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「Apple Watch Series 11」の新機能・高血圧アラートが日本国内で使えないかもしれない理由

2025.09.12
澤田真一 (ライター)

先ごろ発表されたApple Watch Series 11。日本時間9月10日午前2時に開催されたオンラインイベントで公開されたこの製品のプロモーションビデオは、ある意味で「コマーシャル大国アメリカ」を思わせるものだった。

Apple Watchは、文字通り人命を救う製品である。その具体例をいくつか取り上げ、Apple Watchがどれほど人々の健康と生命の維持に貢献したか――ということを大々的にアピールしたのだ。日本では、絶対に放映できない動画である。

その上で、Apple Watch Series 11では「高血圧アラート」という新機能を盛り込んでいる。が、案の定日本向けの商品紹介ページには、この高血圧アラートに関する説明は記載されていない。

「Apple Watchに命を救われたね」

上述のイベントで公開されたプロモーションビデオの中で、AppleのCEOを務めるティム・クック氏はApple Watchについてこう述べている。

「Apple Watchについて特に素晴らしいと思うのが、この製品が世界数百万の人々に健康上の深刻な問題の可能性を知らせ、多くの命を守っていることです。転倒検出と衝突事故検出、そして心拍数のモニタリングと睡眠の記録は緊急時に命を守る手段となり、他にも多くの役割を果たします」

その後、ビデオはApple Watchによって命を救われた人に焦点を当てたドキュメンタリーに移行する。

午前5時にApple Watchが振動し、そこで安静時の心拍数は172、血中酸素レベルは88%だったことを知った男性。病院でレントゲン検査をしてみると、片方の肺が潰れていたという。彼は緊急手術を受け、一命を取り留めた。

医者からは「Apple Watchに命を救われたね」と声をかけられたそう。

このビデオは、筆者を含めた日本人ジャーナリストから見れば素直に感動できないものだ。日本の企業が同様のビデオを公開すれば、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、いわゆる薬機法に触れる可能性が極めて高いからだ。

高血圧アラートは100万人以上の人命を救える?

しかし、Appleはアメリカの企業。日本の法律などまったく気にすることなく、Apple Watch Series 11の「全く新しい機能」に関する説明を行う。

アメリカ心臓協会は、高血圧症を「サイレントキラー」と呼んでいる。明確な自覚症状がないまま発症する可能性が高いからだ。Apple Watch Series 11ではその対策として、これを装着するだけで高血圧症を検知・通知することができる「高血圧アラート」を実装した。光学式心拍センサーを使った測定によりデータを収集し、そこから心拍に対する血管の反応を分析。高血圧をいち早く発見する仕組みという。

このシステムを開発するために、計10万人以上が研究に参加したとAppleは主張しているが、一方で「全ての高血圧の症例を検知できるわけではない」とも付け加えている。だがその直後に、

「私たちの見込みでは、最初の1年で自覚症状のない高血圧症を持つ100万人以上の人々に通知を送信できます」

と、自信たっぷりに語った。

日本向けの製品紹介ページに「高血圧アラート」はない

この高血圧アラートは、近日中に米FDAを含む認可当局のライセンスが発行され、9月までに世界150の国と地域で利用できるようになるという。

だが、この150の中に日本は入っていない可能性がある。

現状、日本向けのApple Watch Series 11の製品紹介ページには高血圧アラートの説明は一切ない。この製品が日本で発売された時点で、高血圧アラートは未実装の観測が濃厚だ。

では、日本向けApple Watch Series 11に高血圧アラートが実装されるのはいつか? それについては「一企業に過ぎないAppleの都合で決定できることではない」と言い切ることができる。

厚生労働省の認可が必要

2020年9月、厚生労働省がAppleの開発した心電図測定アプリと不安定な心拍を通知する機能に対して医療機器としての認証を発行した。それが日本向けのApple Watchに実装されたのは翌21年1月。その際に厚労省は、各都道府県医療当局や医療機関等に対する『「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について』という資料を作成した。

以下、留意点の項目の一部を引用したい。

2.留意点
(1) Appleの心電図アプリケーション
(1) 本品は、心房細動の兆候(心房細動を示唆する波形)の検出を補助的に行うものであり、従来の医師による診断に代わるものではない。通知結果は1つの参考指標であり、実際の病態と異なる可能性がある。
(2) 従来のホルター心電計や12誘導心電計等とは異なるため、不整脈と診断されたことがある患者のフォローアップや確定診断等に使用し、医学的判断の根拠として使用することは意図しておらず、医学的判断の根拠として使用できることの検証はされていない。
「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について-厚生労働省

一言で言えば、「Appleのアプリの通知はあくまでも参考程度のもので、鵜呑みにしてはいけない」ということだ。「不整脈と診断されたことがある患者のフォローアップや確定診断等に使用し、医学的判断の根拠として使用することは意図しておらず、医学的判断の根拠として使用できることの検証はされていない」という部分は非常に重い文言である。

今後、Apple Watch Series 11の高血圧アラートが医療機器として承認されるとしたら、その前段階として厚労省内での検証と審査が待っているはず。当然ながらそれ相応の時間は要するが、言い換えれば我が国の省庁は世界的大企業に対するイニシアティブを取り続けているということであり、ここは絶対に妥協してはいけない部分なのだ。

【参照・画像】
Apple Watch Series 11-Apple
Apple、Apple Watch Series 11を発表-Apple
「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について-厚生労働省

文/澤田真一

ライター
澤田真一
1984年生まれ。静岡市生まれ相模原市育ち。グラップリング歴20年超。世界のスタートアップ情報からガジェットレビュー、Apple製品、キャッシュレス決済、その他諸々のジャンルの記事を執筆。

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