
変化のスピードが早く、答えがひとつではない今の時代。価値観や考え方は多様化し、働き方も生き方も、選択肢ばかりが増えている。そんな中で私たちに問われているのは、「自分はどうしたいのか?」、「何を大切にしたいのか?」という自分自身に問いかける力である。
とくに、日々の決断や人間関係、成果へのプレッシャーにさらされるビジネスパーソンにとって、「自己認識力」や「内観力」は、なくてはならない力と言っても過言ではない。
本当の自分に耳を傾ける時間が求められている今だからこそ、内なる対話のきっかけとして、静かに注目されはじめているのが「トランスフォーメーションゲーム」だ。
「トランスフォーメーションゲーム」とは、4人でボードを囲み、数種類のカード、サイコロを使って進んでいくゲーム。ビジネスパーソンとボードゲーム。一見すると意外な組み合わせに思えるかもしれないが、実は、この「トランスフォーメーションゲーム」に参加する人の中には、ビジネスの最前線で活躍する人も少なくないそう。今回は、そんな噂のボードゲームに実際に参加し、その魅力を体験してきた。
少しの気恥ずかしさと共にスタートしたゲームの行方は……?
今回このゲームに参加したのは、私の他に3名、計4名(内2名は初めて会う方でした)。そしてゲームを進行してくれるファシリテーターの澤井真理さん。
ゲームはまず、「なりたい自分」をノートに書き出すことから始まった。将来のこと、人生のこと、仕事や人間関係、経済的な願望まで、何でもOK。ただただ一心不乱に、「こうなったらいいな」と思うことを自由に書き出す。数分後、ファシリテーターが「そろそろいいですか? それではそれを一人ずつ読み上げてください。」と……ちょっと気恥ずかしい……。読み上げた私のリストの中から、ファシリテーターがいくつかのワードをピックアップして、「これはどういう意味ですか?」と具体的に掘り下げていく。そのやりとりの中で、少しずつ自分の中で大切にしたいテーマが輪郭を持ち始め、最終的なテーマを決めるのだ。私は「自分らしさとは?」をこのゲームで探りたいテーマとして設定。昨今、「自分らしさ」というワードをよく見聞きするが、家族にまつわる事や仕事に追われ、自分を振り返る時間のない毎日。ふとシンプルに、私の「自分らしさ」ってなんだろう?と思い立ったから。
カードにインスパイアされながら、自分の内側にある思いや考えを言葉にしていくプロセス
ゲームはサイコロを振って、双六のようにマスを進めながら進行していく。止まったマスに応じてカードを引いたり、テーマに沿った問いに答えたり、ときには他のプレイヤーにアクションを求められる場面も。そうしたやり取りを繰り返しながら、今の自分の状況とどうつながっているのかを、少しずつ探っていく。
「自分はどう感じたか?」、「他のプレイヤーはどう受け取ったか?」をシェアし合う中で、自然と自分の内側に意識が向いてくる。時には思いもよらない視点からのフィードバックに驚かされながら、最初にあった気恥ずかしさもいつの間にか消えていて、気がつけば参加者同士が打ち解け、ゲームに深く入り込んでいた。
カードの言葉は、そのときの自分の状態にぴったり重なることもあれば、最初はピンとこなくても、後になってじわじわと心に響いてくることもある。体験を通して感じたのは、カードに書かれた言葉や問いには決まった正解がなく、解釈が自由であるからこそ、自分の内側にある思いや考えを見つめ、言葉にしていくプロセスが生まれるということである。

カードが教えてくれた、わたしらしさを取り戻すヒント
自分のターンを重ねるごとに、カードの組み合わせや出た順番なども合わせて読み取って行くのだが、私のカードの中で鍵となりそうなものは「回復力」、「柔軟性」、「効率」、「癒し」、そして「誕生」と「自由」。
このようなカードを皆さんの力を借りて読み取った結果は、「〇〇しなければならない、という思い込みや義務感に縛られず、柔軟性を持って、効率よく動くことが必要。すると自由な時間を持った、新しいライフスタイルの私が誕生する」というもの。正直、ありきたりなメッセージ(笑)だなと思っていたが、最後に引くメッセージカードと、最終的に残ったエンゼルカードなるものを合わせてみると、かなりしっくりきたのにはびっくり。
残っていたエンゼルカードは「愛」と「責任」。メッセージカードには「人生を楽しんでいるからと言って、痛みを避けているわけではありません」と書かれている。このことから皆さんが推察してくれたのは、「柔軟に効率よく生活し、回復力を養いながら生活することこそ、愛する子どもへの責任でもある」というもの。「自分らしさとは?」の答えとは少し離れているかもしれないが、今の私にとって最も大切にすべき、根本的なことを突きつけられた気がして、思わずハッとさせられた。
今、自分が本当に望んでいることは何か? 「問い」と「対話」によって、今まで思いもよらなかった価値観や願いが現れる
同じテーブルを囲んだ、大手自動車会社にお勤めのMさんにも感想をうかがってみた。「思考の視点だけでなく、無意識の領域にも触れて、視点が広がる感覚がありました。そういう意味では、ビジネスパーソンにもおすすめです。ただし、受けるタイミングや一緒に参加するメンバーによって体験の深さは左右されるかもしれません。自分も3、4年前だったらフリーズして、まったく受け入れられなかったと思います。ある程度、自分なりに内省や内観を意識している状態だと、より充実した時間になると感じました」。
ファシリテーターの澤井さん曰く、「他者の視点から問いをもらうというのが、このゲームの大きな特徴です。自分の思考にはどうしても限界がありますが、その枠を超えた問いが“場”によって自然に生まれてくる。また、コミュニケーションを重ねる中で、他の方のテーマがいつの間にか自分ごとにもなっていく。そこがこのゲームの面白さです」。
対話を通して、自分の思考の限界を超え、他者の視点によって世界が広がっていく。その中で、今まで思いもよらなかった価値観や願いが現れる。それをゲーム感覚で、自然と楽しく体験できるところに、このワークの面白さと奥深さを感じることができた。
今、自分が本当に望んでいることは何か?を知りたい方はもちろん、普段、心の内を語る機会が少ない男性にとっても「安全な心の解放の場」となり、癒しにもつながるのではないかと感じた。ロジカルな思考だけではたどり着けない“内なる気づき”を求めて、静かに関心が高まりつつあるのも納得である。
澤井真理さんがファシリテーターを務めるトランスフォーメーションゲームに興味のある方は、こちらからお問い合わせください。
取材・文/高田麻子