
「新しい価値観をまとう」ことがウェルビーイング消費の本質
いま、ビジネスパーソンの間で大きな関心を集めているのが「ウェルビーイング」だ。仕事における生産性やキャリアの成功だけでなく、心身の健康、人間関係、ライフスタイル全般のバランスを大切にする考え方は、働き方改革やリモートワークの普及とも相まって確実に広がりを見せている。
この「ウェルビーイング」の潮流を、これまで“性のタブー”をポジティブに変えてきた株式会社TENGAが独自の形で取り込もうとしている。それが、2025年9月3日にオープンするファッション通販サイト「ZOZOTOWN」での公式ショップだ。
TENGAといえば、プレジャーアイテムのパイオニアとして世界的に知られる存在だが、今回の取り組みは単なる商品販売の拡大にとどまらない。性と健康、ライフスタイル、そしてファッションを掛け合わせ、より広義の「ウェルビーイング消費」を提案する挑戦でもある。
TENGAはすでに原宿の旗艦店「TENGA LAND」、有楽町の「TENGA STORE TOKYO」を拠点に、ブランドの世界観を体感できる場を築いてきた。特に注目すべきは、これらのリアル店舗において「アパレル・雑貨」が売上の約60%を占めているという事実だ。つまり、TENGAは単なるプレジャーアイテムの提供企業ではなく、「性をポジティブに捉えるカルチャー」を生活に浸透させるライフスタイルブランドへと進化しているのである。
その流れをオンラインに拡張するのが今回のZOZOTOWN出店だ。ファッション感度の高いユーザー層が集まるZOZOで展開することにより、従来の顧客層に加え、より幅広い消費者に「性×ファッション×ウェルビーイング」という新たな価値を届ける狙いがある。
TENGAの強みの一つは、異業種とのコラボレーションに積極的であることだ。「UMAMI SPICE COMPANY」とのヘビーウェイトTシャツ、
「YESEYESEE」とのフーディやニット、「Manhattan Records」とのトレーナー、ブルゾンなど
とのコラボは、単なるファッションアイテムを超え、「食」「音楽」「ストリートカルチャー」といった異なる文化との接点を生み出している。これはまさに、ウェルビーイングの重要要素である「多様性の尊重」と「自己表現の拡張」に直結する。ビジネスパーソンにとっても、仕事以外の領域で自己を解放し、文化的な刺激を得ることは、クリエイティビティやモチベーションの向上につながるだろう。
さらに、オープンを記念して販売される「ZOZOTOWN限定Tシャツ」は、ファッションアイテムとしての完成度はもちろん、“TENGAの新しい旗印”ともいえる存在だ。
アパレルの展開は、単なるメインプロダクトの販促ではなく、「新しい価値観をまとう」という体験そのものであり、今後のブランド浸透を後押しすることになるだろう。消費行動を超えて、自らのライフスタイルや価値観を表現する。それこそが「ウェルビーイングな消費」の本質である。
TENGAの複数ブランドが示す「包括的ウェルビーイング戦略」
今回のZOZOTOWN公式ショップには、TENGAが展開する複数のブランドもラインナップされる。そこには同社が目指す「包括的ウェルビーイング戦略」が凝縮されている。プレジャーアイテムを中心に「愛と自由」を体現するTENGA、女性のセルフケアを日常化するiroha INTIMATE CARE、
アートと性愛を掛け合わせるTXA、
触れ合いとリラクゼーションを提案するCARESSA。
それぞれが異なる領域を担いながらも、共通して「性を含めた人間らしさ」を肯定する姿勢を貫いている。
近年、消費行動は「モノ消費」から「コト消費」、そして「イミ消費」へと進化しているといわれる。単なる機能や体験にとどまらず、その商品を通じて「自分が何を表現できるか」「どんな社会的意義に共鳴できるか」が重視されているのだ。TENGAのZOZOTOWN展開は、この「イミ消費」に応えるものだ。購入すること自体が、「性をポジティブに語り合える社会を応援する」という意思表示となるからである。
こうした動きは、企業ブランディングの観点から見ても革新的であり、ウェルビーイング市場における強力な差別化ポイントといえる。ここからビジネスパーソンが学べることは少なくない。第一に、TENGAの事例は「タブーをポジティブに転換する力」の象徴である。声に出しにくいテーマを前向きに提示し、ライフスタイルやファッションにまで拡張している点は、新市場創出のヒントとなる。第二に、リアル店舗での人気をオンラインに展開する戦略は、データドリブンな事業拡張の好例だ。そして第三に、同社が強調する「触れ合い」「自分らしさ」「アート的表現」といったテーマは、現代のウェルビーイング経営に不可欠な要素であり、DEI的視点から働き方改革や組織開発の文脈にも通じる。
「性をカルチャーへ」——TENGAのミッションとビジョン
プロジェクト推進室 室長 TENGA APPAREL担当の山口卓也氏はこう語る。
「TENGAのミッションは “性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく” ことです。
そのためにはTENGAを単なる“性のためのプロダクトブランド”にとどめず、カルチャーそのものにしていくこと が必要だと考えています。
これまでも音楽、アート、ファッション、飲食など、様々な分野とコラボレーションを重ねてきました。そこで得たのは、性をもっと自由に、もっとポジティブに感じてもらうきっかけをつくれる、という確信です。
実はTENGAがここまで多彩なコラボレーションを実現できたのは、アパレルの存在が大きいんです。
ファッションはただの装いではなく、生き方や価値観を映し出すもの・表現するものであり、人と社会をつなぐ、最も身近で強力なコミュニケーション手段だとおもっています。
だから僕たちはアパレルを“事業”として本気で取り組むことにしました。
境界を越え、ありのままを楽しみ、自分自身の生き方を“まとう”。
その体験を通して、TENGAはさらに大きなカルチャーの広がりを生み出していけると考えています」
TENGAのZOZOTOWN出店は、単なる販路拡大ではない。「ウェルビーイングを体現する企業」としての立ち位置をさらに強化し、性のポジティブカルチャーを社会全体に広める大きな一歩である。ファッション、カルチャー、ヘルスケア、セルフケア、アート、そして触れ合い。多層的なアプローチで人々のライフスタイルに関わるTENGAは、今後「性の会社」という枠を超え、ウェルビーイングブランドの代表的存在へと進化していくだろう。
「僕たちは、性をたんなる欲望や欲求ではなく、心と体の健やかさに欠かせないもの と捉えています。 “健全な性”を楽しむことは、自分自身を大切にすることに直結していると思います。
ファッションも同じだと思っていまして、ただ身にまとうものではなく、“自分が本当にいいと思ったもの”を選び、表現する行為そのものだとおもうのです。自分の気持ちや価値観をそのまま服に託せるから、結果的に心の充足や自信につながっていくのだと思います。
性とファッションは一見まったく違う領域に見えるかもしれませんが、どちらも “自分らしさを肯定し、自由に表現する” という根っこではつながっていると思っています。
ファッションを通じて、性も人生を豊かにするウェルネスの一部だ という考え方を、世の中にもっと自然に広げていけたらと思っています。」
と言葉を添える山口氏。
今回のTENGAの事例は、今の時代におけるビジネスの視点から、「タブーを恐れず社会に新しい価値を提示する勇気」「データとリアルを掛け合わせた事業拡張」「ウェルビーイングを核とした多面的なブランド戦略」という重要なアプローチを提示している。
「ウェルビーイング消費」は一過性のトレンドではない。TENGAが示すように、それは人間らしく、自由で、多様な人生を肯定するための新しい社会の指針なのだ。