
ヴィジュアル系とは一体何なのか?音楽性を指すのか、それとも過激で耽美なファッション性を指すのか、はたまた全てをひっくるめた文化そのものを指すのか。約30年前に突如として現れたシーンについて、結局のところ答えが出ていない人も多いだろう。そして、そんな謎に包まれたシーンが、令和の今、ブーム再燃を迎えている。この記事では、当時のシーンに深く精通するライターとバンギャ歴20年の編集者がタッグを組み、「ヴィジュアル系再燃の理由」を、11月開催のヴィジュアル系イベント「CROSS ROAD Fest」の発起人・YUTAKA氏にインタビュー。自身もヴィジュアル系バンドとして活躍し、業界と深い繋がりを持つ同氏に、90年代ヴィジュアル系が盛り上がる裏側を聞いた。
90年代に日本のロックシーンを牽引していた「ヴィジュアル系」。作り込まれたメイクや衣装は芸術性が高く、10~20代の若者を中心にカリスマ的な人気を誇っていた。
2000年代半ば、人気バンドの解散やアイドルブームの台頭などでシーンに陰りが出るが、ブームから30年以上経った今、再び盛り上がりを見せている。背景には何があるのか。
そもそも「ヴィジュアル系」とは何なのか?

ブーム再燃の背景を紐解く前に、簡単にヴィジュアル系とは何なのかについて整理しておきたい。
ヴィジュアル系とは、派手なメイクや衣装、ヘアスタイルで独自の世界観を表現するバンド、または文化そのものを指す。ちなみに「ヴィジュアル系」という呼称の由来は、1990年頃にX(現X JAPAN)が掲げていたコピー「SYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」から来ていることは広く知られている。
ヴィジュアル系の創世記は退廃的かつ耽美的なイメージが主流にあったが、後に多文化との融合により、メイクがソフトになったり、ポップなファッション性になったりと個性的に進化していった。日本特有のロックカルチャーとして、ヨーロッパやアジア圏での人気も高い。
また、特徴的なのはバンドを熱狂的に追いかける「バンギャ」と呼ばれるファンの存在で、まさにバンドと一心同体となってライブに遠征し、頭を振り、バンドの世界観に合わせたファッションやメイクで現場を彩る。
このように、音楽性はもちろん、それを表現するためのメイクやファッション、そしてファンが作り上げる熱狂的な文化を含めて「ヴィジュアル系らしさ」といえるだろう。
90年代ヴィジュアル系ブームが再燃する理由
約30年前、熱狂的なムーブメントを起こしたヴィジュアル系。一時はバンドの解散も相次ぎ、陰りを見せていたシーンだが、なぜ今再び注目が集まるのか。

「去年から今年にかけて、デビュー30周年や、結成35周年といった周年イヤーを迎えるビッグアーティストが多かったんです。それをきっかけに活動再開するバンドもいて、偶然ですが、ヴィジュアル系界全体の機運が高まっていると言えますね」と、教えてくれたのは、YUTAKA氏。アーティストのマネジメントを手掛けるほか、11月に開催されるV系イベント「CROSS ROAD Fest」の発起人でもある。
同イベントは、La’cryma ChristiやSHAZNA、FANTASTIC◇CIRCUSを始め、D’espairsRay、L’luviaなど時代を支えたレジェンドバンドが一挙に集まることで、発表されるやいなやSNSで大きな話題を呼んだ。

「クロスロードには、交差するという意味があります。ファンもバンドも、いろんな道を歩んできてまたここで交わる。その時を分かち合おうよという気持ちで企画しました。90年代に活躍していたヴィジュアル系バンドがそろい踏みするので、いわば同窓会ですね。反響は予想以上、正直驚いています」
近年のライブの客層は、経済的な余裕が出てきた40代以上が中心とのこと。また、昔は見られなかった親子連れや、男性の姿もちらほら。
「ヴィジュアル系というと見た目重視な印象を持たれがちですが、実はメロディアスでポップ。音楽的に非常に優れているので、男性が聴いていても不思議じゃないですよ。さらに、人生をかけて応援してくれるファンがいる熱狂ぶりも特徴ですよね」
〝推し活〟なんて言葉ができる以前から、ヴィジュアル系界隈はそうあり続けていたようだ。運命共同体ともいえるファン心理が30年越しのブーム再燃を支えている。
さらに、熱いのは「CROSS ROAD Fest」だけではない。同じ11月、同じ幕張の地で、今年は「ルナティックフェス」の開催も発表されている。
LUNA SEAが主催することで知られ、今年で3回目を迎える同フェス。「CROSS ROAD Fest」がいわば90年代ヴィジュアル系の同窓会のようなイベントであるのに対し、「ルナティックフェス」では世代を超えたバンドの共演が見られるのが特徴だ。LUNA SEAやBUCK-TICK、黒夢といったレジェンドはもちろん、その次世代としてシーンのトップを走り続けるDIR EN GREY、さらにはネオヴィジュアル系世代として2000年代半ば以降を盛り上げたムック、シドも出演。
加えて、ヴィジュアル系には分類されないロックバンドも多数出演し、世代と文化を超えたイベントとなっている。

来る11月はヴィジュアル系尽くしのひと月。バンドの復活を背景に、こうしたイベントの開催も手伝い、ヴィジュアル系シーンは熱を帯びているといえるだろう。
90年代を盛り上げたヴィジュアル系四天王の存在
YUTAKA氏が語るように、90年代ヴィジュアル系が盛り上がる背景には、レジェンドバンドの復活がある。
「CROSS ROAD Fest」では、La’cryma Christiが12年ぶりに期間限定で復活。さらに、当時を彩ったヴィジュアル系四天王のうち、活動停止中のMALICE MIZERを除く3バンドのメンバーが集結することで話題となっている。
ここで、ヴィジュアル系四天王の存在を軽く解説しておきたい。
■La’cryma Christi

12年ぶり、期間限定で大復活。バンド名のラクリマ・クリスティーは、キリストの涙という意味。
■SHAZNA

ボーカル・IZAMの中性的なルックスと歌唱スタイルで人気に。ヒット曲「Melty Love」でヴィジュアル系シーンを超え、広く知られるように。
■FANATIC◇CRISIS

2005年に解散するが、石月努、kazuya、SHUN.の3人で、バンド名を新たにFANTASTIC◇CIRCUSとして再始動。
■MALICE MIZER

中世ヨーロッパ風のクラシカルな世界観で、唯一無二の存在感を誇る。二代目ボーカルはGACKTが務めた。2001年12月31日をもって活動停止中。
簡易年表で振り返るヴィジュアル系30年史
最後に、ヴィジュアル系の30年の歴史を4つの時代に分けて紹介したい。この中に、あなたが熱狂したバンドはいるだろうか。歴史を振り返りながら、今再燃を見せる同シーンをさらに沸き立たせてほしい。
■黎明期(80年代後半~90年代前半)
ウィジュアル系の先駆者といわれるX(現X JAPAN)や、今も第一線で活動中のBUCK-TICKなどが衝撃デビュー。
『FOOL’S MATE』や『SHOXX』といった専門誌が登場し、「ヴィジュアル系」という言葉を定着させた。DEAD ANDやCOLOR、D’ERLANGERなどのバンドが活躍した時代でもある。
黄金期(90年代半ば~後半)
LUNA SEA、黒夢、GLAY、前述のヴィジュアル系四天王などが、お茶の間の人気者に。音楽番組にも多数出演し、シーンが広く知られるようになる。その後、Janne Da ArcやDIR EN GREYといった次世代へとシーンを繋ぐ役目を担った人気バンドが登場していく。
ここからはあくまで考察だが、バンドがヴィジュアル系か、ヴィジュアル系でないか、という自認はこの頃から生まれたのではないだろうか。同時期に登場したL’Arc〜en〜CielやGUNIW TOOLS、CASCADEなどは、そのメイクやファッション性からヴィジュアル系として扱われることもあったが、彼らの発言やスタンスを見るにヴィジュアル系ではないと分類するのが妥当だ。
このように黎明期の雑誌文化と共に客観的な括りとしての「ヴィジュアル系」が創造され、90年代半ば以降の黄金期では、その括りに自身を分類させるか、バンドが主体となって選択していく流れに変化していったと推察できる。
■ネオ系期(00年代)
ブームはやや下火になるも、先のバンドに影響を受けたネオヴィジュアル系と呼ばれる次世代のバンドが出現。
括り方には諸説あるが、ネオヴィジュアル系四天王と呼ばれるアリス九號.、the GazettE、シド、ナイトメアの4バンドを筆頭にシーンが再起し、これらのバンドが東京ドーム公演を行う事例などもあった。
ポップなメイクや音楽性が特徴のアンティック-珈琲店やLM.C、エアーバンドのゴールデンボンバーなど、バンドの多様性が広がった時代でもあり、ヴィジュアル系の中でもジャンルが多岐に分かれていった。
再燃期(現在)
黄金期を支えたバンドの再活動が盛んに。当時のファンはもちろん、若いファン層も巻き込み、ブーム再来の兆しを見せる。
また、90年代のヴィジュアル系バンドが再びを人気を集める中、令和の人気バンドも見逃せない。
0.1gの誤算、DEZERT、キズ、-真天地開闢集団-ジグザグなど、新たなバンドサウンド、さらには新たなマーケティング手法を駆使した新時代のヴィジュアル系バンドも確実に勢いを見せている。
90年代のブーム再燃と新時代を作り上げるバンドの台頭――これらの流れを見てもわかるように、ヴィジュアル系というシーンはいつの時代も熱を帯びている。この先30年経とうが、この熱量が冷めることはないだろう。
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取材・文/和田明子 本誌編集・Web記事再構成/井田愛莉寿