
周囲の人の体臭が気になり「なぜ対策をしていないのだろう……」と不快に感じてしまった経験がある人も多いのではないだろうか。それと同時に、自分の身を振り返り、気づかぬうちに、汗や体臭で周りを不快にさせてはいないだろうか……と心配にもなってしまう。
いったいなぜ自分自身で自分の臭いに気づけないのか皮膚科医の中村淑子先生に教えてもらおう。
なぜ人は自分の臭いに気づけないのか?
体臭というと、汗など湿潤環境で雑菌が増殖したことによる雑菌臭、ワキガ、加齢臭といった臭いが代表的だ。かなり強い臭いを放つ人もいるが、いったいなぜ自分の放つ臭いに気づけないということが起こるのだろうか。
「人間の鼻は順応する力があります。つまり、慣れた臭いは感じにくくなるんです。脱いだ服をマメに嗅いだとしても、自分にとって慣れた臭いであれば感じない。ご家族も、同じ環境で生活をしていると、臭いに順応してしまいます。つまり、身近な家族だからこそ気づかない変化なんです。そのため、恥ずかしいとは思いますが、気になる人は第三者に相談しましょう」
■特にワキガは気づきにくい
一時的な雑菌臭などは、その瞬間の変化なので、比較的気づけるケースが多いという。しかし、長年付き合ってきたワキガなどは、なかなか自分では気づけないということだ。ちなみに、それぞれの臭いの原因はなんなのだろうか。
「汗腺はエクリン汗腺とアポクリン汗腺があります。ワキガの原因となる汗は、アポクリン汗腺から分泌されるものです。主に脇の下から特有の強い臭いが発生します。アポクリン汗腺は皆さんお持ちですが、数や活発さに違いがあるため、ワキガの症状が出る人と出ない人がいます。汗腺をすべて取り除くという手術もありますが、術後のトラブルも少なくない。汗の量を抑えることでかなり改善するため、まずはボトックス注射などが推奨されています」
アポクリン汗腺から出た汗が臭いの原因となるため、汗をこまめに流すだけでも臭いの強さは変わるという。
「ワキガの臭いに慣れてしまって、自分は気づいていない人も多いです。ただ、ワキガになりやすい方の傾向がわかってきているので、次のような特徴がある方は、ワキガの可能性がある前提で過ごすといいでしょう。まずは、遺伝性なので、ご両親がワキガ体質かどうか。そして、耳垢が湿っている、脇の汗が多い、脇の毛が多いという特徴もあります。また、アポクリン汗腺からの汗は白Tシャツが黄色くなりますし、脇に白い粉状のものがあるといった目に見える変化もあります」
■ワキガは改善できるのか?
ワキガは生活習慣で大幅な改善が難しいケースも多く、必要に応じて治療を受けよう。逆に加齢臭や雑菌臭は日頃の生活習慣を意識することで、大幅な改善が期待できるという。
「年齢を重ねてきた方は皮脂腺から出てくる皮脂の分泌量が増えます。その中の成分が影響して臭いを放ち、加齢臭と呼ばれます。だいたい40代以降くらいから臭いが気になるという人が増えてきます。脂のような臭いがしますが、入浴をしっかり行うなど清潔な身なりを意識すること。そして、野菜や海藻などアルカリ性の食品をバランスよく食べることで、改善が期待できます」
■雑菌の臭いを対策するには?

汗を放置したり、生乾きの服を着て過ごしていたりすると、湿潤環境になり雑菌が繁殖。その雑菌が臭いを放ってしまう。
「この臭いは特に対策がわかりやすく、効果を実感しやすいでしょう。汗をこまめに拭いたり、シャワーを浴びたりして清潔にする。そしてこまめに着替えましょう。また、下着は通気性が良く汗を吸いやすいコットンなどの天然素材のものを使うといい。逆にポリエステルなどの合成繊維は通気性が悪く、汗がこもりやすいため、避けた方がいいです」
乾いた肌、乾いた服でいることで、雑菌は繁殖しづらくなるため、雑菌臭対策になるわけだ。とはいえ、どの臭いにおいても、まずは“清潔”を意識することが対策の根っこにあることに変わりはない。
香水や制汗剤は逆効果になることも
「臭いを気にして、香水や香り付きの制汗剤などを使われる人もいらっしゃいます。確かに臭い対策に意識を向けることは大切ではありますが、まずは清潔にすることが要です。そして清潔な状態にしてから香りのあるものを身につけないと、さまざまな臭いが混ざってしまい、不快な臭いに繋がりかねないので気をつけましょう」
なかなか他人が指摘しづらい「臭い」問題であるがゆえに、気づかぬうちに周りに不快感を与えている可能性もある。気になる場合は気の置けない友人などに、自分の「臭い」について相談してみよう。
【中村淑子先生プロフィール】
北朝霞メディカルクリニック院長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。順天堂大学医学部附属順天堂医院などで研鑽を積み、現職。商品開発アドバイザリーなど、皮膚科領域で幅広く活動する。美容医療技術の進歩と普及に努め、地域社会への貢献を目指す。
文/田村菜津季