
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
マレーシア発のカラオケステージ&バー「VSING(ブイシング)」が日本に初出店した。VSINGはカラオケバースタイルのライブプラットフォームで、東南アジアを中心に42店舗を展開。日本国内にVSINGを初出店するシン・コーポレーションが、同社の既存事業であるカラオケチェーン店「カラオケBanBan」運営のノウハウと、VSINGの特徴を融合させた、新たなカラオケ体験として提供する。
歌い手と観客の応援が一体化した応援型カラオケステージ
VSINGは応援型カラオケステージで、歌いたいシンガー、客席から応援したいサポーターがそれぞれのアプリを使用して、歌い手と応援がインタラクティブに参加できる。
発表会では、お笑い芸人・見取り図の盛山晋太郎さん、リリーさん、タレントの渋谷凪咲さんがデモンストレーションを披露した。
シンガーはアプリで曲を検索して歌いたい曲を予約。自分の番が来たらアプリで呼び出されるので、ステージに登壇しアプリで参加を押すと、モニターに歌詞が映り、普通のカラオケと同じように歌うことができる。
サポーターは、ステージのシンガーの歌に合わせて「チア」を送ることで、モニターにステージ演出が繰り広げられる。チアの内容に合わせてポイントがシンガーに入りポイントが蓄積される。1回歌って獲得したポイントはアプリを使って店内の飲食や割引券、ジェムに交換などの特典を受けることができる。
また、サポーターで一番高額のチアを投げた人がシンガーとフレンドになる機能もある。歌い終わってから、一番チアのポイントが高かったサポーターがシンガーとQRコードを読み取ることによって相互フレンドとなり、お互いにVSINGのボーナスを取得できる。
VSING内のコンテンツの企画・制作を担当する、株式会社ダイナモアミューズメント代表取締役社長 小川直樹氏はこう話す。
「今回の取り組みは、単に海外で流行したVSINGを日本に持ってきただけではありません。初めて体験したときに確信しましたが、VSINGが日本の文化と混ざり合い、私たちが日本文化に合わせて最適化することによって、新たなエンタメとしての驚きを生み、独自の進化をしていく未来を感じています。
1号店は渋谷でターゲットは若者向けとなりますが、実際にステージに上がって歌うのは、なかなかハードルが高いと思います。しかし、潜在的にステージでスポットを浴びることに憧れがある人が多いことも確かです。
昨今はSNSで自分たちから発信する形で承認を得るための行動が多くみられます。この店舗ではそれができる仕組みで提供することで、みんなの前で歌いたいという承認欲求を満たす場を提供したいと考えています。
おそらく最初の段階では歌が上手くて、みんなの前で披露したい方々がステージを使うと思いますが、ゆくゆくは応援しに来た人も歌ってみたいと思ってもらえるようになればいいと考えています。みんなの前で歌うのはこんなに楽しいんだと感じてもらえて、しかもチアで応援され、ポイントという形で承認されたという実績が残ります。この楽しさを新しいエンタメとして広げていきたいと思っています」
VSINGがマレーシアで誕生したのは6年前。今年7月には、運営会社のV Sing International Limitedが香港証券取引所に上場した。
「私たちはだれもがスーパースターになったと感じられるようなライブステージを生み出すことで、カラオケ体験を変革する事業を展開してきました。
今回、カラオケ発祥の地である日本で、ステージ演出、デジタルギフティングを備えたアイデアを逆輸入する形でお披露目できることを誇りに思います。
現在、VSINGは40を超える店舗をアジア太平洋の様々な地域に出店しています。今後も少なくとも毎月10店舗、年内に全世界で100店舗、50万人のユーザー獲得を目指しています。
私たちは、デジタル時代の今だからこそ、同じ情熱を持つ人々を、テクノロジーの力で再びリアルにつなげたいと考えています。また、私たちの使命は、新たな才能を発見し、夢を追いかける彼らの歩みを応援することでもあります。
カラオケ市場に関しましては、アジア各国でも拡大中であり、どの国でも非常によく受け入れられている印象があります。日本とアジア諸国のカラオケの違いを言えば、基本的には日本から来たカラオケの形をそのまま使っているところが多いですが、その土地に合わせた地域に根付いたような新たな試みが、国によっては見られます」(V Sing International Limited IVAN LE YONG CHIN氏)
【AJの読み】コロナ禍を経て多様化するカラオケ業界
コロナ禍で大きなダメージを受けた業界がカラオケチェーン店。シン・コーポレーションが運営する「カラオケBanBan」も、売上高が2018年の3485億円から、コロナ禍の2021年には1740億円まで落ち込んだ。現在はV字回復を経て、2024年の売上規模は3200億円を見込んでいる。
「V字回復をしたとはいえ長期的に見ると、3000~3500億円のレンジに収まっていまして、成熟市場だといえます。コロナ前と比べると深夜の動向が減っている分、昼間や夜が増えている傾向が見られます。昼間の時間帯はリモートワークの場として利用したり、アイドルやアニメの推し活の場として使うなど、カラオケボックスの用途が多様化していると感じています。
こうした背景から成熟市場におけるニーズの多様化に我々はチャンスを見出そうと、(親会社の)GENDAーが持つ様々なシナジーを生かしてカラオケに新しい楽しみ方を提供して市場がさらに活性化したいと思っており、その第一歩が新業態のVSINGとなります」(株式会社シン・コーポレーション代表取締役社長 川口範氏)
オープンステージはライブ会場のような雰囲気で、シンガーとサポーターが一体となった熱気もあり、歌に自信がない人でも、ひとたびステージに立てばスーパースターのような体験ができる。
昭和を生きてきた筆者には、ステージで歌い喝采を浴びることは企業旅行の宴会で経験済みだが、華やかな演出の中で、知らない人からも応援してもらえて、つながりも持てるVSINGは、まさに承認欲求を満たす絶好の機会になるのだろう。
取材・文/阿部純子