
世界で水道水を飲める国はわずか9か国。日本は水資源が豊富で、安全な水を飲める国だったが、最近はPFAS(ピーファス)が問題視されている。PFASとはペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、水や油をはじき、熱にも強い性質を持つため、ウォータープルーフの化粧品など様々な製品に幅広く使用されてきた。それらによってどんな健康被害が考えられるのか、京都大学地球環境学堂地球親和技術学廊准教授田中周平先生に聞いてみた。
PFASは「永遠の化学物質」
PFASは有機フッ素化合物のうち、人工的に作られたフッ素が多い化合物の総称で、この中ではPFOS(ピーフォス)や PFOA(ピーフォア)が代表的な化学物質である。1940年頃から日用品や工業用品に多く使われるようになったが、2000年頃から米国で環境汚染の危険性が広まり、2022年、米国素材メーカーの3MがPFASの製造から撤退するニュースを発表して、大きな話題となった。
PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれる通り、他の物質と化合しにくく、安定的で分解しにくい性質をもっている。田中先生によると、「PFOSは家庭用品の製造に使用されていたという報告はありません。PFOAはフッ素コート剤の製造過程で使用されていましたが、国内での製造・輸入禁止に先立って、企業の自主的な取り組みが始まっていました。カーペット等の繊維製品等にも使用されていますが、2019年に行われた6歳以下の子どもに対するリスク評価では、使い続けてもそのリスクは懸念されるレベルにはないとされました」と教えてくれた。
PFASの規制に関しては、国際条約であるストックホルム条約では廃絶等の対象物質に定められており、日本もこの条約に批准している。また、化学物質審査規制法により新たに新たな製造・輸入が禁止されている。
差がある日本と海外の暫定目標値
現在、PFASの影響は主に食事による口からの摂取が主な経路と考えられている。特に水からの摂取が注目されてきた。
環境省が2019~20年度にかけて主な公共用水域の地下水のPFOSとPFOAの調査を実施したところ、暫定目標値の50ng/Lを超える地域があることが、明らかになった。この暫定目標値は水道水や河川、地下水同等の水質の暫定目標値のことで、厚生労働省と環境省が設定した数値である。水道事業者による調査では2020年4月~2024年9月末までに42件が暫定目標値を超過していたと言う。
このPFOSとPFOAの暫定目標値は日本では50ng/Lだが、アメリカでは4ng/L、イギリスが100 ng/L、カナダは25種類のPFAS合計で30ng/L、EU加盟国では20種類のPFAS合計で100 ng/Lである。
ただし、「暫定目標値を超過していたからといって、直ちに健康被害の危険があるわけではありません」と田中先生は言う。人間が一生涯に渡って毎日摂取し続けても健康への悪影響が無いとされる摂取量はPFOSで20ng/kg体重/日である。ただ、この数値は現時点で得られたデータ・科学的知見から妥当と判断された数値であり、今後、データが蓄積されたら、見直す必要が出てくる可能性もある。
不明な点も多い健康被害だが不安は残る
PFASが人体に与える影響として、成人男女で可能性が高いと考えられているのが甲状腺疾患、血中コレステロール値の上昇、肝疾患、腎臓がん、精巣がん、妊娠高血圧症候群、出産後の出生体重の低下や発育遅延。子どもではワクチンへの反応の低下や乳腺の発達遅延などが考えられている。
一部の研究者の間では、これらの発症に関しては、結果に一貫性が無く、証拠は暫定的であるという見方もある。特にPFOSの肝臓がん、乳がんとの関連は証拠が不十分であるとの意見もある。東京都では人々の不安を払拭する意味からも、PFAS汚染の相談窓口を設置している。
田中先生は安全基準については、「日本では飲み水やトイレなどで一日一人平均260リットルもの水を使っています。この水をすべてアメリカ並みの4ng/Lレベルにすると、水道水のコストは今の倍以上に値上げされる恐れがあり、水道料金が払えない人が出てきてしまう恐れも出てしまいます」と、アメリカ並みの安全基準は飲用できる水道水を、洗濯、入浴、トイレ排水、庭への散水などにも利用する日本では、現実的では無いかもしれないと指摘している。
トイレの水にも飲料レベルの高い安全性を確保するのは、現実的ではない。とはいえ、健康被害が予想されるかもしれない化学物質を長期に渡って摂取し続けるのは、恐ろしい。
注目されるPFAS除去率99.9%以上のウォーターサーバー
せめて安全な飲み水を確保したい。そんな人々の声が高まり、富士山GXホールディングス(本社山梨県富士吉田市、代表取締役社長粟井英朗氏)はこのほどPFAS除去能力をアップさせたハイグレードな浄水カートリッジのウォーターサーバー「エブリィフレシャス」を発売した。独自製法の活性炭を使ったハイグレードタイプの浄水カートリッジは、PFASの除去能力が定量限界値0.1ng/Lで、除去率99.9%以上を実現させている。
ハイグレードタイプは有害物質38種類、細菌とウイルスが合計8種類、合計46種類の物質を除去できる。総ろ過水量は1200リットル。と、一般家庭で毎日3.3リットル使い続けると1年間の浄水が利用できる。もちろん水道水に比べると多少割高ではあるが、月額3,300円~(税込)と定額制で利用することができる。そのため、水道水への不安から、特に子供をもつ家庭での引き合いが多く、発売から好調に推移している。顧客へのアンケートでも「PFASが除去できる」点を評価して申し込む顧客が増えていると開発部長鳥飼亮太さんは言う。
「1~2年前より、既存のお客様からPFASに関するお問い合わせをいただくようになり、多くの方が不安を抱えていると感じました。製品開発に関してもそうした方々の声に背中を押された面があります。弊社では、今年4月よりハイグレードタイプのカートリッジを搭載したウォーターサーバーを発売しております。」(鳥飼さん)。
人々の間で少しずつ認識されはじめた水道水のPFAS汚染問題。田中先生は「わたしたちが飲んでいる水道水は、いったいどこの水源から来ているのか、ということを一人一人が知り、水質にも関心を持っていただくことが第一歩」と呼び掛けている。
文/柿川鮎子