
モバイルバッテリーの出火事故が相次いでいる。
7月20日、JR山手線内回りの電車内で乗客の持っていたモバイルバッテリーが出火した。これはスマートフォンに充電している最中の事故で、幸いにも火は消火器で消し止められた。このモバイルバッテリーは、リコール対象の製品だったことが明らかになっている。
リチウムイオン電池式モバイルバッテリーは「出火のしやすさ」が指摘され、その上粗悪品も数多く流通しているのが現実だ。また、リチウムイオン電池自体がそもそも「耐久消費財」とは言い切れない代物であることも考慮しなければならない。
そうなると、「どこに捨てたらいいのか?」ということが問題になってくる。
世界で相次ぐ「モバイルバッテリーの出火事故」
今年に入り、モバイルバッテリーが航空業界をも動揺させている。
1月、韓国金海空港発・香港国際空港行のエアプサン391便の客室から火災が発生した。激しい火災だったにもかかわらず、幸いにも死者は出ていない。そして、この火災の原因は乗客の持っていたモバイルバッテリーだったと言われている。
さらに、3月には香港航空115便の火災事故が発生。こちらも荷物棚に収納されていたモバイルバッテリーが原因と見られ、乗員乗客が必死になって火元に水をかける映像が拡散された。
これらの事故とまったく同時期に、中国では大手モバイルバッテリーメーカーのリコール届出が相次いでいた。
自動車や鉄道と違い、旅客機はその中で火災が発生しても逃げ場はない。相次ぐ航空火災事故は世界各国の公共当局、そして北京の指導者たちを恐れおののかせた。中国政府は3C認証のないモバイルバッテリーの国内線持ち込みを禁止する措置を急遽導入。一党独裁国家ならではの強権を、このような場で振るうに至ったのだ。
今後は、低品質のモバイルバッテリーを販売するメーカーに対して北京が何かしらの指導を行う可能性も考えられる。が、たとえ粗悪品を売る業者が少なくなったとしても、リチウムイオン電池式モバイルバッテリーには寿命というものが存在し、長く使い続けられるものではないという側面もある。そのあたりが問題として露呈するようになったら、北京は全国各省の自治体に対してやはり強権を発揮するのだろうか―—。
環境省が市区町村に通知を出す
実はそのあたりに関しては、中国よりも日本のほうが案外早く問題を解決できるかもしれない。
日本の場合は霞が関が「お願い」という形で協力要請事項を発表し、全国の自治体がそれを行動に移せるかどうかを検討する……というのが基本の流れである。時には要請事項に対して、知事や市長が反発することも。これは「中央政府の意向に反対する自由が保障されている」という意味だ。
長く使用したモバイルバッテリーの捨て方に関しても、そうした流れで対策が施されようとしている。以下、NHKが4月15日に配信した記事である。
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モバイルバッテリーやスマートフォンなどに使われている「リチウムイオン電池」による火災や発火事故が相次ぐ中、環境省は家庭から出される不要になったすべての「リチウムイオン電池」を市区町村が回収するよう求める新たな方針をまとめ、15日、通知しました。
「リチウムイオン電池」は、モバイルバッテリーやスマートフォンなどさまざまな製品に広く使われていますが、ほかのごみと混ぜて捨てられ回収する際やごみ処理施設で発火し、火災が起きるケースも相次いでいます。
(中略)
こうした状況を受けて環境省は、家庭から出される不要になったすべての「リチウムイオン電池」について全国の市区町村が回収するよう求める新たな方針をまとめました。
回収方法については住民の利便性が高い地域のごみステーションや戸別での分別収集を基本とし、役場や公民館などの拠点施設に回収ボックスを設置して活用することも推奨しています。
(不要のリチウムイオン電池 “市区町村が回収を”環境省が通知-NHK)
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環境省からの通知は「命令」ではなく、それ故に各自治体の事情に適合したモバイルバッテリー回収の方法を模索する余地が設けられている。
既に回収ボックスを設置している自治体も
現状においても、自治体がモバイルバッテリー回収を積極的に行っている例が見受けられる。
ここでは小平市の公式サイトを見てみよう。
携帯電話やモバイルバッテリーなどに使用されるリチウムイオン電池は、破損や変形により発熱・発火する危険性が高く、取り扱いに注意が必要です。実際にリチウムイオン電池が原因と思われる発火事故が、ごみ収集車やリサイクル工場で発生しています。ぜひ、これらの電池の分別にご協力ください。電池の見分け方や排出時の安全処置については、このページ下部の回収施設一覧表の後に掲載していますのでご覧ください。
一覧表を見てみると、小平市役所や西部・東部出張所、そして市内の図書館にも回収ボックスが設置されていることが分かる。
こうした取り組みを全国各自治体が行うようになれば、「モバイルバッテリーってどこで捨てればいいの?」と首を捻ることはなくなるだろう。
ただし、その取り組みの中身は各自治体とそこに住む人々の負担にならない形であるべき。この部分は言わば「最低条件」である。そうしたことを模索する上で、日本の行政機構というのは実は合理的とも言えるのだ。
【参照】
不要のリチウムイオン電池 “市区町村が回収を”環境省が通知-NHK
小型充電式電池のリサイクル-小平市
文/澤田真一
JALやANAも警鐘!モバイルバッテリーの持ち込みルールが激変
モバイルバッテリー。今や我々の日常生活に欠かせないガジェットであるが、それが全世界の航空業界を恐怖の底に陥れている。 これは決して大袈裟な表現ではない。リチウム…