
国産コンパクトミニバンはトヨタ・シエンタとホンダ・フリードの2車種しか存在せず、これまで好ライバルとして熾烈な戦いを繰り広げてきた。
2025年7月までの戦いを振り返ってみると、まずはボディタイプの違いが挙げられた。シエンタは1種類で、それもサイドアンダープロテクターの装着による、ちょっぴりクロスオーバーテイストを加味した1タイプ。対するフリードは標準車のクリーンかつシンプルなエアーと、無塗装樹脂製ホイールアーチプロテクターを装着し、前後スタイリングもエアーとまったく異なる、先代モデルからSUVテイスト、クロスオーバー感をより一層強め、全幅1720mm(3ナンバー)となる2種類のボディタイプを用意していた。
パッケージにも違いがあった。シエンタ、フリードともに基本の3列シートと大容量スライドドアワゴンと呼ぶべき2列シートモデル(フリードはクロスターに用意)を揃えている点は同様だが、シエンタの3列シートモデルは2列目ベンチシートの7人乗りのみ。フリードは3列シートモデルに2列目キャプテンシート、ベンチシートの6/7人乗りを用意。フリードの6人乗りであれば、キャプテンシートならではの贅沢な居心地、かけ心地とともに2-3列目席の移動が可能になるというメリットを持ち合わせていたのである。ちなみに2列目席の座り心地の良さでは、キャプテン、ベンチシートを問わず、フリードが有利、というのが筆者の比較試乗経験からの印象だ。
パワーユニットも異なる。シエンタは3気筒1・5Lエンジンを基本に、トヨタ自慢の2モーターシリーズパラレル式ハイブリッドとガソリン車を用意。一方、フリードはシエンタの3気筒に対して、4気筒、1・5Lエンジンを基本に、ホンダ最新の2モーターハイブリッド=e:HEVとガソリン車を揃えている。
シエンタの装備面の特徴は、ほかのトヨタのハイブリッド、PHEV同様に、シエンタでは4万5100円のオプションながら、アウトドアや停電時に大活躍してくれる、フリードにないAC100V/1500Wコンセントを用意していること。フリードの装備面の大きな特徴は後席用の空調で、シエンタがサーキュレーターにとどまるのに対して、コンパクトミニバン初採用のリヤクーラーを3列シートのエアーEX、クロスターに標準装備している点だ。ここ最近の夏の猛暑にありがたいのは、フリードのリヤクーラーのほうだろう。
走行機能面では、デビューの新しいフリードがリード。というのは、全車に先代までなかった電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能が備わっている。よって、フリードのACC(アダプティブクルーズコントロール)は停止保持、渋滞追従機能付きとなったのだ。高速道路の走行の機会が多いユーザーにとってこれは嬉しいポイントと言っていい。対するシエンタは足踏み式サイドブレーキが基本で、最上級ハイブリッドのZグレードのエレクトロシフトマチック式シフトレバー付きにのみ、ACCの停止保持機能が付いた程度だったのだ。高速走行でACCを使う機会が多ければ、新型フリードのほうが、どのグレードを選んでも有利だったということだ(2025年8月のシエンタ一部改良後は別)。
もっとも、シエンタには先進運転支援機能のトヨタセーフティセンスに含まれる「プロアクティブドライビングアシスト(PDA)」という、フリードにない強い味方がある。それは、先行車、カーブに対する減速支援、歩行者、自転車運転者、駐車車両に対する操舵・減速支援を行ってくれるもので、ACCのような先行車、カーブに対する減速支援がACCを使わない一般道でも機能するため、普段の走行場面での安全・安心に直結するというわけだ。
さて、シエンタが2025年8月に商品改良を行ったのだが、これまで走行機能面でフリードに劣っていた電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能をついに追加、標準装備。しかも、ほとんどの国産車にない、しかしドイツ車などでは当たり前の、トヨタ初の”メモリー付き”オートブレーキホールドを備えたのである。ここでオートブレーキホールド機能について説明すると、ONにすれば一時停止時などでブレーキが自動的にホールドされ、ブレーキペダルを踏み続けなくていい機能。信号待ち、渋滞時でのドライバーの右足の負担が軽減されるメリットは絶大と言っていい。しかし、ほとんどの国産車のオートブレーキホールド機能は、ONにしても、エンジンOFF、または電動車の電源をOFFにすると”勝手に”OFFにされてしまい、走り出す際、改めてONにする手間、面倒があるのだ(フリードもそう)。走り出して、オートブレーキホールド機能をONにしたままのつもりで、一時停止時にブレーキから足を離せば・・・オートブレーキホールド機能は効かないことになる。
ということは、フリードとシエンタで走行機能面に差のあった、電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能の装備については互角となり、さらにシエンタはオートブレーキホールドにメモリー機能が加わり、一歩リードしたことになる。
フリードは2列目席のキャプテンシートが選べ、リヤクーラーが用意されるなど、依然、パッケージング、快適装備の一部でリードしているものの、シエンタは上記のプロアクティブドライビングアシストに加え、メモリー付きオートブレーキホールド機能が加わったことで、商品力を一気に高めたことになる。
実は、2025年8月のシエンタの商品改良では、それだけにとどまらないニュースがある。それがシエンタ”JUNO”(架装車のため持ち込み登録)の追加だ。なんと4ナンバーの2列シートモデルであり、「クルマの中に自分の部屋をつくる」がコンセプト。
チルと呼ばれる家具モジュールを組み合わせることで車内空間を自由自在にアレンジでき、カフェにもワークスペースにもリビングルームにもなり、車中泊ももちろんOKという新発想のシエンタなのである(フリードの2列シートも車中泊OK)。JUNOはハイブリッド車の2WD(365.4万円)、E-Four=4WD(385.22万円)があり、それに家具モジュール(ベースモジュール、クッションモジュール×2、ベースモジュール ラージ、サイドテーブルで16万5000円)を組み合わせるなどして、シエンタの1列目席後方空間にカフェのようなスペースを創出できたりする楽しさがある。フリードもホンダアクセスの純正アクセサリーによって車中泊などに対応するが、家具モジュールという発想はJUNOならでは。JUNOは2人乗りということでユーザーニーズは限られるかも知れないが、車内空間の「部屋化」としてはかなりユニークであり、楽しそうだ。
両車の個性、装備を細部まで比較し、自身の使い方に合った1台を探す・・・というシエンタとフリードのクルマ選びは、一層、悩ましくなりそうだ。
文/青山尚暉
写真/青山尚暉 トヨタ