
老後も安全安心の環境で過ごせるよう、自身でシニア向けサービス付き住宅を比較検討し、高齢期に備える「住み替え」が近年注目されています。
60歳からのサービス付きレジデンス「グランジュール」の最新物件をレポートした前編に続き、今回は実際にお住まいのご夫妻とペットとの暮らしを覗かせていただきました。
前編はこちら
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元気なうちにシニア向けのサービス付き住宅を検討し、安全安心に過ごせる環境で日々の暮らしを楽しむ「高齢期を見据えた住み替え」が近年注目されています。 「自立して暮…
80歳を超えると、いろいろな心配が出てくるもの
住み慣れた家を離れ、「グランジュール駒沢公園」(東京都世田谷区)で暮らし始めたばかりの和田輝男さん(84)・養子さん(80)ご夫妻に、住み替えた理由や、新居での生活についてお話を伺いました。
――おふたりは、以前神奈川県に住んでいらしたそうですね。東京に引っ越しをされた経緯を教えていただけますか。
養子さん 以前は鵠沼海岸に住んでおりまして、終の住処として住み続けるつもりでいたんです。ところが年を取って、主人が心臓の病気になり、手術をしたんです。もう大丈夫なんですが、またいつ倒れてしまうかわからないと思うと、やっぱり娘の家の近くがいいと思うようになりまして……。ふたりとも80歳を超えると、いろいろな心配が出てくるものなんですね。今後何かあったときに、娘にその都度来てもらうのも大変だろうと思ったので、娘の家族が住んでいる地域で、新たな住まいを探し始めんです。
輝男さん 鵠沼は、海が近くにあって本当に住みやすくて気に入っていたんですけれどね(笑)。
養子さん そうなんです。もうあれ以上のところはないと思うほど私も気に入っていたんですよ。江ノ島の花火が降り注ぐように見えるところですし、富士山も見えますし。でも、年を取ったら海にも出ませんしね。砂浜なんて、もう歩けないですもの(笑)。
高齢者、猫との同居で物件選びは難航
――このエリアで、引っ越し先の物件は何軒も候補があったのですか?
養子さん いえいえ、娘も一生懸命探してくれたんですが、高齢者というとなかなかありませんでした。それから、猫を飼っていることもあって、難航しましたね。1年くらい探して1軒だけ保留にしたいお部屋も見つかったのですが、決め手に欠けたといいますか……。ところがある日、娘がお散歩で通っていた道沿いに新しい建物を作り始めているのを見て、何だろうと思って調べたら、高齢者向けの物件だとわかって知らせてくれたんです。私は即決でした。本当に良い巡り合わせだったと思っています。
――お嬢さんの家がこのエリアにあるということは、この辺りには何度かいらしたことがあって、街の雰囲気もご存じだったのですね?
養子さん はい。もちろん娘の家に行ったことはありますし、近くに駒沢公園があることも知っていましたが、街全体のことは、あまりわかっていませんでした。でも、住み始めてみて、この辺りはお散歩コースに事欠かないということがわかりました。このすぐ裏にある、呑川沿いの緑道も気持ちがいいので、涼しい時間帯に主人と毎日お散歩しています。
輝男さん 心臓のためにも、散歩が必要なんです。
養子さん 主人が転んだりしたら大変だから、手をつないで歩いているんですよ。
輝男さん あははは、そうなんです。
――ペットの猫も一緒に引っ越されたのですね。新しいお部屋にはすぐに馴染めましたか?
養子さん ええ、私たちもそれが心配だったんですが、大丈夫でした。以前の家で使っていた、猫ちゃんが好きな椅子がありまして。引っ越しするときに大量の荷物を処分して、その椅子も大きすぎるからどうしようかと迷ったけれど、猫のために持ってこようと決めました。
2脚持ってきたんですけどね、住むのは3人(夫婦と猫)でしょう? だから、毎日椅子を取り合ってます。
輝男さん いちばん強いのは猫です。
養子さん お世話をしているのは私なのに、猫ちゃんはなぜか主人に懐いているんですよ。でも、私たちが必ず一緒にいるので、猫ちゃんも安心しているんじゃないでしょうか。
レジデンスを拠点に多忙な日々が続く
――住み替えからまだ4か月弱ですが、新居ではどのように暮らしていらっしゃいますか? 娘さんと会う機会は増えましたか?
養子さん まずは、引っ越すためにベッドから何からほとんどの家具類や持ち物を処分したので、スッキリしました。以前住んでいた家の間取りよりも狭くなるので、娘は本当に住めるかどうか心配していたみたいです。たしかに充分に広いとは言えませんが、逆に、物を溜めておけないので、つねに整理しています。キッチンで食事も作りますが、食べ終わったらすぐにお皿を洗っちゃう。そんな感じで、今までよりもマメになりました(笑)。
それから、猫ちゃんがどこにいるかすぐにわかります。今までは、どこの部屋に行ったかわからなくなって、よく探し回っていたんですけど、その必要がなくなりました。主人の姿も見えるので、安心感もありますね。それから、お散歩するのにとてもいい環境なので、楽しんでいますよ。
――では、ご主人とふたりで、ゆったり過ごされているんですね。
養子さん とんでもない! じつは一人暮らしをしている私の叔母(92)がおりまして、私たちがここに引っ越すと聞いたら「私たちの近くに住みたい」と言って、叔母もこの近くに引っ越してきたんです。
叔母は普通のマンションに住んでいるので、私がほとんど毎日、身のまわりのお世話をしに出かけています。主人をひとりでおいていくのが心配なので、朝9時頃から一緒に出かけて、帰りは夜の10時頃になってしまいます。なので、叔母のマンションから200歩のところに住んでいる娘が、私たちをここまで車で送ってくれるという、今はそんなサイクルです。
休日には娘が車で買い物に付き合ってくれるので、食材なんかをまとめて買っています。そういう意味では、娘にはしょっちゅう会っています。
――それはそれは……ゆったり過ごすどころか、むしろお忙しくなったのでは?
養子さん そうなんですよ。今はちょっと私の負担が多いかなと感じますけど、身内が近くにいるという安心感はありますよね。
それから、出かけるとき、皆さんにお目にかかるじゃないですか。そうするとね、「行ってきます」とか「行ってらっしゃい」とか、そんなご挨拶をするだけで、全然違うんですよ。昔のご近所の風景というか、とてもいいなと思っています。
――いつ息抜きをされているんですか?
養子さん 長年続けてきた趣味というか活動がありましてね。長年、ハワイアンバンドのボーカルをやっていました。それで、老人ホームなんかにボランティアで行くことがあったんです。そうすると、皆さんが喜んでくださるのを見て、少しは役に立っているかなぁと思うんです。
今はちょっと我慢の時かなと思っています。でも、ここは地下にトランクルームがありますでしょ。そこに楽譜やら衣装やら、みんな入れてあります。そういうものは捨てなかったので(笑)。
人生楽しまなきゃ。音楽活動はどこに住んでいてもできますから。だから、またいつか音楽を楽しもうと思っていますよ。
そういえば先月、こちらでお洋服の販売会があったんです。あれも楽しかったですね。2枚買って、叔母にもあげたら喜んでくれました。また機会があったら参加したいと思っています。
取材・文/大津恭子 撮影/黒石あみ(小学館)