『傍観者効果』とは、緊急時や問題発生時に周りに人が多いほど、自ら行動を起こさなくなる心理現象を指します。多元的無知や責任分散、評価懸念が主な原因です。
目次
「傍観者効果」とは?
傍観者効果は、私たちの日常に潜む身近な心理現象です。まずは、具体的にどのようなものなのか見ていきましょう。また、広く知られるきっかけとなった出来事も紹介します。
■「傍観者効果」の基本的な定義
傍観者効果とは、緊急時や問題が発生した際、周囲に多くの人がいるほど積極的な支援行動が起きにくくなる現象です。
心理学者のダーリーとラタネの研究で、参加者が少ない状況では迅速に援助行動が取られるのに対し、多くの人がいると援助行動が著しく減少することが明らかになりました。
これは単なる冷淡さではなく、人間の社会的心理メカニズムから生じる現象です。日常生活のさまざまな場面で見られ、時には防衛機能として働くこともありますが、助けを必要とする人が孤立してしまう危険性もはらんでいます。
■「傍観者効果」が研究されたきっかけ
研究のきっかけとなったのは、1964年3月にニューヨークで起きた『キティ・ジェノヴィーズ事件』です。
夜間に帰宅途中のジェノヴィーズさんが暴漢に襲われ殺害された事件です。後の調査で事実関係に疑問も呈されていますが、当時の報道では38人もの住人が目撃しながらも、誰も警察に通報しなかったとされました。
この事件は「なぜ多くの目撃者がいながら誰も助けなかったのか」という疑問を生み、心理学者のダーリーとラタネが、本格的な研究に着手するきっかけとなったとされています。
彼らはさまざまな実験を通じて、緊急を要する事態では周囲に人が多いほど、主体的な行動が抑制されることを科学的に証明しました。
「傍観者効果」の主要原因

複数の要因が複雑に絡み合うことで、緊急時や助けが必要な状況でも行動できない心理状態が生み出されます。何が原因なのか、具体的な例を交えながら解説します。
■多元的無知
主な原因の一つが、『多元的無知』です。緊急事態が発生した際などに、「自分以外の人は状況を把握しているはず」と思い込んでしまう心理状態を指します。
例えば、学校で児童が転んで痛がっている場面を想像してみましょう。周りの子どもたちが動かないのを見て、「みんなが助けに行かないということは、大したことではないのだろう」と判断してしまいます。
多元的無知の本質は、他者の行動を基準に状況を判断してしまうことにあります。他者の反応を手がかりに状況を理解しようとする人間の自然な心理が、皮肉にも援助行動を妨げてしまうわけです。
■責任分散
大勢の人がいる状況では、一人一人が持つべき責任感が薄れ、結果として『責任分散』という社会心理現象が生じます。
例えば、職場でいじめが起こった場合、「助けたい」という思いと同時に「自分が標的になるかもしれない」という不安を抱く人もいるでしょう。
こうした葛藤を和らげるため、「同僚が動かないなら自分も行動しなくていい」と考えてしまいます。特に同調志向が強い日本社会では、責任分散現象が強まりやすいと指摘されています。
■評価懸念
自分の行動が周囲からどう評価されるかを過度に気にする、『評価懸念』も原因の一つです。緊急事態に遭遇したとき、「大げさだと思われたくない」「余計なお世話と思われたくない」という不安から、行動をためらってしまうのです。
例えば、会議で質問したいと思っても、「無知だと思われるのでは」と心配して手を挙げられないことがあるでしょう。周りと違う意見を持っていても、「主張すると周りから嫌われるかも」と考え、黙ってしまうのもよくある例です。
この心理は、「失敗するくらいなら、最初から行動しない方がいい」という完璧主義とも結び付き、傍観者効果を強化してしまいます。
「傍観者効果」の具体例

傍観者効果は、私たちの身近な場面でさまざまな形で現れます。実際にどのような形で現れるのか、日常生活と職場という二つの代表的な場面に分けて具体例を紹介します。
■日常生活
日常生活では、駅のホームや路上などで具合が悪そうな人がいても、通行人が多いほど「誰かが助けるだろう」と皆が素通りしてしまうという状況があります。
また、店員が客にどなられているような状況で、「助けたら自分も巻き込まれるかも」と声を掛けるのをためらうこともあるでしょう。
近年は、SNS上でも傍観者効果が顕著です。誹謗中傷のコメントを目にしても、「自分以外の多くの人が見ているのだから、誰かが注意するだろう」と考えて黙認してしまいます。
■職場
同僚が納期に追われ、残業している状況を考えてみましょう。周囲の社員は「いつも通りだから大丈夫だろう」と多元的無知に陥り、「部長が気付くはずだ」と責任を分散させ、声を掛けずにいます。
その結果、孤立した社員は過労に陥り、最終的には業務の遅延やクレームにつながることもあるでしょう。
また、特に深刻なのは職場でのいじめやハラスメントです。いじめやハラスメントを目撃した従業員が、「自分が標的になるかもしれない」という恐れから、報告することに不安を感じるというケースが少なくありません。
結果として、いじめが職場文化として定着してしまうこともあります。
「傍観者効果」を理解し、適切な行動につなげよう

傍観者効果とは、周囲の人が多いほど、緊急時の援助行動が抑制される現象です。キティ・ジェノヴィーズ事件をきっかけに研究が進み、多元的無知・責任分散・評価懸念という三つの主要な心理メカニズムが明らかになりました。
この効果は日常生活や職場、さらには近年のSNS上でも頻繁に起こります。自分が置かれた状況を客観的に認識し、「誰かがやるだろう」という思い込みを避け、主体的に行動を起こすことが課題解決への第一歩となるでしょう。
構成/編集部







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