
9月を超えても厳しい残暑が続くことが見込まれているが、車移動が多い家族にとって常に配慮しておかねばならないのが車内で起こる子供の熱中症である。
55%の親が車内に子供を置き去りにしたことがある
先日、福岡県中間市の公共施設「なかまハーモニーホール」で行われたユニークな訓練は、子供が車の中に取り残されたという設定で、お尻でクラクションを鳴らす行為を子供たちに体験させることであった。つまり力のない子供たちでも、お尻でハンドル中央部分をプッシュしてクラクションを鳴らし、現在の窮状を外に知らせる体験を共有したのである。
2021年7月、同市では保育園の送迎バスに取り残された園児が熱中症で死亡するという痛ましい事件が起きており、再発防止に向けた取り組みとして企画されたのがこの“お尻クラクション”なのだ。
車内に置き去りにされた子供が熱中症死する事案は近年各地で相次いで起きており、新潟市では2022年5月、車内に3時間以上置き去りにされた1歳5カ月の幼児が死亡しており、神奈川県厚木市では22年7月、車内に残された幼いきょうだい2人が死亡している。
幼い子供を持つ親たちの意識はどうなっているのか。
一般社団法人「日本自動車連盟(JAF)」が2022年12月~23年1月に12歳以下の子どもがいる246人に対して行った調査で「時間の長さに関わらず、少しの時間であっても子どもを車内に残したまま車を離れたことがあるか」と聞いたところ、54.9%が「ある」と回答するという衝撃的な実態が明らかになっている。
車社会の米国でも深刻な小児熱中症死亡事故
車内での子供の熱中症は車社会のアメリカでも深刻だ。
「車内の温度が致命的になるまで、外がそれほど暑くなくても構いません」と、子供の熱中症による死亡事例を研究している気象学者のヤン・ヌル氏は5月にSNSに投稿した。
「2025年に初めて車内での熱中症による子供の死亡が発生したのは、気温がわずか20度だった日でした」(ヌル氏)
ヌル氏のウェブサイト「NoHeatStroke.org」は1998年まで遡って高温の車内での子供の死亡を追跡している。
ヌル氏が1998年から2024年の27年間に起きた1010件の交通事故による小児熱中症死亡に関するメディア報道を調査すると、次のような状況が浮き彫りになった。
●52.6%:養育者に車内に置き去りにされた(505人の子供)
●23.8%:自力で車に乗り込んだ(237人)
●21.8%:介護者が故意に置き去りにした(202人)
●1.9%:不明(26人)
1998年~2024年における車内熱中症による死亡例の年齢は、生後5日から14歳までと幅広く、死亡者の半数以上(54%)は2歳未満の乳幼児であった。詳しくは次の通り。
●1歳未満:31%
●1歳:23%
●2歳:19%
●3歳:14%
●4歳:6%
●5歳:3%
●5歳以上:4%
アメリカでは毎年、涼しい日でも気温が急上昇する可能性のある駐車中の車内に放置されたまま、数十人の子供が亡くなっている。今年に入ってからでも、8月18日までに全米ですでに23人もの乳幼児や児童が車内で亡くなっているのだ。
ノースカロライナ州に住む生後7カ月の女児のケースも含まれており、この女児の里親は今月、ミニバンに「不明な期間」女児を放置したとして過失致死の罪で起訴されている。
ヒューマンエラーを防ぐには
厳しい残暑が当分続いていく中、子供の車内熱中症リスクについてまだまだ気を抜けないのだが、では具体的にどのようなことに配慮すべきなのか。
JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)のウェブサイトでは、子供の車内放置を防ぐための物理的な安全対策について、子供たちの命を守るために我々ができることのポイントを解説している。
要となるのは運転者の注意力だけに頼るのではなく、同乗者や送迎先を含めてチェックを習慣化することにあるという。子育て中の家庭の親に稀ではあるものの起こり得ることは、忙しさや疲労から子供が後部座席に乗っていることをうっかり忘れてしまうことにある。これは不可避の“ヒューマンエラー”であり、不注意の非を咎めても仕方がない。
新型モデルの中には、後部座席に人が残ったまま車を降りると警告音が鳴るセンサーが搭載されている車種もあり、子供の置き去りを防ぐうえできわめて有効である。ぜひこうした車種を選んで活用したいものだ。
厄介なのは子供が後部座席で眠っている場合だ。ちょっとした買い物の用事であれば、親は子供を起こさないまま車を離れたくなるのも理解はできるのだが、日差しがある日は気温が20度台であっても、駐車中の車内の気温は急激に上昇することが各種の実験で確かめられている。
ましてや暑い夏の時期に眠っている子供を車内に残すという愚は避けなければならない。
車内熱中症は大人にも同様のリスク
車内熱中症はは子供に限らず大人でも同様のリスクがあり、今年6月17日には最高気温36.2度の猛暑に見舞われた埼玉県越谷市の共同住宅の駐車場で、運転席のドアが開いた軽自動車で65歳の女性が熱中症によって死亡する事故が起きている。
JAF認定セーフティアドバイザーによると気温35度の場合、エンジン止めてわずか15分後には車内は熱中症で命を落としかねない危険な温度に達し得るということだ。
そしてもちろん同乗者だけの確認に留まらず、車内の異常に気付いた目撃者による声かけや通報も重要である。万が一の悲劇を防ぐためには、社会全体で危険性を正しく理解し、周囲の人々が互いに注意を払うこともきわめて大切である。
埼玉県越谷市の件では残念なことになってしまったが、当件でも異常に気づいた通行人が救急車を呼び、女性は病院に搬送されている。もう少し早い段階で気づく人物がいたなら女性は助かっていたのかもしれない。まだまだ暑い日が続く中、車内熱中症という悲劇を繰り返してはならない。
※調査レポート
https://www.noheatstroke.org/
※参考記事
https://journalistsresource.org/health/child-dead-left-hot-car-research/
https://jaf-training.jp/column/leaving-children-in-the-car/
文/仲田しんじ
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