
小学館が発行する雑誌「DIME 2025年9・10月号」ではガンプラ発売から45周年を記念してその軌跡をまとめた特集を掲載中。本記事ではその特集からガンプラの歴史に残るエポックメイキングだった出来事を3人の著名なガンプラ好きと振り返るった記事をピックアップ!また、ガンプラ開発に30年携わるBAMDAI SPIRITS岸山さんにもインタビューし、その開発秘話にも迫った。
ガンプラの歴史を懐古したい人も、新たにガンプラに触れてその歴史に興味を持った人も、この記事を読むことにより作る楽しみが増えるはず!
エポックメイキングなキットで振り返る、ガンプラの歴史
ガンプラ45年の歴史の中で、画期的なキットがいくつも登場した。ここで紹介するのは、そんな決して忘れることのできない30モデル。正統進化を果たしたキットから、こだわりを持って設計された変態メカまで編集部の独断と偏見で年代に沿って幅広く紹介する。
第1次ガンプラブーム(1980年-2001年)
アニメ放送終了から半年後、ガンプラが販売開始。当初は苦戦したが、再放送や劇場版の制作発表で売り切れが続出した。

1980年7月 ガンプラ大地に立つ!!

BANDAI SPIRITS『ベストメカコレクション 1/144 ガンダム』330円
最初に発売されたのがこのモデル。キャラクターキットとしては珍しくスケールの概念を導入し、他のMSやMAなどもそれに基づき立体化された。
1980年12月 関節の保持力が大幅アップ

BANDAI SPIRITS『1/60 ガンダム』『1/60 シャア専用ザク』各2200円
ガンプラとして初めて関節にポリキャップを採用。この後、ポリキャップは数多くのキットで採用されたが、ABS樹脂のパーツが登場したことで使われなくなっていく。

これまでは関節にプラスチックのパーツを組み合わせていたが、摩耗によってゆるくなることも多かった。ポリキャップの素材は柔軟性のあるポリエチレンで、関節の受け側に使うことでゆるみにくくできる。
1981年11月 MSのしくみが明らかに!

BANDAI SPIRITS『1/72 MS-06Sシャア専用ザク(メカニック・モデル)』2750円
シャア専用ザクの右半身の内部メカニックフレームを再現。ムギ球を使ってモノアイやコックピットを光らせることができる。同時にガンダムも発売された。
1982年7月 ガンダムの世界観を広げたキット

BANDAI SPIRITS『1/144 アッグガイ』440円
ガンプラブームのさなか、アニメ本編には登場しないジオン軍のMSまでもプラモデル化。同じくアッグとジュアッグ、ゾゴックも発売されて話題となった。
1983年7月 塗装よ、さようなら

BANDAI SPIRITS『1/250 いろプラガンダム』絶版
1つのランナーに複数の色のパーツを組み合わせた多色形成によって、組み立てるだけで塗装したかのような完成度を実現。ガンダムは4色のパーツ構成になっていた。
1983年10月 リアリティーを追求し未知のMSをモデル化

BANDAI SPIRITS『MSV 1/60 MS-06R ザクII(黒い三連星仕様機)』2750円
MSを兵器として定義したMSV(モビルスーツバリエーション)。試験機や本編では描かれない仕様のモデルが登場した。
1984年6月 アニメではなく漫画から誕生、ガンプラ累計出荷数1億個突破

BANDAI SPIRITS『MSV 1/144パーフェクトガンダム』660円
『コミックボンボン』(講談社)で連載されていた『プラモ狂四郎』で主人公が作ったオリジナルガンダムをプラモ化。漫画媒体で初めて公認され〝ガンプラはアニメから〟という概念を変えた。
1984年9月 史上初の変形可能キット

BANDAI SPIRITS『1/220 メッサーラ』440円
ガンダム史上で初めて登場した変形MSを立体化。MSからMAへ、パーツの差し替えなしで変形できる。こうした可変機構は、後に『MG Ζガンダム』(3300円)に受け継がれた。
1987年12月 接着剤不要のスナップフィットを投入

BANDAI SPIRITS『1/144 νガンダム』880円
高い精度での設計、製造を実現することで各パーツをはめ込むだけで組み立てられる新技術「スナップフット」を初投入。従来のプラモデルで必須だった接着剤を不要にした。
1990年3月 10周年を記念した初のハイグレード

BANDAI SPIRITS『HG 1/144 ガンダムRX-78』絶版
ガンプラ10年記念に企画された「HG(ハイグレード)」の第1弾。システムインジェクション技術に加え、MSジョイントⅡを採用し、可動域が広がった。
このキットをエポックメイキングなモデルとして挙げたのは、ガンプラの塗装見本を作るアルバイトを経て、ホビージャパンに入社。多くの作例を手掛けてきた『ホビージャパン』編集長の木村 学さん。ガンプラは「人生の半分以上」と話す。
木村 学さんのインタビューはこちらの記事で読むことができる。

「月刊ホビージャパン」の木村学編集長が語る!RX-78-2を見ると〝ガンプラ〟の進化を俯瞰できる!
ガンプラが誕生して45年。DIME最新号は、プラモデルの常識を打ち破ってきたガンプラ45年の軌跡と”その先”を徹底取材! 雑誌の中でも紹介したホビージャパンの…
1991年3月 新素材がガンプラの作りを変えた

BANDAI SPIRITS『1/60 ガンダムF91』6600円
強度が高いABS樹脂を初採用。関節などの力が掛かるパーツに衝撃に強いABS樹脂を使用したが、塗料で破損することがあり、現在は採用するモデルが減っている。
1995年7月 目指したのは「究極のガンプラ」

BANDAI SPIRITS『MG 1/100 RX78 ガンダム』2750円
ガンプラ15周年を記念して、1/100スケールで内部メカまで再現する「MG」が誕生。第1弾となるこのモデルは、コア・ファイターがコア・ブロックに変形する。

頭部のメンテナンスハッチが開閉。内部のメカが精緻に再現されているのが見て取れる。
1998年11月 ガンプラ最高峰のグレードが誕生、ガンプラ累計出荷数3億個突破

BANDAI SPIRITS『PG 1/60 RX-78-2 ガンダム』1万3200円
「究極のプロポーションと可動」を追求したPGの第1弾。外装はもちろん、セミ・モノコック構造を再現したインナーフレームまで精緻に再現する。
1999年5月 可動性を大幅にアップ

BANDAI SPIRITS『HGUC 1/144 RX-77-ガンキャノン』880円
当時の最新技術を採用した「HG」最初のモデル。可動域が広がり、ビーム・ライフルを両手持ちできるようになるなど、多彩なポージングが可能となった。
1999年7月 ガンプラをよりお手軽に

BANDAI SPIRITS『FG 1/144 RX-78-2 ガンダム』330円
20周年を記念して登場したのが、手軽に作れる「FG」。初期ガンプラを最新技術でリニューアル。接着剤を使わなくても組み上げられる。2007年発売の『FG ガンダムヴァーチェ』まで続いた。
2001年1月 設計方法を一新して開発

BANDAI SPIRITS『MG 1/100 MS-18E ケンプファー』4400円
設計に3D-CADを採用した初めてのモデル。内部構造を細かく再現するほか、つま先の一部を可動させるなど芸が細かい。

初期は手書きの製図で設計されていたが、10周年前後にデジタル化が始まり、2次元CADが導入された。ケンプファーで3D-CADを採用。複雑な造形を可能にした。
2001年2月 箱絵の世界を変えた

BANDAI SPIRITS『MG 1/100 MS-07B-3 グフカスタム』3300円
注目のポイントはキットそのものではなく、ボックスアート。初めてCGが用いられ、ガンプラの世界観を一新した。今ではCGが当たり前に。
2001年7月 MS以外の兵器などを立体化

BANDAI SPIRITS『EXモデル 01 1/144 連邦軍用ガンダムトレーラー』3300円
戦車、戦闘機、艦船などを立体化するシリーズ「EXモデル」が登場。写真は1/144スケールのガンダムを搭載可能。『機動戦士ガンダム』第1話の名シーンを再現できる。
第2次ガンプラブーム(2002年-2011年)
ガンプラ20周年に『機動戦士ガンダムSEED』の放送がスタート。当時、小・中学生だった新たなファンを取り込むことに成功した。

2002年12月 気鋭のデザイナーがリファイン

BANDAI SPIRITS『MG 1/100 RX-78-2ガンダム Ver.Ka』3520円
メカニックデザイナーのカトキハジメ氏が監修した「Ver.Ka」の第1弾。フォルムが一新され、内部フレームと武器も新しくなった。マーキングデカールとガンダムデカールも付属。
2003年11月 1200超のパーツで作る究極のモデル

BANDAI SPIRITS『PG RX-78ガンダムGP01/FB』2万2000円
OVA『機動戦士ガンダム0083』の主役機を地上戦、宇宙戦の換装ギミック付きで再現したPG。大型メンテナンスハンガーも付属し、各部の換装パーツを取り付けてディスプレイ可能にした。総パーツ数は、なんと1252!
2006年11月 プロポーションと可動は新世代へ

BANDAI SPIRITS『MG ガンダムF91(ハリソン・マディン専用機)』3300円
柔軟性と耐摩耗性に秀でる新素材「KPS」を使用して、ポリキャップレスを初めて実現。ポリキャップよりも関節部分を小さく精密にできるため、プロポーションと可動域が向上した。
2009年11月 モデラーも大満足のオリジナルデコレーション


BANDAI SPIRITS『MG 1/100 キュベレイ Mk-ll(エルピー・プル専用機)』4400円
2号機の機体色をダークブルーの成形色で再現。1/20のエルピー・プルのフィギュア、オリジナルのドライデカールが付属する。
このキットをエポックメイキングなモデルとして挙げたのは、女性モデラーのパイオニア的存在で、大阪芸術大学で講師も務め、ビギナー必読の『いちばんやさしい ガンプラ「超」入門』などガンプラに関する著書多数のオオゴシトモエさん。オオゴシトモエさんのインタビューはこちらの記事で読むことができる。

「キュベレイは10体以上作りました」プロモデラー・オオゴシトモエさんのめぐりあい〝ガンプラ〟
アニメ『機動戦士ガンダム』のモビルスーツを模型にした「ガンプラ」が登場して45年。それに人生を大きく変えられた人がいる。プロモデラーのオオゴシトモエさんだ。 ガ…
2010年3月 30年目に生まれた巨大ガンプラ、ガンプラ累計出荷数4億個突破

BANDAI SPIRITS『1/48 メガサイズモデル ガンダム』8580円
全長375mmの巨大なガンダム。ランナーからパーツを外しやすい「くさびゲート」」を採用、頭部はシールなしで完全に色分けがなされている。全身34カ所が可動し、自在なポージングができるのも魅力。
2010年7月 究極の1/144スケールモデル

BANDAI SPIRITS『RG RX78-2 ガンダム』2750円
30周年を記念して作られたグレードのRGは、MSを実機として考証。パーツ数を抑えつつも、これまでにないギミックと可動域を実現した。第1弾はRX78-2。

半完成品内部フレーム「アドヴァンスドMSジョイント」によって、リアルな内部構造を作り出した。緻密さや質感もアップしている。
2011年10月 アミューズメントゲームと連動

BANDAI SPIRITS『AG 1/144 AGE-1ノーマル』660円
専用のICチップ「ゲイジングチップ」(写真上)を組み込めるガンプラ。アミューズメントゲーム『ゲイジングバトルベース』に参加して遊べる。
第3次ガンプラブーム(2014年-現在)
コロナ禍の巣ごもり需要でブームが到来。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』や世界的なガンプラのヒットもブームを後押し。

2014年7月 アニメのズゴックにまた一歩近づいた

BANDAI SPIRITS『RG 1/144 MSM-07S シャア専用ズゴック』2750円
ガンプラ発売の翌年、1981年に発売された『1/144 ゴッグ』(440円)。特有のダイナマイトボディーを再現。

このキットをエポックメイキングなモデルとして挙げたのは、豆腐をはじめとした大豆製品の製造を手掛ける企業を経営し、『ザクとうふ』開発のため、従業員向けにガンダム合宿を行なった、相模屋食料代表取締役社長 鳥越淳司さん。
話題を呼んだ『ザクとうふ』(現在は終了)

「ザクとうふ」を生み出した相模屋食料・鳥越淳司社長が語る激アツ〝ガンプラ愛〟
2013年、相模屋食料が『ザクとうふ』(※)を発売し、ガンダムファンを驚かせた。アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツ「ザク」の色をした緑色の豆腐を、…
2014年9月 作りやすさを追求した1/100

BANDAI SPIRITS『RE/100 1/100 MSN-04II ナイチンゲール』8800円
MGよりもパーツを整理し、組み立てやすさとディテールを両立させたのが「RE/100」。「フレームレス」や「くさびゲート」などの技術によって、製作時間を大幅に短縮した。
2017月12月 発光演出を実現した新素材の採用

BANDAI SPIRITS『PG 1/60 ガンダムエクシア(LIGHTING MODEL)』3万5200円
LEDユニットでGN粒子の色調変化を表現。そのために、ガンプラとしては初めて軟質シリコン素材と導光性の高い樹脂を用いた。メカデザイナーの海老川兼武氏が監修。
2018年6月 見たことのないクリアな素肌へ

BANDAI SPIRITS『Figure-riseLABO ホシノ・フミナ』6050円
プラモデル成形技術を発展させた「レイヤードインジェクション」技術を採用。これまで不可能だった透けるような肌を実現。水着のエナメル感も、この技術で可能にした。

レイヤードインジェクションは色の違うランナーを重ねることで、色合いに深みを出す技術。また塗装せずに、眉やアイシャドーを表現することができる。
2020年7月 軟質パーツを用意し可動域を向上、ガンプラ累計出荷数5億個突破

BANDAI SPIRITS『HGUC 1/144 シャア専用ザクⅡ』1760円
人気MSを新規造形。腰部の装甲パーツを硬いプラ&軟質素材の2種を用意して選択式に。後者を選べば、腰部の可動域が広がり右のようなシーンも再現できる。
2022年11月 ガンプラ史上最高峰の金属表現、ガンプラ累計出荷数7億個突破

BANDAI SPIRITS『MGEX 1/100 ストライクフリーダムガンダム』1万7050円
極限表現に挑む「MGEX」の中でも、金属表現にこだわった。3種の特殊加工と2つのメタリック成形、エッチングシールで金属管あふれる内部フレームを表現。
2024年2月 パーツに模様を表現!

BANDAI SPIRITS『SDW HEROES 78代目武者頑駄無』1760円
射出成形とフィルムの貼り付けを同時に行なうインモールド成形技術を応用した「輝羅鋼」を採用。これにより、立体的に彩色された表現を生み出した。
2025年2月 内部に別のガンプラを組み込める、ガンプラ累計出荷数8億個突破

BANDAI SPIRITS『HG 1/144 ズゴック(SEED FREEDOM Ver.)』3520円
腕や脚などの可動域が増す「SEEDアクションシステム」を採用。内部に『HG 1/144 インフィニットジャスティスガンダム弐式』を組み込めるギミックが面白い。
取材・文/金子長武
撮影/タナカヨシトモ(人物)、土橋位広
編集/寺田剛治
WEB再構成/吉田博明
©創通・サンライズ
※『BANDAI Hobby SITE』掲載の商品名を使用。
※本記事内に記載されている商品の価格は2025年6月30日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
ガンプラの歴史と未来、BANDAI SPIRITS開発者が語る進化の舞台裏
上記のように45年で累計8億個の出荷を記録したガンプラがなぜここまで産業として成長できたのか?をガンプラ開発に30年以上も携わるBANDAI SPIRITSのガンダムマスター・岸山博文さんと、ブーム真っ只中で数多くのガンプラ制作に熱狂していた経営学者の入山章栄さんが対談形式で紐解く。
お話をお伺いした二人

BADAI SPIRISホビーディビジョン
ホビークリエイション部 設計担当
岸山博文さん
1987年バンダイ入社。バンダイ模型の聖地である静岡県出身で幼少期からプラモ作りを始める。35年にわたり、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ、ガンプラにかかわる。

早稲田大学大学院 早稲田大学
ビジネススクール教授
入山章栄さん
慶應義塾大学卒業後、三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号を取得。ファーストガンダムファンでジオン系軍需企業mip社が作るMS好き。
https://www.waseda.jp/fcom/wbs/faculty-jp/6072
1/144の〝300円ガンダム〟は偶然の産物だった!!

入山 ガンプラが発売された当時、僕は小学生で、あの空前のブームのど真ん中にいました。ガンプラを買うため、近所の模型店に何度も並びましたし、『プラモ狂四郎』を教科書に改造にも挑んでいました。あまり印象がないのですが、バンダイさんはガンプラ以前、どんな商品を出されていましたか?
岸山 バンダイ模型(現BANDAI SPIRITS)は、1971年に設立され、クルマや戦車といったスケールモデルと、キャラクターモデルの両方を手掛けていました。当時、ゼンマイやモーターで動き、ミサイル発射などのギミックのないキャラクタープラモデルは売れないというのが業界の常識でしたので、ほとんどが〝作って遊べる〟商品でした。
入山 確かに小学生の頃はまだ、ゼンマイ歩行や電動走行するプラモデルが多かった気がします。
岸山 ガンプラの礎となった『宇宙戦艦ヤマト』も最初に出したのはゼンマイ走行タイプで、第三艦橋の代わりにゼンマイボックスが付き、波動砲からミサイルが発射できるという商品でした。
入山 ほぼ玩具ですね。
岸山 そうなんです。この商品を購入されたユーザーからも「ゼンマイ走行のヤマトはいらない」といった投書が山ほど届きました。その声に応え、遊び要素を排除し、第三艦橋も再現したディスプレイ仕様に改造。さらに『イメージモデル 宇宙戦艦ヤマト』という商品を発売したところ、屋台骨の傾いていたバンダイ模型が一気に立ち直るほどの大ヒットに。当時の担当者から、現実には実在しないメカにもリアリティーを求めるユーザーが大勢いると気づいたことが、ガンプラの開発に結び付いたと聞いています。この成功が、それまで子供たちだけをターゲットにしていたキャラクタービジネスの転換期になったと思いますね。
入山 品薄だった『1/144 ガンダム』が買えず、ようやく手に入ることができたガンプラは1/60スケールのドム。1/144スケールでは店頭に残っていたギャンでした。まだ小学生でしたが、ガンプラの箱に書いてあるスケールを見て、「本物のガンダムはこれの144倍なのか!」とイメージできました。小学生ながら、ポーズをとって必殺技で倒す、それまでのアニメロボットにはないリアリティーを感じましたね。
岸山 スケールの話をさせていただくと、実は「300円ガンダム」は、最初から1/144スケールで図面を描きはじめたわけではないんです。当時、ランナーサイズで売価が設定されていて1オンス100円。ガンダムは300円でしたので、3オンスのランナーの枠にパーツが収まるようにしたところ、全高が12.4cmになり、偶然に国際標準スケールの1/144に合致したため1/144スケールになったと聞いています。
入山 それは初耳ですね。作りやすさ、飾りやすさを考えて、当初から1/144スケールに決まっていたと思っていました。
岸山 ガンダムとザクの図面を担当した村松正敏さんによると、シャアザクの脚が固定されていたのは、ガンダムのように脚を可動させると、3オンスのランナー枠にパーツが収まらず、箱にも入らなくなってしまうからだそうです。1/144に決まる前から、2体が並び立った時の対比にかなりこだわったとも語られていました。
1980年7月に発売された腕と脚が可動する『ベストメカコレクション 1/144 ガンダム』。その後シャアザクも登場した。

『ベストメカコレクション 1/144 RX-78-2 ガンダム』330円
自由な模型作りを楽しめるエコシステムを生んだ
入山 敵のMSも魅力でしたね。主役以外の敵に〝マイフェイバリットMS〟がいるのも、それまでのロボットアニメにはなかったことです。僕はドムとズゴックが好きですが、友人にはゲルググファンも多くいました。序盤にザク、その後はグフ、さらにドムが比較的長い期間にわたって登場するというように、敵MSの数の塩梅も絶妙で、「どれもこれも作りたい」という飢餓感につながったと思います。加えて、ガンプラはプラモデル初心者でも、なんとか完成まで漕ぎ着けるちょうどいい難易度も良かったですね。
岸山 既存のスケールモデルファンには、戦車や戦闘機のような、本物や史実が存在しないことも歓迎されました。「この戦車はあの戦線に配備されたものだから、そのマーキングは間違いだ」みたいな指摘はストレスになります。ガンダムは史実や制約から解放されて自由に作れるから受け入れられたと考えています。
入山 自分で考えた架空の場面であっても、「映像にはなかったシーン」と言えば通ってしまう。作り手のイマージネーションで作れるのは楽しいですよ。こだわり派に怒られることのない自由な世界が作られたことで、模型ファンの裾野が広がり、改造好きのガチ勢も共存することができたわけですね。様々な人が楽しめるエコシステムを構築したことでも、ガンプラが模型シーンに与えた影響は大きいと思います。目まぐるしくトレンドが変化する現代。ブームで終わらず、技術を磨きながら好調な販売を維持しつづけているのはすごいことですね。
当初の販売苦戦から一転しガンプラブームが到来

アニメの再放送や劇場版『機動戦士ガンダム』のヒットをきっかけにガンプラの完売店が続出。模型店の行列は社会現象に。1981年1月から82年12月まで品薄状態が続いた。
スケールモデラーも歓喜した「MSV」

アニメには登場しなかった、MSバリエーションや設定を追加した「MSV」シリーズはモデラー集団・ストリームベースによる企画。高機動型ザクや写真のパーフェクトガンダムなど、大人たちも満足できる新機体がラインナップされた。

『MG 1/100 RX-78-2 ガンダムVer.3.0』4950円(2025年9月時点、在庫なし)
技術だけでなく模型作りの醍醐味は継承する
岸山 技術の進化では、塗装をせずに機体の色を再現できる「イロプラ」、接着剤なしで組み立てられる「スナップフィット」、ニッパーなしでパーツを外せる「タッチゲート」がエポックメイキングでした。塗装や接着剤の乾燥を待つインターバルがなくなったことで、一度作りはじめたら休憩なしで、一気に完成までたどり着けるようになりました。

入山 夢中でずっと作り続けられることで、本当の作る楽しみを体験できますね。僕の子供時代にはなかった感覚です。
岸山 「ポリキャップレス」も画期的でした。本体の素材に強化ポリスチレン(KPS)を採用したポリキャップレス化で、少ないパーツ数で、小さく精密な関節が設計できるようになり、1/100スケールの変形ギミックを1/144スケールのモデルにも使えるように。ギミックの高密度化を可能にするための材料開発が進められてきましたが、これは、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場した、限られた空間に高度な機能を付加するという「サイコフレーム」の概念と重なる部分があります。アニメが描く未来技術を、ガンプラが具現化したとも言えますね。私見ながら、ガンプラの技術は、組み立てやすさの追求と構造のより一層の高密度化という2つの側面を支えながら、進化を遂げてきたと思います。
入山 作りやすくすることで、プラモデル作りの醍醐味が失われることはないですか。
岸山 素組みでだれもがゴールにたどり着けることは大きな進化だと考えています。ただグレードが上がるほど部品点数が多くなるので経験を要する工程がないわけではありません。どこまで付き合う熱意や根気があるかは重要になってきますね。完成した時の満足度は、今も昔も変わらないと思います。
腕前に合わせて選べるブランド・グレードを展開

ガンプラは様々なブランド、グレードを展開している。スケールによる大きさの違いに加え、プラモ初心者でも作りやすいエントリーモデルから、ベテランも満足できるハイエンドなものまでコンセプトの違いも楽しめる。

当時最新鋭だった多色成型機の導入でランナーへの直接彩色が実現。1984年からガンプラに採用された。
入山 低迷期もあったんですか?
岸山 『機動戦士ガンダム』のキャラクターを出し尽くしたあとはやや低調になった感はありました。そこで考えたのが、既存のキャラを新コンセプトでリメイクしていく方法です。先ほどお話をしたように一つのキャラを、1/144の「HG」、「MG」、「PG」などのグレードごとにラインアップして商品点数を増やしました。作品としては『機動武闘伝Gガンダム』が1つの転機でした。『SDガンダム』のファンが戻ってきましたし、お子さんがガンダムに興味をもつきっかけにもなりました。
入山 IPコンテンツは親から子に何代も引き継がれていくことがとても重要です。その部分もガンプラは成功しています。自分が作って面白かったから、子供たちにも作る楽しさを経験させたくなる。海外でも人気ですよね。
岸山 アジア圏はもともと強いのですが、欧米は自分で体を鍛えて強くなるという気質なので、以前はロボットに乗って強くなるということは理解されにくい側面もありました。最近は意識の変化もあり、欧米での販売も好調です。
入山 欧米人にはロボットは支配するものというイメージがあって、親しみをもつとか、操縦をするということは受け入れがたいはずなんですよ。ガンダムを含めた日本のカルチャーが理解されはじめたということかもしれないですね。
岸山 実際に海外メーカーのプラモデルにも、「スナップフィット」や、塗装をしなくていい仕様の商品は徐々に増えています。
ガンプラの拠点THE GUNDAM BASEを世界展開

「THE GUNDAM BASE」を日本以外に中国、韓国、台湾、タイなどで展開。上海にはフリーダムガンダムの立像があり、ガンプラスポットとしても人気だ。今後は欧米への進出も予定している。
AIに対抗する人の能力はガンプラで磨かれる!!
入山 バンダイの模型作りとして継承されているものはありますか。
岸山 新技術構築や新材料開発を通じて、昨日までの不可能を可能にするという考えは受け継がれているとは思います。今後も環境が大きく変化した際に弱体化する恐竜的進化ではいけないんだろうなとは考えますね。
入山 自分の手で作るというのは物作りの原点であり、AIが取って代わることのできない仕事です。これからはリアルなものに触ることに価値が出てくるので、親がそれを理解しはじめたら、「もっとガンプラを作りなさい」みたいな、世の中になると確信しています。

右『ベストメカコレクション1/144 RX-78-2 ガンダム(REVIVAL Ver.)』1320円
左『HG 1/144 GQuuuuuuX』2200円
アニメとコミックで新しいガンダムファンが増加中

2025年は「サンライズ」とエヴァンゲリオンで知られる「スタジオカラー」がタッグを組んだアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が登場。漫画誌『ガンダムエース』では新作の『機動戦士ガンダムエイト』の連載も始まり、新規ファンを生みながらガンダムとガンプラシーンを盛り上げている。

『HG 1/144 ガンダムジリウス』2970円

『HG 1/144赤いガンダム』2750円
取材・文/安藤政弘
撮影/園田昭彦
編集/寺田剛治
写真提供/読売新聞社
WEB再構成/吉田博明
©創通・サンライズ
※本記事内に記載されている商品の価格は2025年6月30日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
最後に
いかがだっただろうか?ガンプラの45年の出来事や歴史を知ることで、次につくるガンプラ選択の参考や、ガンプラ作成の際の楽しさの発見になれば幸いだ。