
世界経済に多大な影響を与えるアメリカ経済の動向を知る上で欠かせないのが、各種の経済誌指標だ。先日、想定以上の悪化が示されて衝撃が走った米雇用統計もその一つ。
さらに設立が第一次世界大戦開戦の翌年、1915年という米供給管理協会( Institute for Supply Management、ISM) が生産や新規受注、在庫、価格、雇用などの項目を独自調査して指数化したISM製造業景況感指数も、常に注目を集めている。
ちなみに指数が50%を上回ると好況、下回ると景気悪化とされる。
今回は、前述の〝雇用統計ショック〟前後の動きや、可能性が高まるFRB早期利下げ再開に関するリポートが三井住友DSアセットマネジメント シニアサーチストラテジスト・相馬詩絵(そうま ふみえ)氏から届いたので概要をお伝えする。
「雇用統計ショック」よりも前に、情勢は弱含んでいた可能性
8月1日に公表された7月米雇用統計は、ヘッドラインである非農業部門雇用者数の前月差が+7.3万人と市場予想(+10.4万人)を下回ったことに加え、過去2か月分の数値が大幅に下方修正(累計25.8万人)された。
大方が想定していた以上の雇用情勢悪化が示されたことにより、米景気に対する悲観的な見方が金融市場に広がり、いわゆる「雇用統計ショック」が生じた。
また今回の結果を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ前倒し観測も高まった。
そうした中で、企業のソフトデータである米供給管理協会(ISM)景況感の雇用指数を確認してみると、雇用情勢の鈍化はここにきて急激に出現したものではなく、既に示唆されていた可能性がある。
雇用統計と同じく1日に公表された7月ISM製造業の雇用指数は、中立水準(DI、50)を大きく下回る43.4ポイントとなり、2月以来6か月連続で50ポイント以下を示した。

非製造業ISM雇用指数も6月に47.2ポイント、7月に46.4ポイントと、中立水準を下回り推移している。

ISMは7月製造業ISMについて「短中期の需要を巡る不確実性から、人員削減が加速している」可能性を指摘した。また、6月非製造業ISMにおける、「2026年度の予算案が多くの保留中の採用活動を一時停止させた」との企業コメントなどからも、トランプ政権の動向などを背景とした不透明感を見極めたいとする企業態度が改めて推察できる。
足元にかけて、米国と各国・地域との関税交渉が進展している。今後は実際の関税の影響が懸念される一方で、こうした不透明感の一部は払しょくされていく可能性も考えられる。
■失業率は小幅上昇にとどまる
また、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見では、パウエルFRB議長は、雇用情勢の鈍化に言及しつつも、「現在見るべき最も重要な指標は失業率」との旨の発言を行なった。
失業率は、労働参加率が低下傾向にあるという留意すべき点はあるものの、7月は4.2%と6月(4.1%)から小幅な上昇にとどまっている。
なお、昨年の市場では景気後退シグナルとして、失業率をもとに算出した「サーム・ルール」に注目が集まっていた。0.5ポイントを超えると景気後退に至る可能性が高いとされているが、7月の結果を当てはめると0.1ポイントとなり、基準値を大きく下回っている。

あくまで参考値の一つではあるものの、今回の雇用統計を受けて市場が懸念したような景気後退は、今のところ示されていないとも言える。
今後の展開:ジャクソンホール会議におけるパウエルFRB議長発言に注目
とは言え、雇用情勢が鈍化していることも事実であり、今後の景気動向などを注視しつつ、FRBが利下げ再開に踏み切る可能性は高まっていると考えられる。
8月21日から23日には、米カンザスシティ連銀が主催する経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開催される予定だ。7月の雇用統計を受けて市場の9月利下げ観測が高まっている中、同会議においてパウエルFRB議長がどのような姿勢をとるのかが、非常に注目される。
三井住友DSアセットマネジメントは現段階で、FRBは9月に利下げを再開した後、10月、12月にも政策金利を引き下げると予想している。
構成/清水眞希