
2025年11月をもって生産終了となるレクサス「RC」と「IS」(300h 2WDを除く)。その背景には、SUV人気の高まりやレクサスの電動化戦略、そしてプラットフォームの刷新といった時代の変化があります。特に惜しまれるのが、V8エンジンを搭載した「RC F」や「IS500」。電動化が進む今、大排気量でリニアな加速を楽しめるV8自然吸気エンジンは希少な存在です。生産終了後は、中古車価格が上昇する可能性が高いでしょう。
目次
かつてクルマは、単なる移動手段ではありませんでした。
自己表現であり、人生のステージを象徴するシンボルだったのではないでしょうか。
レクサスはそんな熱い気持ちを受け止めることができる、情熱的なクルマを多く作ってきました。
中でもスポーティで、乗る者の心を躍らせたのが、RCとISでした。
「憧れ」だった人もいるかもしれません。そして、いつか乗りたいと、雑誌やWebサイト、動画配信を食い入るように見ていた人もいるはずです。
しかし、そのRCとISが、まもなくその歴史に幕を閉じます。
電動化が進み、SUVが隆盛を極める現代のクルマ市場において、なぜこの2台の生産終了が惜しまれるのでしょうか?
それは、単に一台のクルマがなくなること以上の意味があるからです。
今回は、生産終了の背景にある時代の変化、そして私たちの心に深く刻まれた「V8エンジン」という奇跡、今手に入れるべき理由、そして生産終了後の市場動向まで、熱い気持ちを持ちながらその価値を紐解いていきましょう。
なぜレクサスはRCとISを生産終了したのか
なぜレクサスは、ブランドをリードするイメージモデルであるRCとISの生産を、IS300hの2WDモデルを除き終了する決断を下したのでしょうか?


その背景には、主に以下の3つの要因があると考えられます。
■クーペ・セダン市場の縮小
SUVやクロスオーバー車の人気が世界的に高まり、クーペやセダンの市場が縮小。レクサスも、人気モデルのNXやRX、コンパクトSUVのLBXなどを中心として、SUVはラインアップの中核となっています。
■レクサスの電動化戦略
レクサスは、2030年までにBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)でフルラインアップを実現し、5年後の2035年にはグローバルでのBEV販売100%を目指しています。
従来のガソリンエンジン車を主軸とするISやRCは現状、この電動化戦略とは方向性が異なります。
■プラットフォームの刷新
RCとISは、すでにモデルライフが長くなっています。RCが国内市場にデビューしたのは2014年10月のこと。そしてISの現行モデルが国内デビューしたのは、さらに時をさかのぼる2013年5月のこと。共に10年を超えて生産されています。
もし、新型モデルを開発するとなると、莫大な開発費用がかかります。
現在のセダンやクーペ市場の環境や、将来に向けた電動化戦略を考慮すると、ISとRCは残念ながらレクサス全体で目指す未来像とのズレがあるかもしれません。
■IS F、RC F、そしてIS500。V8大排気量エンジンという奇跡
RCとISの生産終了で、クルマ好きが特に惜しむのが、V8エンジンを搭載したハイパフォーマンスモデルの存在でしょう。
2007年に登場した初代IS Fは、5.0L V8 DOHC自然吸気エンジン(4968cc、423PS(311kW)/6600rpm、51.5kg・m(505N・m)/5200rpm)を搭載し、当時の国産スポーツセダンとしては破格の性能を誇りました。
そのサウンドと加速感は、今でも多くのファンを魅了しています。

そして、2014年にはRC Fが登場。IS Fと同様に5.0L V8エンジン(4968cc、477PS(351kW)/7100rpm、54.0kg・m(530N・m)/4800〜5600rpm、発表当時のスペック)を搭載し、より洗練されたスポーツクーペとして、レクサス「F」ブランドの地位を確立しました。

さらに、近年では「IS F」の後継モデルとして、5.0LのV8エンジン(4968cc、481PS(354kW)/7100rpm、54.6kg・m(535N・m)/4800rpm)を搭載した「IS500“F SPORT Performance”」が2022年8月に登場しました。

このモデルは、初代IS Fのようなハイパフォーマンス志向を抑え、V8エンジンを日常的に楽しめる「F SPORT Performance」という新たなコンセプトを掲げていました。
しかし、このIS500も、ISの生産終了に伴い、その歴史に幕を閉じます。
自動車の電動化が進む現代において、大排気量の自然吸気V8エンジンを搭載したクルマは、まさに「奇跡」のような存在でした。
エンジンの鼓動、排気音、そしてリニアな加速感は、電気モーターとは違う、特別な感動を与えてくれます。
IS F、RC F、IS500は、そんな貴重な体験を私たちに提供してくれました。
■レクサスRCのファイナルエディションとは何か
生産終了を前に、レクサスは特別なモデルを用意しています。
それが、RCのファイナルエディション(Final Edition)です。RC F“Final Edition”は200台の限定発売でした。

RC“Final Edition”

RC F“Final Edition”
RC“Final Edition”はスパッタリング塗装を施したエンケイ製の19インチアルミホイールやレッドブレーキキャリパー、ブラック塗装とスモーク塗装加飾を施したオート電動格納式ドアミラーを設定し、スポーティさを強調したエクステリアとなっています。
そして、RC F“Final Edition”は、「公道からサーキットまでシームレスに楽しめる走り」をさらに追求するため、高精度チューニングエンジンとリヤディファレンシャルを採用しました。
さらに、メタルスターグロスブラック塗装を施したBBS製の19インチ軽量鍛造アルミホイールやレッドブレーキキャリパー、ブラック塗装とスモーク塗装加飾を施したオート電動格納式ドアミラーを採用。リヤスポイラーには格納式のカーボンアクティブリヤウイングを採用しました。
ただし、RC F“Final Edition”は200台の限定台数に達したため、販売終了しています。
生産終了後のレクサスRCとISの動向
IS300hの2WDを除き生産を終了する、RCとISですが、人気はどうなるのでしょうか? 予測してみました。
■中古市場でどうなる?
生産終了後のRCとISの中古市場の動向を予測するのにあたり、ちょっと一般論を。
通常、人気モデルの生産が終了すると、中古車価格は上昇する傾向にあります。特に、趣味性の高いモデルにその傾向は顕著に表れます。
今回のRCとISの生産終了を受けて、以下のモデルの価格は上昇する可能性が高いと考えられます。
RC F、IS500
V8エンジンを搭載したモデルについては希少性が高まる可能性が高いです。
もしかしたら今後、大排気量の自然吸気エンジンはなくなるかもしれません。そのため、価格が上昇する可能性は高いです。
特に、走行距離が少なく、コンディションの良い個体は、プレミア価格で取引きされることも予想されます。
限定車・特別仕様車
特別仕様車や限定車も、希少性から価格が上がる可能性があります。
最終モデル
最終型は、最も完成度が高く、人気があることと、〝去りゆく者への未練〟もあり、価格が維持されやすいと思われます。
一方で、年式が古く、走行距離が多いモデルは、相場が落ち着く可能性もあります。
しかし、RCとISには根強いファンがおり、逆に価格が落ち着くタイミングで購入希望が増える可能性があります。
もし、今から中古のRCやISを狙うのであれば、価格が上がり始める前に、早めに探すのが賢明でしょう。
■噂の真相。フルモデルチェンジはあるの?
生産終了となると、気になるのが後継モデルの存在です。特に、「ISはフルモデルチェンジして、EVになる」という噂を耳にした人がいるかもしれません。
この噂は、現時点ではあくまで「噂」の域を出ません。
しかし、レクサスの電動化戦略を考えると、将来的にRCやISのようなクーペやスポーティセダンがEVとして復活する可能性はゼロではありません。
ただし、RCやISの直接的な後継モデルが、近い将来登場する可能性は低いと考えるのが現実的でしょう。
もし登場するとしても、内燃機関を搭載したモデルではなく、EVとして、まったく新しいコンセプトで生まれ変わる可能性が高いです。
【まとめ】
■Q.なぜ生産終了するのですか?
A.
市場の変化:世界的なSUV人気の高まりにより、クーペやセダン市場が縮小しているため。
電動化戦略:レクサスが2035年までにBEV(電気自動車)のグローバル販売100%を目指しており、ガソリンエンジン車中心のRC・ISは戦略に合わないため。
モデルの刷新:10年を超えるモデルライフであり、新型開発は巨額の費用がかかるため。
■Q.生産終了するモデルは?
A.
RC:全モデル。
IS:IS300hの2WDモデルを除き、全モデル。特にIS500はV8エンジン搭載モデルとしての栄光の歴史に幕を下ろします。
■Q. 今後、中古車の価格はどうなりますか?
A.
価格上昇の可能性:V8エンジン搭載のRC F、IS500は、希少性が高いため、プレミア価格になる可能性が高いです。
限定車・最終モデル:特別仕様車や最終型も、コレクター需要が高まり、価格が維持・上昇する可能性があります。
中古購入の検討:価格が高騰する前に、早めの検討が賢明です。
■Q. フルモデルチェンジはありますか?
A.
直接の後継モデルの登場は不透明:レクサスの電動化戦略により、近い将来に内燃機関のみを搭載した新型モデルが登場する可能性は低いと考えられます。
将来的な復活の可能性:EVとして、まったく新しいコンセプトで復活する可能性はゼロではありません。
■Q. 生産終了前に買うべき理由は何ですか?
A.
V8エンジンの奇跡:電動化が進む今、大排気量でリニアな加速を楽しめるV8自然吸気エンジンは、もはや奇跡的な存在です。
最後の新車:RCのファイナルエディションなど、特別なモデルを手に入れる最後のチャンスです。
特別な価値:単なる移動手段ではなく、クルマ好きの心を揺さぶった名車のオーナーになることができます。
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※当記事に掲載している価格などのデータは2025年10月時点でのものです。
文/中馬幹弘
ガジェット・MONO・マネー編集/ライター。慶應義塾大学卒業後、野村證券にて勤務。アメリカンカルチャー誌編集長、モノ情報誌編集を歴任。iPhone、iPad登場時よりスマホ実務に携わる