
“口コミ”で伝えられる話は信じやすい!?
SNS全盛の時代を迎えているからこそ、再び“口コミ”の影響力が高まっているのかもしれない。なんとなく疑わしい話でも、人から直接伝えられると信じやすくなることが最新の研究で報告されている。
ある女性タレントが最近出演したテレビ番組で、かつて霊感商法に騙されていた過去について話し「8年間で1500万円も使った」という驚きの発言はその後にニュースにもなっている。
こうした悪質な霊感商法やマルチ商法、あるいはネットワークビジネスの被害者は今も後を絶たないのだが、その危険性について執拗に警鐘が鳴らされているにも関わらず被害が無くならないのはなぜなのか。
その鍵を握るのは“口コミ”であることが最新の研究によって示唆されている。“口コミ”で伝えられる話はより信じられやすくなっていたのだ。
トランプ暗殺未遂事件の“陰謀論”を信じるのか!?
米ラトガ―ス大学やハーバード大学をはじめとする研究チームが今年6月に「PNAS Nexus」で発表した研究では、2024年7月のドナルド・トランプ暗殺未遂事件に関する陰謀論をSNSや報道機関から聞いた場合よりも、知人から聞いた場合の方が信じる可能性が高くなることを示唆する興味深い内容になっている。
陰謀論はFacebookやX(旧Twitter)などのプラットフォームを通じて広く拡散しているが、研究者たちは、対人関係のネットワーク、つまり“口コミ”が信念形成においてより大きな役割を果たしていることを突き止めたのだ。
2024年7月13日のドナルド・トランプ暗殺未遂事件は、政治的に偏った誤情報の火種となり、民主党の工作員が攻撃の背後にいると示唆する声もあれば、この事件全体がトランプの政治的利益のために仕組まれたものだとの主張など、さまざまな陰謀論が飛び交った。
陰謀論に関する信念がどのように形成され、広がっていくのかを検証するのに理想的な環境が用意されたことから、研究チームは銃撃事件発生から数日後の7月17日から21日まで、2765人のアメリカ人成人に調査を行った。
参加者はこの事件と事件にまつわる陰謀論を初めて知った際の情報ソースとしてテレビ、ラジオ、新聞、SNS、ニュースサイト、ポッドキャスト、または知人、を選んで回答した(複数回答可)。
その次に参加者は耳目にしたその陰謀論について「まったくあり得ない」から「きわめてあり得る」までの5段階評を行った。
参加者の41%が、民主党の工作員が攻撃の背後にいるという陰謀論を聞いたことがあると回答し、情報ソースとしてこのうち53%がSNS、28%がテレビ、32%が知人からの“口コミ”であった。この陰謀論を聞いた人の約29%はそれが真実である可能性が高いと考えていた。
SNSは陰謀論拡散の“犯人”ではなかった
2つめの説、つまりこの出来事は仕組まれたものだという陰謀論はさらに広く流布しており、回答者の53%が知っており、情報ソースとしてそのうちの52%はSNS、34%は個人的な知り合いからの“口コミ”、21%はテレビであった。この陰謀論を知った者の約29%は真実である可能性が高いと回答している。
これまでは陰謀論を蔓延らせる“犯人”としてSNSが名指しされてきた風潮もあるのだが、研究チームが回答を分析した結果、SNSは陰謀論コンテンツに遭遇する可能性を高めてはいるものの、人々がそれを信じる可能性を高めてはいなかった。この結果は、SNSが陰謀論を信じさせる主な原動力であるという、これまでの言説に反するものとなった。
その一方で注目すべきは、対人ネットワークの“口コミ”を通じて陰謀論を知った者は、左派と右派のどちらであれそれを信じる可能性が有意に高かったのだ。
すべての情報源の中で対人コミュニケーションだけが、両方の陰謀論への信念と一貫して正の相関関係にあり、“口コミ”で知った場合、その陰謀論が真実であるという認識確率は、0~4のスケールで0.2~0.4ポイント上昇していたのである。
“口コミ”の内容は重要視されている
これらの調査結果は、SNS全盛の時代においても友人知人からの“口コミ”が重要だと受け止められていることを示唆していると言えるだろう。ネットやSNSで特定の情報が“バイラル”したり“バズったり”することはよくあることだが、それがその情報の信ぴょう性を高めてはいるわけではないことにもなる。
“口コミ”の信頼性は考えられていたよりも高かったということになりそうだが、陰謀論すら信じやすくしているということは、マルチ商法やネットワークビジネスなどでも“口コミ”の効果はいかんなく発揮されていそうである。
今後の研究では、ある特定の信念が定着しやすくなるような、特定の関係性やコミュニケーションスタイルのパターンがあるのかどうか、あるとすればそれはどのようなものなのかを探ることで、社会における誤情報の拡散を抑制するためのより効果的な介入策を設計できる可能性が拓けてくる。さらには悪質なビジネスやカルトへの対抗策を講じることにも繋がってほしいものだ。
※研究論文
https://academic.oup.com/pnasnexus/article/4/6/pgaf193/8162668