
ドラえもんのひみつ道具には「ほんやくコンニャク」というものがある。これを食べれば、世界中どころか宇宙中のあらゆる言語を理解することができるようになるのだ。筆者自身、「ほんやくコンニャクがあったらいいのに」と考えたことが何度もある。
日本時間9月10日のAppleのオンラインイベントで発表されたAirPods Pro 3は、まさにほんやくコンニャクのような機能が備わっている。双方向のコミュニケーションも可能という「ライブ翻訳」だ。これを使えば、世界の主要言語を難なく理解できるようになるとのこと。
日本語は年内までに追加予定としているが、ともかくAirPodsは単なるワイヤレスイヤホンではなく、言語の壁すらを乗り越える「AI連携ガジェット」になってしまったようだ。
AirPodsが切り開いた道
初代AirPodsの発売は2016年12月の出来事。この当時、イヤホンはまだ有線式が主流だった。iPhoneも2015年発売のiPhone 6sまではイヤホンジャックが内蔵されていた。この機種まで、Apple自身も「イヤホンといえば有線式」という固定観念を持っていたということだ。
それが翌16年発売のiPhone 7からは、イヤホンジャックが廃止となる。この仕様については、大きな議論が巻き起こった。「イヤホンジャックは必要だ!」という声が、まだ大きかったのだ。同年発売の初代AirPodsはともかくとして、ワイヤレスイヤホンは音ズレを起こしやすく充電の必要もあり面倒なガジェット……という意識がユーザーの間にはあり、またそれは事実でもあった。
しかし、AirPodsが切り開いた「Bluetooth接続イヤホン普及の道」は今や「なくてはならない生活道路」のように舗装されている。音ズレの問題はBluetoothのバージョンナンバーが大きくなるにつれて改善され、バッテリー持続時間も長くなった。イヤホンに内蔵されているドライバーも大きくなったため、音質も格段に良くなっている。その上で、アクティブノイズキャンセリング機能も充実するようになった。
双方向の会話も可能に
AirPodsがBluetooth接続イヤホンという代物を「オモチャのようなガジェット」から「一人前の音響機器」にしたことは間違いないだろう。
そして今、AirPods Pro 3がワイヤレスイヤホンに新しい役目を与えようとしている。
此度発表されたAirPods Pro 3の目玉機能は、やはりライブ翻訳だろう。これについて、Appleのプレスリリースでは以下のように説明されている。
AirPods Pro 3では、ライブ翻訳により、一部の言語で対面のコミュニケーションが可能になり、ベータ版で利用できます。この革新的なハンズフリーの機能は、コンピュテーショナルオーディオとApple Intelligenceによって実現し、新しい場所へ旅行する時でも、職場や学校で共同作業をする時でも、単に大切な人と会話する時でも、人々が簡単につながるために役立ちます。ライブ翻訳をオンにすると、ユーザーはAirPodsを装着して自然に話すことで、別の言語を理解してほかの人とコミュニケーションをとれるようになります。このハンズフリーの機能を持っていない相手と対話するには、iPhoneを横向きのディスプレイとして使うという選択肢があり、ユーザーが話している内容のリアルタイムの文字起こしが相手の希望する言語で表示されます。相手が話している時は、会話の内容がAirPodsでユーザーの希望する言語に翻訳されます。
(究極のオーディオ体験をもたらすAirPods Pro 3を発表-Apple)
これを筆者なりに嚙み砕いて書き替えたい。まず、AirPods Pro 3を装着した状態で誰かに話しかけられたとする。その相手は自分の知らない言語で話している。が、AirPods Pro 3はそれを拾い上げ、設定言語に翻訳した上でその音声を流してくれる仕組みだ。Apple Intelligenceと連携した機能である。
こちらからのアウトプットは、接続先のiPhoneの画面に字幕が表示される。このあたり、現在流通している自動翻訳機とほぼ同等の機能と言えるが、それは言い換えると「自動翻訳機の役割をiPhoneとAirPods Pro 3が奪ってしまっている」ということ。カメラ、携帯型オーディオ、カーナビなどに続いて自動翻訳機も「スマホにお株を奪われたガジェット」になりつつあるということか。
なお、話し相手もAirPods Pro 3とApple Intelligence対応iPhoneを所持していた場合、双方向の会話が可能になる。
この部分の利便性が認められて、AirPods Pro 3が爆発的に普及する可能性はあるだろう。そう、かつての初代AirPodsのように。
前モデルでも利用可能に?
ただ、AirPods Pro 3が普及するとユーザーにとっては「AirPods Pro 3が不必要になる瞬間」が訪れ、実はその部分がAirPods Pro 3の真価ではないかとも想像してしまう。
どういう意味かというと、AirPods Pro 3が使用者の語学力を上げてしまうということだ。
AirPods Pro 3は、自分の話した言葉をiPhoneに表示してくれる機能がある。それをやっているうちに、自分自身がその言葉のスピーカーになっていく……という現象は当然あるだろう。
人間の成すべき「業」をAIに任せっきりにするのではなく、AIと接することで自分自身に「技」が身に着くという使い方が見込まれるのだ。
なお、10日のイベントで公開されたプロモーションビデオでは、まるでAirPods Pro 3の専売特許のような機能という表現のされ方だった。が、Apple製品情報リークメディアのMacRumorsによると、後日AirPods Pro 2とAirPods 4でもライブ翻訳機能が利用可能になる予定だという。iPhone 15 Pro以降のApple Intelligence対応機種があり、なおかつそれがiOS26に更新されていれば、ライブ翻訳を利用できるとのこと。
仕組みとしては、AirPodsのマイクで相手の声を読み取り、それを接続先のiPhoneに認識させるというものなので、前モデルのAirPodsにも機能を提供できるらしい。
Appleは対応言語について、「英語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、スペイン語で利用でき、年末までに日本語、イタリア語、韓国語、中国語(簡体字)の追加4言語に対応する予定です」としている。
【参照・画像】
AirPods Pro 3-Apple
究極のオーディオ体験をもたらすAirPods Pro 3を発表-Apple
New Live Translation Feature Coming to AirPods 4, AirPods Pro 2-MacRumors
文/澤田真一