
任天堂の2026年3月期第1四半期の売上高は前年同期間比で2.3倍に急拡大しました。純利益は2割増。6月5日に発売したNintendo Switch2の売れ行きが好調で、好スタートを切っています。
通期で1500万台の販売計画を立てていますが、発売からわずか7週間で600万台を突破。任天堂の快進撃が始まりました。
価格のハードルを軽々と飛び越えた新型機
任天堂は今期の通期売上高を前期の1.6倍となる1兆9000億円と予想しています。四半期の進捗率はすでに30%を超過。予想の上振れも視野に入りました。
Nintendo Switch2の2025年4-6月の販売数は582万台。ゲーム機は日本に限らず多くの国で需要が供給を上回る状態にあり、手に入りにくい状態が続いています。任天堂は生産体制の強化に努めていますが、入手しやすい状態になるのは来年の春以降との見方もあるほど。
古川俊太郎社長は、今年5月8日の決算説明会で「Nintendo Switch 2はNintendo Switch と比べ販売価格が高いため、早期普及には相応のハードルがあると認識しています」と話しました。Nintendo Switchの当時の希望小売価格は税抜き2万9980円で、Nintendo Switch2は4万9980円。後継機はCPUやGPUの性能が大きく向上しており、グラフィックの表現の幅が広がりました。
これまでNintendo Switchは競合のゲーム機と比べて画質の低さなどが指摘されてきました。これほど売れているということは、その弱点を克服した後継機の登場をファンが待ち望んでいたということでしょう。また、5万円近い価格のハードルはあるものの、PlayStation5は8万円近い金額まで上がっています。昨今のインフレも相まって、価格の障壁はかつてのように高くはないのかもしれません。
任天堂のソフトやハードはコアなゲームファンだけでなく、ファミリー層にも浸透しているという特徴があります。古川社長のコメントにはそうした背景もあると考えられますが、Nintendo Switch2の好調ぶりは、一般的な消費者であっても価格のハードルを飛び越えるようになったことを証明しました。
なお、任天堂の販売計画である今期1500万台という数字は、生産能力から逆算してはじき出したものではありません。Nintendo Switchの発売から同年12月末までの約10カ月間の販売台数と同等の水準を目指して設定しています。
つまり制限を受けて保守的に計画したものではなく、本当にこれほどのヒットを飛ばす想定はしていなかったというのが経営陣の本音でしょう。
利益がなくてもゲーム機を大量に販売する理由
任天堂の2026年3月期第1四半期における営業利益率は9.9%。通期の営業利益は16.8%を予想しています。ハードの売れ行きが好調なのに利益率が伸び切らないのは、Nintendo Switch2の利益率が低いためでしょう。
ゲーム機の性能は飛躍的に向上していますが、それは最先端技術を盛り込んでいるため。PlayStation新型機の販売後などは、しばらく売れば売るほど利益を圧迫します。つまり、ハード単体だと赤字になってしまうのです。技術力の高い最新のゲーム機は、開発にかかる費用を価格に転嫁しきることができないのです。
しかし、利益が出ずともハードの流通量が多くなれば、利益率の高いソフトウェアで回収することができます。ドル箱シリーズの一つである「マリオカート ワールド」は四半期で販売数が563万本に達しました。同期間で販売したNintendo Switch2向け全ソフトの実に65%を占めています。
今期は超ビッグタイトルの「Pokémon LEGENDS Z-A」を10月16日にリリースします。その他、7月17日に「ドンキーコング バナンザ」を発売し、「ゼルダ無双 封印戦記」、「メトロイドプライム4 ビヨンド」、「カービィのエアライダー」のリリースも控えています。
特にポケットモンスターの新作には注目が集まるでしょう。
利益面では、トランプ関税の影響が見逃せません。Nintendo Switch2の販売数全体の35.7%は米大陸が占めています。任天堂の生産拠点は中国やベトナム、マレーシアにあります。足元では関税分の価格転嫁を行っていません。任天堂が費用として負担しています。これも利益を下押しする要因の一つです。
ただし、オンライン配信によるゲームソフトは関税の対象になりません。任天堂はソフト販売数のおよそ6割がダウンロード版によるもの。すでに脱パッケージ化が進んでおり、関税の影響を回避する基盤を整備していました。このことは任天堂の業績に好影響を与えるでしょう。
同性愛問題で揺れた「トモダチコレクション」最新作の行方は?
任天堂は後継機の発売にあわせて、かつてのIPを復活させる取り組みに力を入れています。2026年には「リズム天国 ミラクルスターズ」と「トモダチコレクション わくわく生活」のリリースを予定しています。
「リズム天国 ミラクルスターズ」は2006年にゲームボーイアドバンスで発売されたシリーズですが、ニンテンドー3DSの「リズム天国 ザ・ベスト+」以降は新作が途絶えていました。「リズム天国 ミラクルスターズ」はつんく♂さんがプロデュースする楽曲を入れた完全新作。複雑な操作をせずに音楽に合わせてリズムをとるというシンプルさを踏襲し、シリーズのファンの期待に応える内容となっています。
「トモダチコレクション わくわく生活」も10年ぶりの新作。このシリーズはメタバースの走りとも言うべきもので、仮想空間で登録したアバターが様々な人と交流することができます。
実はこのゲーム、前作の「トモダチコレクション 新生活」において、異性としか恋愛や結婚できないことがアメリカを中心に問題となり、任天堂が謝罪のコメントを出すまでに発展しました。その際、続編を作るのであれば、より包括的ですべてのプレーヤーを反映したゲーム体験してもらえるような設計を目指すとしていました。
そうした背景があったゲームが、どのような形で生まれ変わるのかにも注目です。
文/不破聡