
チャンネル登録者数49万3000人。配信先駆者も直面する厳しい現実
コロナ禍に新規チャンネルの開設が相次いだYoutube(ユーチューブ)。サッカーに関して言えば、現役日本代表の堂安律(フランクフルト)、鎌田大地(クリスタルパレス)、長友佑都(FC東京)らのチャンネルがあるし、元日本代表の本田圭佑、鈴木啓太、前園真聖らも積極的に発信。さらにはマキヒカやLISEMなど元Jリーガーではユーチューバーも数多く活動している。
その先駆者と言えるのが、2018年から「那須大亮Youtubeチャンネルを運営する那須大亮だ。彼がチャンネルを開設したのは、まだヴィッセル神戸で現役生活を送っていた時。「Jリーガーがユーチューブ配信をするのはいかがなものか」といった批判にもさらされたが、当時のチームメートである元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ、元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキらが登場すると、一気に登録者数が増加。活動が軌道に乗った。
そのまま2019年末に現役引退を決断。2020年からスムーズにセカンドキャリアに移行し、さまざまな企画を実行に移していったところ、チャンネル登録者数が49万3000人に到達(2025年8月現在)。これは元プロ選手が運営するチャンネルの中で断トツトップである。
しかしながら、コロナ禍が明け、人々の活動が活発化したこともあり、近年はユーチューブ自体がやや伸び悩んでいるようにも見受けられる。そのあたりの事情を那須はこう説明する。
「コロナ禍に新規参入者が大幅に増え、市場としてはかなり分散化してきた印象があります。しかも、広告単価で言うと、5年前の約半分になったのが実情。サッカーの場合、日本における立ち位置が野球ほどの影響力を持たないという厳しい現実もありますね。
日本代表は2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選を圧倒的強さで早々と突破し、来年の本大会に向けて準備を進めていますが、最終予選のアウェー戦は地上波で放送されなかった。メディア露出が減少傾向の中でマーケットを広げるために、地上波や各メディアでの露出を進めることが日本サッカー発展につながるという意味で重要だと危機感を強めています」と彼は神妙な面持ちで言う。
よりニッチな情報を届けつつ、コンテンツの質を上げる方向へマイナーチェンジ
だからこそ、現状維持では登録者も増えないし、既存の視聴者も離れてしまいかねない。そういう危機感を持ちながら、那須は「二の矢」を放ったという。
まず1つ目は、自身のチャンネル内で高校や大学、社会人リーグなどに目を向け、よりニッチな情報を届けるようにしたこと。
初期の頃はイニエスタやポドルスキら世界的名手、槙野智章(品川CC監督)や山口蛍(長崎)、酒井高徳(神戸)にようなW杯経験者との対談やレッスンなど、比較的メジャー路線を歩んでいた時期もあったが、最近は2022年カタールワールドカップ(W杯)・ドイツ戦で決勝弾を叩き出した浅野拓磨(マジョルカ)の出身校である四日市中央工業高校、2024年限りで引退した青山敏弘(現サンフレッチェ広島コーチ)を輩出した作陽高校への潜入レポートなど、コアなサッカーファンを意識した内容になっている。
「ユーチューブ活動を始めてから7年が経過しましたが、日本サッカーの発展のために各カテゴリーのレベルアップの一助になりたい思いが強まってきました。
そこで目を向けるところを少し変えて、更新頻度も2~3日に1回・月に12本程度と少し減らして、1本あたりの質を高めるように方向転換したんです。
最盛期は週4回更新していた時もありましたから、とんでもない頻度でした(苦笑)。僕もDYNAS(ダイナス)という会社を本格的に稼働させ、サッカーイベントを開催して自ら参加したり、サッカー関連事業、講演、メディア出演なども掛け持ちしていましたから、多忙過ぎて本当に大変だった。そういう詰め込みすぎの状況を自分なりに見直して、クオリティを上げることに注力するようにしたんです」と那須は路線をマイナーチェンジしたことを明かす。
グローバル展開の重要性を実感。より世界との行き来を増やしたコンテンツ作りを!
2つ目はグローバル展開だ。コロナ禍が明け、2022~23年以降は自由に海外を行き来できるようになったこともあって、那須は海外に目を向けるようになった。2023年にはFCバルセロナ、2024年にはブラジルへ赴き、実際に現地でプレー。日本のサッカー界とは異なる実情を配信したところ、大きな反響があったという。
「一番手ごたえを感じたのが、1年前のブラジル挑戦でした。チャンネル登録者数が大きく伸び、動画の再生数も通常コンテンツより増えました。
1つ大きかったのが、ポルトガル語の字幕を付けた動画を配信したこと。ある回は70万回再生に達したんですが、それだけ現地の人が見てくれたということなんです。
日本語を母国語とする人は1億人ほどしかいませんが、ポルトガル語になれば、2億5000万人に広がる。ブラジルやポルトガルではサッカー人気が格段に高いですよね。それだけ大きなポテンシャルがあることを再認識できた。それは意味のあることでした。海外コンテンツと外国語の強化は今後の重要ポイントになりますね」
こう力を込める那須。彼は2025年に入ってからも、アメリカ・メジャーリーグサッカーに参戦中のバンクーバー・ホワイトキャップスでプレーする日本人GK高丘陽平、タイ・プレミアリーグのBGパトゥム・ユナイテッドでプレーする日本人MF野津田岳人のところを訪問。カナダやタイのサッカー事情を深掘りしている。日本のテレビメディアは日本代表以外のプレーヤーの近況や現地環境などをあまり取り上げないため、一部のファンにとっては非常に有益な情報だと言っていい。