
北欧の自動車メーカー、ボルボは2021年に「2030年までに販売するクルマをすべてBEV=電気自動車にする」という計画を発表。しかし欧米での電気自動車=BEV(以下、BEV)の需要減速もあって、「2030年までに販売するクルマの90%以上をBEVまたはPHEVにすることを目指し、残りはマイルドハイブリッドなどのHV車にする」という計画変更が行われている。が、世界の自動車メーカーの中でいち早くラインナップの電動化を図ったボルボの現在の主力はSUV、そして電動車であることに変わりはなく、BEVのラインナップも拡大中だ。
その中で、日本の路上、駐車環境にもっとも適するボルボ最小、最新のテクノロジーを満載したSUV×BEVが、2023年に日本に導入され、2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストカーに選出された後輪駆動のEX30だった。
待望のクロスカントリーモデル、EX30クロスカントリー
2025年モデルまでは後輪駆動、一充電航続距離560km、総電力69kWhのEX30 Ultra Single Motor Extended Rangeの1車種だったのだが、2026年モデルでEX30のラインナップを拡充。ボルボBEVの入門車種となりうるEX30 Plus Single Motor(479万円。航続距離390km。これのみリン酸鉄リチウムイオン電池。他はリチウムイオン電池)、EX30 Plus Single Motor Extended Range(539万円。航続距離560km)、2023年の導入時から引き続きラインナップされるEX30 Ultra Single Motor Extended Range(579万円。航続距離560km)、2026年モデルとして新たに加わった4WDのEX30 Ultra Twin Motor Performance(629万円。航続距離535km)、そしてクロスカントリーモデルとして最低地上高に余裕を持たせたEX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performance(649万円。航続距離500km)の5モデルが揃うことになったのである。※航続距離はWLTCモードによる。
この@DIMEではすでに後輪駆動のEX30 Ultra Single Motor Extended Rang(以下、EX30クロスカントリー)の19インチタイヤ装着車、オプションの20インチタイヤ装着車の試乗インプレッション、EX30の雪上試乗記をお届けし、EX30のBEVとしての完成度の高さ、後輪駆動ながらBEVならではの駆動制御の緻密さから、驚くほど雪道に強いことなどを報告してきた。
さて、ここではそんなボルボEX30の2026年モデルに新たに加わった、待望のクロスカントリーモデル、EX30クロスカントリーの試乗記をお届けしたい。ちなみに、クロスカントリーはEX30にツインモーター、つまり前後に駆動モーターを備え、タフなエクステリアデザインを与え、車高を高めただけのモデル・・・ではない。
まず、エクステリアではブラックの専用フロントシールドに注目だ。そこにはスウェーデン最高峰の山、ケブネカイセ山の地形をモチーフにしたトボグラフィーパターンが描かれ、フロントビューの印象は一変。もちろん、ホイールアーチにはこれまでのボルボ・クロスカントリーモデル同様にホイールアーチエクステンションを装着。前後バンパー下には専用のリップ、ロアバンパーが付加され、CピラーとロアバンパーにはCross Countryロゴが刻まれる。
足元にしてもクロスカントリー専用の19インチアルミホイールとサマータイヤが装着されているのだが、ここで「クロスカントリーモデルなのにオールシーズンタイヤじゃないの?」という声が聞こえてきそうだ。が、そもそもEX30クロスカントリーはゴリゴリのクロカンではなく、雪道走行ではスタッドレスタイヤを装着するわけだから、日常の走り、快適性でサマータイヤをチョイスした決定に異論をはさむ余地はない。
クロスカントリーらしさはそれだけではない。足回りはノーマルよりソフトな、乗り心地と走破性にこだわった専用サスペンション(スプリング)とアンチロールバーに改められ、ホイールアーチエクステンションの付加によってボディサイズはEX30の全長4235×全幅1835×全高1550mmから全長こそ変わらないものの、車幅は1850mmとなり、車高は+15mmの1565mm。最低地上高はEX30の175mmから+20mmの195mmへと高められている。
EX30はインテリアの北欧モダンな先進感ある洗練された仕立てもまた特徴であり、ユーザーへのアピールポイントになっているが、クロスカントリーでは「パイン」というレザーフリー、自然素材、リサイクル材、バイオ素材をコンビネーションしたスカンジナビアデザイン仕立てとなる。そして無垢のリサイクルアルミ材を用いたドアインナーオープナーのひんやりとした手触り、高質感、デザイン性も、車内からドアを開けるたびにオーナー、乗員の満足感を高めてくれることになる。もちろん、ダッシュボード奥左右いっぱいにはハーマンガードンサウンドシステムのフロントスピーカーが備わり、ルーフのほとんどの部分がガラス張りになるパノラミックルーフも標準装備されている。
ステアリング奥にメーターパネルがないEX30のメーター&インフォテイメント&各種操作機能はインパネ中央の12.3インチタブレット型センターディスプレーに集約。スピードメーター、ナビ機能、時計、外気温時計、エアコンやオーディオ操作、ドアミラー調整、2026年モデルでオフ/低/高の3モードが選べるようになった完全停止まで行えるワンペダルモードなどの各種機能が配置されている(時刻表示を含め、どの文字も小さすぎる印象だが)。
その上で、2026年モデル全体で進化した部分も少なくない。Google搭載のインフォテイメントシステムではクアルコム社のチップセット、スナップドラゴンの新採用によって一段とサクサクと動くようになっているのが実感できる。ワンペダルドライブのモードにしても、オフ/低/高の3モードの選択が可能になったのだ。さらに、2025年モデルまでのEX30では「前席の座面が短い」という声が寄せられたそうで、2026年モデルでは前席座面を伸ばした新シートに改められている。加えて、安全装備、先進運転支援機能はボルボSUVのフラッグシップ、XC90を上回る内容が2026年モデルには搭載されている。
サスペンションがクロスカントリー専用であることはすでに説明したが、パワーステアリングもクロスカントリー専用の設定で、クィックさを感じにくい、トルクの立ち上がりを穏やかにした制御が盛り込まれているという。これは専用の足回りとともに、悪路での運転のしやすさへの配慮と言っていいだろう。
超高級BEVのSUVに匹敵する静音性能
さて、ボタンレスキー(Key Tag)を携帯していればクルマに近づくだけでドアがアンロックされ、スタートボタンなど押さずに電源が入り、走り出せるクロスカントリーに乗り込めば、なるほど、前席のかけ心地はよりゆったり、以前の座面長不足を感じさせないかけ心地になっていた。そうそう、シフトは輸入車ならワイパーレバーに相当する右側のレバーで操作する(国産車ならウインカーレバー)。
南青山の発着所から走り出せば、混雑した都心の道での扱いやすさは全幅1850mmになってもまったく変わらない。ワンペダル機能が完全停止まで行う走りやすさもしかり。その上で過去、EX30に何度も乗った経験からすれば、まず驚いたのが感動に値する乗り心地の良さだった。とにかく荒れた路面、道路の継ぎ目でも、速度に関わらず実にコンフォータブルな快適感に終始する。そして車内のクラスを超えた静かさにも感動しきり。BEVはエンジンを積んでいないから静かに走って当然・・・と思うかも知れないが、そのぶんロードノイズが目立ったりするものだ。が、このクロスカントリーは19インチのサマータイヤからのロードノイズが見事に抑えられ、路面、車速を問わない車内の静かさが終始、保たれる。大げさに言えば、超高級BEVのSUVに匹敵する静音性能の持ち主と言っていいかも知れない。それは首都高速、湾岸線に入って速度を上げても維持され、マイルドでフラットな乗り心地の良さと合わせ、クルージングはもう素晴らしく快適だった。
クロスカントリー専用のソフトなサスペンションを用いているため、カーブや高速レーンチェンジなどでの姿勢変化が気になるところでもあったのだが、その予想は見事に外れた。けっこうな速度でカーブに進入しても、依然として低重心、ツインモーター4WDということもあり、4輪のタイヤが路面にピタリと吸い付くような安定感と姿勢変化の少なさを披露。これは運転初心者にとっても、走り好きにとっても歓迎すべき運転のしやすさ、走りやすさ、安心感に直結するはずだ。
新たに加わったドライブモードは航続距離を伸ばす「レンジ」、デフォルトの「ノーマル」、そして前後モーターを常時つなげ、最大の出力を発揮する「パフォーマンス」がセレクトできるのだが、フロント156ps、200Nm、リア272ps、343Nmを誇る動力性能はノーマルでも驚くほど強力で速い。しかもパフォーマンスモードにセットすれば、それこそスポーツカー並みと言っていい血の気が引くほどの加速力を発揮。何しろ0-100km/h加速は3.7秒と超俊足。それはメルセデスベンツCLS63AMG(2013年モデル)、レクサスのスーパースポーツカー、LFA(2011年モデル)に匹敵するほどの加速性能なのである。そんなハイパフォーマンスを649万円(国からの補助金は36万円。実質613万円)で得られる一充電航続距離500km のEX30 クロスカントリーは、つまり、BEVらしいエコドライブ、愛犬も喜ぶ静かで快適無比なドライブ、クロスカントリーモデルならではのオールラウンダーな走りから、スポーツカーに匹敵する加速力までを味わえる、性能的にもバーゲンプライスなBEVの1台ということになるだろう。
そんな479万円で手に入るEX30 Plus Single Motorを含めて5モデルとなった2026年モデルのボルボEX30は、選択肢の拡大によって、電気自動車=BEVの選択に躊躇しているユーザーの背中さえドーンと押してくれるであろう、日本の路上、駐車環境にジャストなサイズを持つ、極めて魅力的な商品力の持ち主であると断言できる。筆者が選ぶとすれば、BEVの航続距離がよく愛犬と訪れる東京~軽井沢間、往復約360kmを無充電かつ季節を問わず走り切れる可能性がある、車内の静かさと専用サスペンションによる乗り心地にも感動さえ覚えるクロスカントリーになるだろうか。EX30のラゲッジルームは上下2段で使え、軽井沢への家族数泊旅行の荷物も余裕で入ることをすでに経験している。
文・写真/青山尚暉