
日本の映画界では『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章 猗窩座再来』が大ヒットを記録し、毎週のように記録を塗り替え話題になっている。しかし、その一方で6月20日からNetflixで配信されているソニー・ピクチャーズ アニメーションによる映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が、世界を席巻しているのをご存じだろうか?
日本中が鬼滅に染まっていたこの夏、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は8月24日までの約2か月で視聴数が累計2億3600万に達し、『レッド・ノーティス』(2021年)を抜いてNetflix映画として歴代トップに上り詰め、一大ムーブメントを巻き起こしている。本記事ではこの作品について40代男性編集者の偏見と偏愛に満ちた切り口で紹介、分析していきたい。
「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」とは? 一体、この作品は何なのか?
「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」という若干意味不明なタイトルを見て、KPOPや韓流ドラマに興味のない人はスルーしてしまうのでないか? 正直、タイトルを聞いても内容の創造ができないし、よくあるアイドルアニメくらいに思っていた。
簡単にあらすじを説明すると、以下のような感じ。
KPOPスーパースターのルミ、ミラ、ゾーイ。けれど、その裏では、常に迫りくる不可思議な脅威からファンを守るため、正体を隠して戦う凄腕のデーモン・ハンターズでもあった! そんな彼女たちの前に、これまでで最も手強い相手が現れる。それは、圧倒的な魅力を放つライバルのボーイズバンドに化けた、敵デーモンたちだった。
Netflix映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』6月20日より独占配信中
ねっ、まったく意味わからないでしょ?
これを見ただけだとヒットする気配も感じない、そもそもこの作品も日本ではほぼしてないんじゃないでしょうか。事前にまったく見た記憶がない。
ただ、とりあえず騙されたと思って見てみてください。KPOPに全く興味のなかった筆者もドハマりするくらいおもしろかったです。
その人気の理由を、複数の側面から分析・解説します。
1.「K-POP × デーモン・ハンター」という意味不明で斬新なコンセプト
人気の最大の要因は、「世界的な人気を誇るK-POPガールズグループが、実は悪魔と戦うデーモン・ハンターだった」という、誰もが想像しなかったであろう斬新で謎過ぎるコンセプトにあります。
異色の組み合わせの妙
華やかなステージでファンを魅了する姿と、人知れず超自然的な脅威から人々を守るハンターとしての姿。このギャップと二面性が、視聴者に強いインパクトと新鮮な驚きを与えていると思います。
アクションと音楽の融合
K-POPのダイナミックなパフォーマンスと、悪魔とのスリリングなバトルアクションが違和感なく融合。ミュージカル要素も加わり、全く新しいエンターテイメント体験を生み出しています。
2. 現実世界を席巻する「本物」の音楽
この作品の人気を決定づけたのは、劇中に登場する楽曲の圧倒的なクオリティの高さです。架空のグループの楽曲が、現実世界の音楽チャートを席巻するという前代未聞の事態を引き起こしました。筆者もこの作品を初めて認識したのはSpotifyのランキングでした。
ビルボードNo.1ヒットの創出
劇中のガールズグループ「Huntr/x(ハントリックス)」が歌う楽曲『Golden』は、米ビルボードのメインシングルチャート「ホット100」で1位を獲得。グローバルチャートでも5週連続で首位をキープしました。これは、アニメの劇中歌としては異例中の異例であり、作品の知名度と評価を爆発的に高めました。また劇中曲が4曲同時にTOP10に入る偉業も成し遂げています。
人気アーティストの参加
サウンドトラックには、世界的な人気を誇るK-POPグループTWICEが参加。既存のK-POPファン層を作品に引き込む大きなきっかけとなりました。
音楽そのものの魅力がスゴい
K-POPのトップクリエイターたちが手掛けた楽曲は、キャッチーなメロディと本格的なサウンドで、音楽ファンからも高い評価を得ています。KPOPを全く聞かなかった筆者も日々の通勤で毎日聞くくらいハマっています。
音楽と映画のヒットが相乗し、さらにその人気がネットでバイラルに拡がっていくこのプロセスは、かつての『アナと雪の女王』を思い起こさせますね。
3. ファンを熱狂させる「参加型」の仕掛け
『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』は、ただ視聴するだけの作品にとどまらず、ファンが積極的に「参加」できる仕掛けで熱狂を生み出しています。
シングアロング上映会の成功
ファン参加型の「シングアロング上映会」として2日間限定で公開された劇場版が、人気ホラー映画『Weapons』などを抑えて週末興行収入1位を獲得。これは、配信プラットフォーム発の作品としては極めて稀なケースと言えるでしょう。映画館がコンサート会場のような一体感と熱気に包まれ、ファンに特別な体験を提供し、その熱狂がSNSなどを通じて拡散され、さらなる人気を呼びました。
フィクションと現実のクロスオーバー
劇中のアイドルが現実にデビューし、ヒットチャートを駆け上がるかのような現象は、ファンに「物語が現実になった」かのような興奮を与え、作品への没入感を極限まで高めています。
敵として立ちはだかるボーイズグループ「Saja Boys(サジャボーイズ)」。なぜ敵がボーイズグループなのか…?はあまり考えず、素直に受け入れるしかない。
4. ハイクオリティなアニメーション
『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズで世界を驚かせたソニー・ピクチャーズ アニメーションならではの、スタイリッシュで躍動感あふれる映像美が物語の魅力を最大限に引き出しています。これ、ホントに一見の価値ありです。鬼滅の映像美とはまた違う、新たなアニメ表現を見せてくれます。その評価は辛口の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でもNetflixのオリジナル映画史上、最高の記録を更新、なんと批評家スコア97%! Netflixの過去のオリジナル映画の中で批評家スコアと視聴者スコアの合計点も最も高く、同サービスにおける最高記録を更新したそうです。
結論、エンタメ分野でのソニーの躍進がやばくないか?
「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」の成功は、単に奇抜なアイデアだけでなく、本格的な音楽、ファンを巻き込む戦略、カルチャーへの深い敬意、そして普遍的な物語性という複数の要素が奇跡的なバランスで融合した新しい時代のアニメを予感させるものだと思います。
日本においては、最新の8月18-25日のNetflix映画ランキングで2位に再浮上。ビルボード・ジャパンチャートでは先週31位にまで順位を上げてきています。他国に遅れて日本でもやっと大ブレイクの兆しを見せ始めましたが、海外の盛り上がりに比べるとまだまだといった印象。日本のアニメのクオリティは疑う余地もありませんが、このムーブメントは見逃せないし、一見の価値はあると思います。
そして、何よりソニー・ピクチャーズ・アニメーションがスゴい。なぜか日本ではあまり話題に上っていませんが、今やディズニーやピクサーなどを抑えて、一番ホットなアニメスタジオじゃないかというくらいの勢いを感じます。そういえば鬼滅もソニー・ミュージックエンターテイメントの子会社であるアニプレックスが制作だし、IPビジネスを全世界に展開するソニーグループが「ディズニー超え」を狙うというのも、決して夢物語ではないかもしれないと感じました。
文/たかとし
睡眠時間と命を削ってエンタメコンテンツを消費し続ける廃人編集者。動画配信サービスはNetflix、U-NEXT、Disney+、AppleTV、Amazon Prime Video、DAZNに登録、本業の合間に毎週ドラマワンシーズン、映画3本をノルマに気が付けば朝を迎えている。1.5倍再生がデフォルト。