
SUVは今や市場の定番カテゴリーとなった。広々としたキャビン、アイポイントの高さがもたらす視界のよさ、そして四輪駆動による安心感。ファミリーからアウトドア愛好者まで幅広い層に支持されていることは言うまでもない。だが「四駆」と聞けば、どうしても外せない存在がある。SUBARUだ。ワゴンと四駆を掛け合わせた独自の世界観を磨き続けてきたブランド。その最新解釈が「レイバック」である。今回は北海道・釧路を舞台に、その走りを確かめる機会を得た。
4駆ワゴンの源流から続く系譜
SUBARUと四輪駆動、この黄金タッグの始まりは1971年にまで遡る。東北の電力会社の要請を受け、積雪地でも使える業務車として当時の「スバル1000」を改造し、4WDワゴンのプロトタイプを作り上げたのだ。これがのちの量産化の端緒となり、1972年に登場した「レオーネ4WDエステートバン」は「世界初の量産乗用4WD」として注目を集めた。
その後「レガシィ」が「ツーリングワゴン」という新たなジャンルを築き、1990年代には「アウトバック」が生まれた。舗装路も雪道も分け隔てなくこなせる万能車として人気を集め、北米ではいまなお、スバルの屋台骨を支える存在だ。「レイバック」は、こうした文脈の延長線上に置かれた現代的クロスオーバーである。
基本骨格は「レヴォーグ」のそれを受け継ぎつつ、最低地上高200mmを確保するために専用サスペンションを装備。ワゴンの取り回しやすさを残しながら、専用グリルやフェンダーなどで洗練と力強さを両立している。
心臓部には1.8L水平対向4気筒ターボを搭載。177PSと300Nmを発揮し、CVTが穏やかにトルクをつなぐ。カタログ上の数値は決して突出しているわけではないが、必要なときに必要なだけ力を引き出せる安心感がある。レヴォーグに設定される2.4Lターボが与えられないのは、むしろ「レイバック」の「万能な旅の相棒」というキャラクターを明確にするためだろう。
北海道・釧路で体感するツーリング性能
今回の試乗は、釧路空港を起点に道東の大地を巡るグランドツーリング形式で行われた。もうひとつのテーマは、現在オンエア中のテレビCMロケ地をたどること。画面で見る光景を、自らのステアリングを通して体感するという趣向である。
空港を出て市街を抜け、東に針路を取ると、地平線まで続くかのような北海道らしい直線路が現れる。着座位置は「レヴォーグ」よりも高く、視界が開けているが、SUVほどの「見下ろす感覚」はなく自然だ。その塩梅が絶妙で、運転しやすいのがいい。
アクセルを踏み込んでいくと1.8Lターボは静かにブーストを立ち上げ、シームレスに速度を高めてくれる。水平対向エンジン特有の低重心が効いており、高速直進安定性は際立っていた。距離感を忘れそうな直線路は、凍結や除雪の影響で路面が荒れている箇所も少なくないが、「レイバック」のサスペンションはその凸凹を柔らかく受け止め、大きめのストロークでいなす。継ぎ目を越えてもその衝撃の角は丸められており、キャビンには優しい余韻だけが伝わってきた。
厚岸で名物の牡蠣を堪能したあとは、北太平洋シーサイドラインへ。最初の目的地は涙岬だ。通称「岬と花の霧街道」と呼ばれるこの道は、霧が立ちこめると幻想的な風景が広がる。実際に視界が白くけぶるようなシーンにも遭遇したが、最新の「アイサイトX」が車線を認識して注意を促してくれる。もちろん過信は禁物だが、ドライバーの意識を逸らさず、それでいて緊張を和らげてくれるのは確かだ。
クロスオーバーが示す新たな安心感
翌日はまず、早朝から襟裳岬方面へと足を伸ばした。その目的はテレビCMでも印象的なダート路を目指すこと。釧路市内のホテルから1時間ほど行った先で海沿いの舗装路から逸れると、砂利道の上り勾配が待っていた。そしてここでの「レイバック」は実に頼もしかった。四輪駆動システムが的確にトルクを配分してタイヤが路面をがっちり捉え、車体もハンドル操作に素直に反応してくれる。
確かにロールは感じるものの、乗員の体が右に左に大きく揺さぶられるような不安感はなく、むしろボディ全体がしなやかに追従してくる。ワゴンの操作性の高さとSUVの走破性が自然に融合しており、クロスオーバーの意義を実感できるシーンである。「アウトバック」や「ランカスター」で培われた経験が、この乗り味に息づいていると感じた瞬間でもあった。
そんな走りを楽しんだあと、展望台に立ち寄ったころにはすっかり夜も明け、眼下には荒波が押し寄せるダイナミックな景色を目の当たりにできた。それはまさにテレビCMで目にした光景そのものだった。
そののちに屈斜路湖や硫黄山、摩周湖といったスポットを巡り、最終地の釧路空港に至る2日間で走った距離は約750kmに達した。オンボードコンピューターが最終的に示した燃費は12.5km/L。WLTCモードのカタログ値である13.6km/Lには届かなかったが、観光地を駆け足で巡り、ダートを走り、短時間で距離を稼いだ条件を考えれば納得できる数値だ。
それより何より印象的だったのは、走行後の疲労感の少なさである。長時間シートに座り続けても腰や肩に負担は少なく、むしろ「まだ走っていたい」と思わせる。これはシート形状の工夫とサスペンションの快適性が生んだ成果だろう。
SUBARUはこれまでからずっと「ワゴン×四駆」という独自の道を歩んできた。「レガシィ」に代わって「レヴォーグ」が主役を担う今、その派生として誕生した「レイバック」は、日本市場に向けて新しいクロスオーバー像を提示したといえる。
それはSUVの波に埋もれることなく、SUBARUらしい走りと安心を、ワゴンの形で再定義した一台。グランドツーリングを愛する大人にとって、安心と遊び心を兼ね備えた選択肢といえるだろう。半世紀にわたり育まれてきた四駆ワゴン文化の現代的回答として、「レイバック」は堂々とその役割を担っている。
■関連情報
https://www.subaru.jp/levorg-layback/
文/桐畑恒治(モータージャーナリスト)