたスーパーハイト系であり、新型ムーヴを開発するにあたり、後席の乗降性に優れた両側スライドドアが欠かせない・・・という判断だったことは想像に難くない。何しろ、2020年以降に販売された軽自動車のうち、約半分以上(現在では約60%)がスライドドア車なのである。
しかし、ムーヴより一足早く、軽自動車に革命を起こし、ハイトワゴンのパイオニアとなった、ムーヴの直接的ライバルであるスズキのワゴンRも、先代ムーヴの派生車であるムーヴ・キャンバス同様の両側スライドドアを備えたワゴンRスマイルを2021年に発売している。
新型ムーヴとワゴンRスマイルの違いを解き明かす!
ただし、新型ムーヴ、ワゴンRスマイルともに、タントやスペーシアのようなスーパーハイト系軽自動車では決してなく、似て非になるジャンルの軽自動車なのである。その理由は全高にある。具体的には、新型ムーヴの全高はタントの1765mmより100mmも低い1655mm、ワゴンRスマイルの全高もスペーシアの1785mmに対して1695mmと90mmも低い、ハイトワゴンと変わらない全高なのである。ちなみに、リアヒンジ式ドアだったハイトワゴンの先代ムーヴの全高は1630mm。新型との全高差は25mmでしかないのだ(いずれも2WD車)。つまり、重心感覚、視界は、スーパーハイト系とは異なる、ハイトワゴンに近いということになる。
ここではそんな新型ムーヴとワゴンRスマイルの違いを解き明かしていきたい。ワゴンRスマイルの直接的ライバルはムーヴ・キャンバスだが、あえて両側スライドドアを備えたハイトワゴン同士の新型となったムーヴと比較してみた。
最大の違いは、新型ムーヴは街乗りにちょうどいいNAエンジンと、高速走行や一家に一台のファーストカーとしても使いやすいターボエンジンを揃えていること。一方、ワゴンRスマイルは女性ユーザー、街乗り向けにマイルドハイブリッドと非マイルドハイブリッドのNAエンジンのみを用意していることだ(現時点で。ムーヴ・キャンバスはターボモデルが加わっている)。
ちなみに、NAエンジンのスペックは、新型ムーヴが52ps、6.1kg-m。車重860kg。WLTCモード燃費25.3km/L。ワゴンRスマイルはエンジン49ps、5.9kg-m、モーター2.6ps、4.1kg-m。車重はマイルドハイブリッドモデルで870kg(非マイルドハイブリッドは840kg)。WLTCモード燃費25.1km/L(いずれも2WD車)となる。小回り性、駐車性にかかわる最小回転半径は両車ともに4.4mだ。
後席は身長185cmでも余裕!?
では、ハイトワゴン的な全高に両側スライドドアを備えた両車の室内空間の広さ、パッケージを比較してみよう。身長171cmの筆者のドライビングポジション基準で、新型ムーヴは前席頭上220mm、後席頭上195mm、後席膝周り最大340mm(スライド位置による)。着座性、立ち上がり性に大きく影響するヒール段差(フロアからシート先端までの高さ)300mm。
一方、ワゴンRスマイルは前席頭上230mm、後席頭上190mm、後席膝周り最大285mm(スライド位置による)。着座性、立ち上がり性に大きく影響するヒール段差(フロアからシート先端までの高さ)350mm。
こうして比較すると、前後席頭上スペースは同等。しかし後席膝周り空間は新型ムーヴが勝っている。が、これにはパッケージ的なカラクリがある。より着座性、立ち上がり性に優れたヒール段差を持つのはワゴンRスマイルで、後席座面を高くセットしているため、後席乗員の膝頭から前席シートバックまでの水平距離=膝周り空間は、前席の寝たシートバックのより高い位置で計測することから数値的に短くなってしまうのだ。そもそも後席膝周り空間最大285mmでも十分に広く、大人がゆったり足を組めるスペースであり(コンパクトミニバンのホンダ・フリードの2列目席最大240mm。大型SUVの三菱アウトランダー最大250mm)、それでも十二分なスペースなのである。その上でワゴンRスマイルは高めのヒール段差による着座性、立ち上がり性に優れ、スライドドアから乗降する後席のパッケージ的にはワゴンRスマイルが勝っているとも言えるのだ。
では、ラゲッジルームはどうか。新型ムーヴは開口部地上高約680mm。後席使用時のフロア奥行き290~520mm(後席スライド位置による)、フロア幅約880mm、最低天井高約840mm。ワゴンRスマイルは開口部地上高約695mm。後席使用時のフロア奥行き285~440mm(後席スライド位置による)、フロア幅約900mm、最低天井高約895mm。最大奥行きで新型ムーヴが、フロア幅と最低天井高でワゴンRスマイルがリード。床下収納スペースに余裕があるのは新型ムーヴのほうだ。
後席を格納してフラット化したときのフラット度では、スズキの他軽自動車でもこだわりあるフラットアレンジ性に長けたワゴンRスマイルがややリードしている印象だ。
こうして新型ムーヴとワゴンRスマイルを比較してみると、現状、両側スライドドアを備えたハイトワゴンで、遠出、高速走行、山道走行の機会が多いのであれば、189.75万円の新型ムーヴの最上級ターボモデルとなるRSが候補に挙がる。いや、街乗りメインで経済的に乗りたい・・・というなら、ワゴンRスマイルのマイルドハイブリッドモデルとなる176.66万円のワゴンRスマイルHYBRID S(2トーンルーフ)がお薦めだ。今後、ワゴンRスマイルにターボモデルが加わるかどうかは分からないが、現状、新型ムーヴのターボモデルとワゴンRスマイルのマイルドハイブリッドNAエンジンモデルの差額は約13万円である。
なお、@DIMEでは新型ムーヴのNA、ターボモデルの試乗記も掲載しているので、参考にしていただきたい。
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文・写真/青山尚暉