
大人気猫漫画、「トラとミケ」(ねこまき・ミューズワーク著、小学館刊、定価1400円+税)最新の7巻の副題は「まぶしい日々」だ。光り輝いていて、目を細めないと見えないまぶしい光景。愛する人や憧れの人を見る時のまぶしさや、もう二度と見ることができない素晴らしい光景を、人はまぶしく感じる。
多くの人は青春時代を「まぶしい日々」だと感じるだろう。でも、ドキドキわくわくした青春時代だけが、まぶしい日々ではない。ごく普通の平凡な日々を過ごしていても、遠い将来、今のこの時を振り返った時、あまりにも幸せに満ち溢れた、光り輝くようなまぶしい日々と感じるかもしれないのだ。
名古屋にある老舗のどて煮屋「トラとミケ」は、姉のトラと妹のミケが切り盛りしている人気店である。シリーズ7作目となった本作も、新鮮でキラキラしたエピソードに溢れていて、その日常はまさに「まぶしい日々」に満ちていた。
友達に年齢は関係なし
ほのぼのとした絵とストーリーで大人気の「トラとミケ」。累計13万部を突破した大人気シリーズの新刊は、初めて友達ができた49歳の女性と親友を失ったばかりの70代の女性、ふたりの女性をめぐるストーリーが中心となっている。
イラストレーターの鈴木杏子さんと、杏子さんの母親の友人北村サツキさんの友情譚が、あまりにも素敵過ぎた。読んで欲しいので詳しく書かないが、ちょっとオタク気味な杏子さんの気持ちが切なく、共感しすぎて、読み進めるにつれて、胸が張り裂けそうになる。
見た目も行動もまさに「おばさんの権化」のようなサツキさんも、実は繊細で心優しく、杏子さんを見守ってくれる。年齢を超えて、あまりにもベストマッチングな二人だった。
大人になると、友情から遠くなってしまう。子どもの頃は友情が人生の全てだった。学校はつまらなくても、友達に会うために通っていたし、何時間しゃべっていても、疲れなかった。でも、大学時代の友情が最後で、社会人になってからの友情はどうしても打算的になってしまう。多くの人は年齢を重ねるにつれて、真の友情から遠ざかっていく。そんな壁を乗り越えた二人の女性の勇気に、拍手喝采を贈りたい。
二人の魅力的な登場人物
最新刊は杏子さんとサツキさん以外に、とても素敵な女性たちが登場する。一人目はスナックふみのママだ。ママの言葉を引用してみよう。
“あんこちゃん、あなた何でもうまくやろう、うまくやらなきゃなんて思ってんじゃないの?人にどう見られるかなんて、どうでもいいじゃないの。
歌だって上手くなくたっていいのよ。自分が楽しまないでどうすんの。
自分が思ってるほど、誰も人のこと気にしてないし、もしも誰か陰口を言う人がいたら、それはそこまでの人よ。そんな人のことは気にするだけ時間の無駄よっ“
もう一人は、小料理屋雅瑠の女将さんだ。杏子さんが行きつけだった店だが、女将さんが亡くなって閉店してしまった。女将さんはいつも杏子さんを、
“そんな男別れて正解よ!(中略)それに杏子ちゃんにはもっと相応しい人が現れるわよ”
そう励ましてくれていた。
美味しそうな料理レシピ
魅力的な登場人物に加えて、「トラとミケ」の魅力に「美味しい料理」は欠かせない。新刊でもパワーアップして登場する。特に7巻では幕間に描き下ろされた「きょうのおやつ」のレシピがイラストで登場して、自宅でも「トラとミケ」の手作りの味を再現できるようになっていた。
レシピは、ちまき、あじさいゼリー、バナナケーキ、アイスキャンディー、ふつうのご飯で作るおはぎ、どらやき、大学芋、ジンジャーブレッドマン、みたらし団子、抹茶蒸しパン、ひなあられ、いちごサンドである。きっちり作り込むプロのレシピとは違う、トラとミケらしい、ホットケーキミックスなど自宅にある食材で手軽に作れるレシピだった。抹茶蒸しパンはトラさんが食べていたお菓子の甘納豆が使われていて、イラストを見ているだけで、口の中が甘く、幸せな気分にさせてくれる。
さらに田舎のおばあちゃんの知恵袋的な、カラダに良いお茶も登場する。「あずきを煮た出汁」で、トラとミケが炊いた小豆のゆで汁である。むくみを取る成分が含まれているらしく、ケガをした杏子さんに出してくれた。飲んだことはないけれど、湯呑に入った湯気の立つ小豆の出汁の絵を見ているだけで、身体の毒素が抜けそうな気持ちになる。
トラミケファンの推し活のススメ
7巻でも常連さん達が元気な姿を見せてくれた。「トラとミケ」の愛読者、通称トラミケファンなら、トラミケ以外の推しがいるはず。私の推し担(当)の一人はネイルサロン経営のルミちゃんだが、最新刊では恋の現状についてもちらりと紹介されていて、飛び上がって喜んだ。
作品はどれも読み切りで進むので、新刊の7巻から遡って読んでも楽しめる。ぜひ、あなたのお気に入りの登場人物を見つけて、トラミケの推し活を楽しんでみて欲しい。
「トラとミケ」は現在も「女性セブン」で連載中なので、推しのその後が気になる私は、ついモノクロの「トラとミケ」を読んでしまう。でも、カラーになって一冊にまとまった作品を読むと、モノクロに比べてその味わいが格別に濃くなって胸に迫ってくる。連載中の作品がちょっとでも気になった人は、ぜひカラーの作品を読んでみて欲しい。感動が何倍にも大きくなって、あなたの心の凝りをほぐしてくれるはず。
ねこまき(ミューズワーク)
2002年より、名古屋を拠点にイラストレーターとして活動を開始。コミックエッセイをはじめ、犬猫のゆるキャラ漫画、広告イラストなども手掛けている。『トラとミケ』は第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれた。他の著作に、『ねことじいちゃん』(KADOKAWA)、『まめねこ』(さくら舎)、『新版 しっぽのお医者さん』(日刊現代)、共著に『ねこのほそみち』(さくら舎)、『在宅医たんぽぽ先生物語』(主婦の友社)などがある。
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文/柿川鮎子