
EVにソーラー発電を採り入れて、太陽光エネルギーで得た電力を自産自消して走る究極のEVライフは、はたして実現できるのか?私は、数年前に実家で暮らす母が近所を移動するためのクルマとして、軽EVの日産「サクラ」を選んだ。いわゆる“にわか”EVオーナーでもある。
EVにソーラー発電機能を搭載することは可能なのか?
地元にガソリンスタンドが無くなって、遠方のガソリンスタンドに行くより自宅で充電できるEVのほうが便利だと考えたのは正解だった。私としては乗っているうちに欲は出てきているものの、母の移動範囲は遠くても30km圏内なので満充電で航続距離が約180km(※うちの「サクラ」は夏場は170kmぐらい)で十分といったところ。EVは、使用環境や条件さえ合えばオイル交換などメンテナンスにかかるコストも減るので、大いに選択肢のひとつになり得るクルマだと感じている。
そんなEVでもし自車発電による走行が可能になったら、究極のカーボンニュートラル(CN)カーライフが実現することになるわけだが、車両(パーツ含む)の生産からCNが実現すれば、さらに究極の形に近づくことになる。メーカー各社が現在、研究開発に熱心に取り組んでいるということは言うまでもない。
では、本当にEVにソーラー発電機能を搭載することは可能なのか? 現在、走行の一部をソーラー発電でまかなうことができるクルマは存在する。ソーラーパネルをオプション設定しているトヨタ「プリウス」のプラグインハイブリッド(PHEV)は年間1200km分ぐらい、また、トヨタ「bz4x」とスバル「ソルテラ」は1800km分くらいを自車のソーラーパネルによる発電でまかなうことができるという。でも走行の100%をソーラー発電でまかなうことができる市販車は存在しない。
ところが、その100%ソーラー発電による走行を目指して、自ら製作したシステムで実装実験を試みるモータージャーナリストの先輩がいる。国沢光宏さんだ。国沢さんは、都内にあるご自宅と八丈島の2拠点で生活されているのだが、八丈島ではホンダの軽EV「N-VAN e:」を購入し、ルーフにソーラーパネルを取り付けて、今年3月から太陽光発電を活用したEVライフを愉しんでいるという。先日、八丈島までおじゃまして、その様子を取材させてもらうことができたので紹介したい。
自家製ソーラー発電EV「デンキチ」(愛称)に試乗
国沢さんが「デンキチ」(愛称)と呼ぶ自家製ソーラー発電EVは、ルーフに家庭の屋根に取り付ける1枚分くらい(畳み1畳分くらいのサイズ)のソーラーパネル(545W)を鉄製のキャリアで固定した状態で搭載している。荷室にはソーラーパネルで作った電気を貯めるポータブルバッテリー(5.12kWh)が積み込まれている。余談だが、ボディーカラーのボタニカルグリーン・パールとコーディネートしたと思われるカーキ色のバッテリーもお洒落だ。
搭載しているソーラーパネルは「N-VAN e:」のルーフ部の耐荷重50kgに収まる範囲で、可能な限り、発電できるサイズという前提で選んだという。ただ、これにはしっかりパネルを固定できるフレームの重さも考慮しなければならないため、試行錯誤の上、構造、重量、発電量、すべての条件でベストだと思われるこのパッケージに決まったそうだ。
ちなみに、その総重量はソーラーパネルが28kg+フレーム2kgで30kg。5.12kWhのポータブルバッテリーは10時間ほどで満充電になり、これをクルマのバッテリーに充電すると約30km走行可能になるという。
ちなみに、このシステムではソーラーパネルで発電した電力をそのままEVのモーター駆動に活用することはできない。本来ならソーラー発電した電気(直流)をそのまま「N-VAN e:」(直流)の電池に貯められたらいいのだが、現段階では交流の充電機能しか持っていないため、一度ポータブル蓄電池(バッテリー)に貯めてからクルマに充電をするそうだ。
「自動車メーカーが太陽光をそのまま使えるようにすれば、こんなポータブルバッテリーなんか要らないのに」と国沢さんは話す。「プリウスPHEV」もソーラーパネルで発電した電気を初めはエアコンにしか使えなかったが、今では走行に使えるようにした。とはいえ、コストやニーズ、性能保証などを考えると、100%太陽光発電で走行できるシステムの実現はなかなか難しいのかもしれない。といったことも考えさせられるいい機会になった。
実際に「デンキチ」を運転させてもらったが、もともとEV走行をするためにバッテリーを床下に配置しているからなのか、下半身がどっしり安定しているため、ソーラーパネルを載せたルーフの重さは山間部のワインディング走行でも気にならなかった。八丈島のスピードでゆるゆると走ったこともあるのかもしれないが。
今回は、ひょうたん型をした八丈島の北西部をグルッと約18kmドライブしたのだが、電費は10.5km/kWh。航続距離はまだ87kmを表示していた(※走行状況によって航続距離は変わる)。島内を走るクルマの平均速度が低いことを考慮してもこれはかなり良い数値だ。「N-VAN e:」の性能も良いのだろうが、乗り物として考えても本当良い。これなら八丈島の中で暮らしながら足として使うなら、十分かもしれない。
国沢さんの場合、八丈島島内での日常的な走行距離は17~18kmぐらいだそうでこちらに来てから、すべて太陽光発電でまかなうことができているという。いざとなれば、自宅でも充電できるし、そもそも「N-VAN e:」の最大航続距離は245km(WLTCモード)もある。
「今はまだ、自宅で充電ができない方にEVを薦める時代ではないが、やがてはEVの時代が来るでしょう。そのころには充電設備がもっと必要になるし、太陽光パネルも進化して、搭載車の開発が進むのではないでしょうか。うちのデンキチも発電力が大きいラミネート製のモノなんか使えるようになればもっと走れるようになるでしょう。今はごく一般的な発電システムを利用して、個人でできることをやっているだけです」と国沢さんは話す。
自宅で充電が可能で、日常の移動距離も少ない島で暮らす方にとってEVは便利な道具になることは間違いない。離島ではないが、過疎化が進む田舎で軽EVに乗る“にわか”オーナーの実体験から見ても、EVは有力な選択肢であると確信している。もし今と同じ車両価格でデザインも変わらず、30km分くらいの走行を太陽光発電でまかなえるようになったらいいのにと感じた取材だった。というか、この生活を実践してみようと思った国沢さんはやっぱり凄い方だなと感動させられた。
冒頭で、自車で発電しながら走るEVを究極、と表現したが、コスト面や耐久性に優れたクルマ用のソーラー発電システムが開発されたら、これも特別なことではなくなるはず。近い将来、そんなクルマが現われるのか。これからも注目していきたい。
■関連情報
https://www.honda.co.jp/N-VAN-e/
https://kunisawa.net/
取材・文/飯田裕子(モータージャーナリスト)