
立派な大アゴを持つクワガタムシは子どもから大人まで大人気の昆虫ですよね。クワガタムシを実際に飼育したり、捕まえたりしたことのある人なら「どのクワガタが最強なのだろう?」と一度は考えたことがあるはず。そこで、今回は日本の代表的なクワガタムシに注目し、どのクワガタムシが最強なのかについて考えていきたいと思います。
日本の代表的なクワガタムシ
日本全国からは48種ほどのクワガタムシが知られており、地域によってもよく見られる種類は異なります。ここでは、そんな日本産クワガタムシの中から代表的でかつ注目度も高い5種類を紹介します。
(1)ミヤマクワガタ
北海道から九州まで広く分布している種類で、涼しい森をよく好み、山地や北日本などでは多く見られます。オスは特徴的な大アゴと冠のような頭を持っており、6~7月頃に現れる新鮮な個体には金色の毛が生えています。
(2)ノコギリクワガタ
ミヤマクワガタ同様に北海道から九州まで広く分布しており、平地から低山地でよく見られる種類です。東京都内でもよく見かけます。大きなオスは大アゴがぐいっと湾曲することから、水牛とも称されており、人気を博しています。
(3)オオクワガタ
北海道から九州まで広く分布していますが、数が激減してきており、絶滅危惧種にも指定されている貴重な種類です。その黒く美しい体を持つことから「黒いダイヤ」とも称され、ファンは非常に多く、日本産クワガタムシの中で最も人気がある種類と言えるでしょう。
(4) ヒラタクワガタ
東北地方南部から沖縄まで広く分布しており、平地から山地にかけて見られます。東日本に比べて西日本や南日本では数が多い傾向にあります。地域によって体の大きさや大アゴの形が異なり、いくつもの亜種が知られています。
(5)ヒメオオクワガタ
北海道から九州まで分布していますが、標高の高い山地のみに見られる種類です。平地に暮らすクワガタムシがクヌギやコナラの木などによく集まるのに対して、山地のヒメオオクワガタはヤナギやダケカンバなどの木にやってきます。
さまざまなポイントで日本のクワガタムシを比較してみよう!
さて、日本の代表的なクワガタムシを紹介してきましたが、やはりどの種類が最強なのかについて気になりますよね。そこで、今回はオスの最大の大きさ、成虫の寿命、採集難易度の3つの観点から比べてみたいと思います。
(1)オスの最大の大きさ
オスの最大の大きさは野生個体と飼育個体で異なるため、今回は野生個体に絞って考えたいと思います。野生個体で最も大きな個体が記録されているのはヒラタクワガタの対馬亜種・ツシマヒラタクワガタで、なんと81.4mmの個体が確認されています。ついで、ミヤマクワガタの78.6mm、オオクワガタの77.0mm、ノコギリクワガタの74.7mm、ヒメオオクワガタの58.0mmとなっています。
(2)成虫の寿命
成虫の寿命が最も長いのはオオクワガタで、3~5年ほどです(6~7年ほど生きることもあります)。ついで、ヒラタクワガタの2~3年ほど、ヒメオオクワガタの1~2年ほどです。ミヤマクワガタやノコギリクワガタは成虫の寿命が数ヶ月と思われがちですが、実は夏の終わりから秋にかけて羽化して次の年の初夏まで活動を開始せずにじっとしていることから成虫になってからの寿命は1年ほどです(ヒメオオクワガタも夏から秋にかけて羽化して次の年の夏に活動を開始します)。
(3)採集難易度
採集難易度が最も高いのもオオクワガタです。東北や甲信越の一部の地域などでは見つけることが可能ですが、それでも難易度は非常に高いです。ついで難しいのはヒメオオクワガタで、標高1000m以上の山地や北日本の限られた森で探す必要があります。ヒラタクワガタやミヤマクワガタはやや少ない場所もありますが、珍しいというほどではありません。ノコギリクワガタは身近でも見られる普通種です。いずれの種類も過度な採集は控えるようにしましょう。
最強なクワガタムシは?
ここまで、日本の代表的なクワガタムシを比較してきましたが、最強な種類はオオクワガタ、ヒラタクワガタ、ミヤマクワガタのいずれかと言えるでしょう。3種類とも自らの体重の数十~数百倍もの力で戦う相手や天敵を挟むことができます。
しかしながら、これらのクワガタムシは戦いを好み、自然界で常に戦っているわけではなく、餌場や異性を巡って戦うことがある程度です。ヒラタクワガタは少し荒い気性をしていますが、ミヤマクワガタやオオクワガタは温厚で、手のひらの上に乗せても挟んでくることはほとんどありません。
特にオオクワガタは寿命も長く、寒さにもある程度は強いので、飼育も簡単です。クワガタ初心者の方でも乾燥や直射日光などに注意しながら飼育すれば、何年も長生きさせることができます。
複数のクワガタムシを飼育していると、どのクワガタムシが最強なのか気になり、戦わせたくなるかもしれませんが、あまり頻繁に戦わせてすぎてしますと、クワガタムシは弱ってしまいますし、最悪の場合、死んでしまうこともあります。意図して戦わせなくても、狭いケースに何匹も入れていると、戦い始めてしまうこともあるので、なるべく容器を分けて飼育してあげるようにしましょう。クワガタムシの立場になって大切に飼育してあげることが大切です。
昆虫ハンター・牧田習
博士(農学)。1996年、兵庫県宝塚市出身。2020年に北海道大学理学部を卒業。同年、東京大学大学院農学生命科学研究科に入学し、2025年3月に同大学院博士課程を修了。昆虫採集のために14ヵ国を訪れ、9種の新種を発見している。「ダーウィンが来た!」(NHK)「アナザースカイ」(NTV)などに出演。現在は「趣味の園芸 やさいの時間 里山菜園 有機のチカラ」(NHK)、「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)にレギュラー出演中。昆虫をテーマにしたイベントにも多数出演している。
著書:「昆虫博士・牧田習の虫とり完全攻略本」(小学館)、「昆虫ハンター・牧田習のオドロキ!!昆虫雑学99」(KADOKAWA)、「昆虫ハンター・牧田習と親子で見つけるにほんの昆虫たち」(日東書院本社)、「春夏秋冬いつでも楽しめる昆虫探し」(PARCO出版)好評発売中。Instagram・Xともに@shu1014my
文/牧田 習