
「豆腐」は中国が起源とされ、日本にも奈良・平安時代に仏教の伝来とともにもたらされた。そのアジアの食材である豆腐が、今や「Tofu」として世界的に普及し、カナダでも簡単に手に入る。
日本では冷奴や鍋の食材など、「おかず」として豆腐をそのまま食するのが普通である。しかし、筆者がカナダのスーパーで目にした豆腐の中には、フルーツ味の「デザート豆腐」なるものがあり、パッケージには果物の写真、色もカラフル。日本人の私からすれば、これは邪道であり、いつもスルーしていた。
しかし、どうしても好奇心には勝てず試してみることに。さて、多民族国家であるカナダ発の不思議なデザート豆腐とは、いかなるものか?

カナダにおける豆腐普及の歴史的背景

Silken Tofu(絹ごし豆腐)、Firm Tofu(木綿豆腐)のほか、さらに硬めのExtra Firm Tofuなどがある
まずは、カナダにおいて「豆腐」がどのよにして広がったのか歴史をみてみることに。
カナダはご存じの通り移民の国だ。多民族国家であるが、西のバンクーバー(ブリティッシュ・コロンビア州)では、古くから中国人、日本人、韓国人などの東アジア系移民が多く、彼らが20世紀初頭に豆腐の製造を開始し、地域のコミュニティーに広がった。
1997年の香港返還時には、香港から中国人が大挙バンクーバーに移住し、「ホンクーバー」と異名をとるほど中国系移民が増加。それに伴って、豆腐を含むアジア系食材の需要も急速に増えた。
また、1970年代に始まった運動不足解消のための啓蒙活動「ParticipACTIONキャンペーン」や、「カナダ食品ガイド(Canada’s Food Guide)」の改訂により健康志向が高まり、ヘルシー食品として豆腐が一般に認知されはじめた。それまでは豆腐は大概アジア系のスーパーでしか入手できなかったが、現在ではカナダ全土のスーパーでも手軽に購入できる。
低脂肪で高タンパク質の豆腐は、ベジタリアンやヴィーガン、フレキシタリアン(肉や魚も食べるが部分的に菜食)といったライフスタイルの人々にとっても、肉や乳製品の代替品として重宝されている。さらに、カナダは食文化も多様のため、豆腐は宗教的に特定の肉を食べないハラール、コーシャ食の需要にも応えている。

大豆をベースとした代替肉製品「トファーキー」
このように、カナダでは豆腐が移民の歴史と文化的な要因によって、現在では単なる健康食品ではなく、誰もが楽しめる食材として受け入れられている。
「デザート豆腐」が生まれた理由

Sunrise Soya Foodsの豆腐デザートシリーズ
デザート豆腐を販売している「Sunrise Soya Foods」は、中国からの移民夫婦によってバンクーバーで創業された。もともと普通の豆腐を製造していたが、「豆腐をスナックのように、もっと手軽に食べてほしい」と、商品開発したのがデザート豆腐。
一般に欧米人は白米など味のないものは好まない。そのため、日本食レストランで出される白米には醤油をかけたり、お寿司でも醤油をべったりつけて食べる。また、寿司ロールなどは、スパイシーマヨ(マヨネーズとシラチャーをまぜたもの)をかけるなど、とにかく濃い味を好む。
豆腐も大豆の味しかしないため、肉やチーズ、ヨーグルトといった乳製品の代わりとして、他の具材と一緒に調理するのが一般的である。そのためフルーツのフレーバーを加えることで、豆腐をそのまま楽しめるよう工夫されたのがデザート豆腐だ。これが甘いもの好きのカナダ人にはヘルシーなデザートとしてウケた。味はピーチ/マンゴ、アーモンド、バナナ、ココナッツ、レギュラーの5種類。
今回はデザート豆腐全シリーズを購入して食べてみることに。値段も2カナダドル前後(店によって若干異なる)、日本円にして215円ぐらいと、こちらで売れれている一般的な豆腐の値段と変わらない。

一般のスーパーで普通の豆腐と一緒に売られているデザート豆腐
基本は豆腐、でも食感と味はデザート?
まずは、一番人気と言われるバナナ味から。薄い黄のバナナ色に、口当たりはプリンのように滑らか。バナナの味は確かにするが、どちらかと言えば大豆の味が強い。このバナナ味は多くのスーパーで売り切れになるぐらい大人気だ。「カナダのデザートは甘い」という一般的なイメージを覆す甘さ控えめのヘルシーさと、バナナという誰もが想像できる味が人気なのかもしれない。

上:バナナは薄黄色、下:ピーチ/マンゴは薄いオレンジ
次に、筆者が大変興味をもったピーチ/マンゴ味。こちらも絹豆腐の口当たりで食べやすく、マンゴよりピーチの味がしっかりしている。ピーチやマンゴなど本物のフルーツをトッピングすれば、ホームパーティーや来客時に簡単に準備できるデザートメニューとして最適である。

パックは半分に切り分け可能。手のひらサイズでお弁当やスナックとして持ち運びに便利
ココナッツとアーモンド味は、見た目は白色で普通の豆腐と変わらない。しかし、ココナッツとアーモンドの味がしっかりしており、このまま食しても美味しい品だ。友人のカナダ人は、この2つのフレーバーがお気に入りに。
レギュラーは単なる甘いだけの豆腐だったが、シンプルな甘さだけに野菜などのディップソースなどにアレンジできそうだ。
全5種類ともナチュラル・フレーバーを使用し、甘さ控えめの上に、大豆の味がほのかに残るヘルシーデザート。店の人に聞いたところ、フルーツ味の豆腐で簡単に作るスムージーが、乳製品が苦手な人に人気だとか。
ちなみに中華系の豆腐スウィーツである杏仁豆腐(あんにんとうふ)、豆花(トウファ)・豆腐花(トウフーファ)などとカナダ版デザート豆腐との違いは、その原料と調理法にある。
デザート豆腐が、豆腐の製造過程でフレーバーを加えた豆腐そのものであるのに対し、杏仁豆腐は杏仁(アンズの種の中身)を原料として砂糖やゼラチンで固めたもので、厳密に言えば豆腐ではない。豆花(トウファ)・豆腐花(トウフーファ)は豆乳を固めたものに、甘いシロップや果物などをトッピングをしたもの。

大手スーパーではナチュラルフードのセクションを設け、代替肉の製品を数多く販売
カナダは世界有数の大豆生産国であり、そのことも豆腐の普及を後押ししている。また近年、豆腐や大豆ベースの代替品の消費が大幅に増加しており、特に代替肉産業は大きな成長を遂げている。これらの製品の多くは主菜だが、これからは、さらにデザート製品の種類も増えていくだろう。
取材・文/布施泉
カナダ・トロント在住のフリーランスライター。企業のオウンドメディアやインタビュー記事ほか、複数のメディアにカナダ情報を執筆。岡山県出身、神戸に長く住んでいた自称神戸っ子。映画と筋トレをこよなく愛し、世界を旅するノマドライフに憧れている。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員