
非接触型キャッシュレス決済スマートリング『EVERING』は、それ自体が新しい商品というわけではない。日本での一般販売は2021年10月のことである。
しかし、発売開始当時と今現在とではその注目度や存在価値という面で状況が大きく異なっている。一言で言えば、EVERINGは今や「生活必需ガジェット」となりつつあるのだ。
その理由は、やや飛躍した物言いを敢えてすれば「三井住友カードの躍進」のためである。
充電不要の決済スマートリング
EVERINGは、VISAブランドが付与されたスマートリングである。
専用アプリに残高をチャージし、プリペイドカードのような感覚で利用する仕組みだ。にもかかわらず、EVERINGはスマホのように「充電しなければただの物体」というものではなく、何と充電の必要が一切ないガジェットである。利用期限があるため「半永久的に使える」とは言えないが、それでも電力稼働という概念がない点はユーザーにとっては非常にありがたい。
スマホ、スマートウォッチ、ワイヤレスイヤホン、モバイルバッテリー。現代人は「充電しなければならないもの」に日々囲まれながら生活しているのだ。もしもEVERINGが充電を必要とするガジェットだったとしたら、今日のような注目度は獲得していなかっただろう。
さらに、これはEVERINGが意図したことではないはずだが……去年から全国的に「タッチ決済乗車ブーム」というものが巻き起こっている。
Suica、PASMOを筆頭にした全国交通系ICカードは、しかしながら「システム更新費用の高さ」が大きな問題になっている。地方都市の交通事業者にとっては極めて大きな負担で、これを改修・更新するとなると自治体からの補助がどうしても必要になる。もちろんこれは、該当自治体住民にとっての負担に直結する。
以上の理由から、全国交通系ICカードの維持を諦める交通事業者が相次いだ。代わりに注目されるようになったのが、クレカタッチ決済乗車システムである。
このシステムを提供するのが、三井住友カードだ。同社が提供する公共交通機関向けソリューション『stera transit』は、文字通り爆発的に全国普及した。日本でもクレカで自動改札機を通過できる光景が、ついに実現したのだ。
ドコモショップで取り扱い開始
しかし、EVERINGにはひとつ弱点……いや、その形状故に「購入を考えている人が気をつけなければならないこと」がある。
それはサイズ選びだ。
いかんせん、EVERINGは指輪である。自分の指の太さを測りつつ、実際に現物をはめてみなければ購入の判断は難しい。つまり、ネットで写真を見てポンと買えるものではないということだ。
となると、EVERINGの購入の際は必ず実店舗に行かなければならないことになる。では、どこで売っているのか? その問いに一定の答えを提示するかのように、EVERINGがこのようなプレスリリースを発表した。
株式会社EVERING(本社:東京都中央区、代表取締役CEO:川田 健、以下EVERING)は、2025年7月28日(月)より、スマートリング「EVERING」の取り扱いを全国のドコモショップ(※一部取扱店舗を除く)に拡大いたします。これまで一部のドコモショップに限られていた取り扱いを、全国ドコモショップ(※一部取扱店舗を除く)での取り扱いへと拡大し、より多くのお客様に製品をお届けできる体制を整えました。今後もキャッシュレス文化のさらなる普及に貢献してまいります。
(キャッシュレス決済機能搭載のスマートリング「EVERING」 全国ドコモショップにて販売拡大-PR TIMES)
何と、ドコモショップでEVERINGが実店舗販売されるという内容である。
通信会社の店舗は、誰もがその存在を認識している施設。そこでEVERINGを取り扱うというのは、メーカーだけでなくユーザーにも多大な好影響を与える出来事に違いない。
EVERINGはジルコニアセラミック製。これはある程度伸ばすことができる金属とは違い、調整が一切利かない素材だ。もしもサイズを間違えたら、そのまま我慢して使い続けるか交換してもらうしかない。そうした事態を避けるためにも、EVERINGは(オンラインで販売されているとはいえ)実店舗で購入するしかないのだ。
ちなみに、それに先駆けて今年4月に全国のauショップでEVERINGの販売が始まっている。
「首都の大動脈」がタッチ決済乗車を導入へ
7月24日、東京メトロがこのような発表を行った。
東京地下鉄株式会社(本社:東京都台東区、代表取締役社長:小坂 彰洋、以下「東京メトロ」)では、東京メトロ全線において、タッチ決済対応のカード(クレジット・デビット・プリペイドも含む。)や、同カードが設定されたスマートフォン等のタッチ決済による後払い乗車サービスを2026年春に開始することを、以下のとおりお知らせします。
東京メトロでは、当社販売サイトで事前に購入いただいた企画乗車券を対象に「クレジットカード等のタッチ決済及びQRコードを活用した乗車サービス」を2025年3月22日(土)から開始しています。
このたび、この取組みを拡大し、タッチ決済による後払い乗車サービスを開始いたします。これにより、2026年春からは事前に乗車券を購入することなく、タッチ決済対応のカード等を自動改札機のリーダーにかざしていただくことで、そのまま自動改札機を通過し東京メトロ全線をご利用いただけるようになります。本サービスの開始日及び詳細は、決まり次第あらためてお知らせいたします。
(東京メトロ全線でクレジットカード等のタッチ決済による後払い乗車サービスを2026年春に開始します-東京メトロ)
首都の大動脈とも言える東京メトロが、ついにクレカタッチ決済乗車を開始するという内容だ。なお、ここでもまた三井住友カードのstera transitが中心的な役割を担っていることを記載しておきたい。
これが関東におけるEVERINGの急速普及のきっかけになるかもしれない。というより、そうなる可能性は極めて高いだろう。
カード会社が実質主導する公共交通機関のクレカタッチ決済乗車サービスが開始され、それと同時にEVERINGを取り扱う実店舗が増加する。その先にあるのは、我々日本人が未だ見たことのない形のキャッシュレス社会である。しかしそれは、見方を変えればいささか過度だった「交通系ICカードへの偏り」が是正されるということではないか。
この流れを根拠に「交通系ICカードはオワコン」とするのはナンセンスである。が、タッチクレカの今の勢いが交通系ICカードの足元をぐらつかせていることは事実で、それが我が国の公共交通機関を大きくリニューアルしようとしているのだ。
【参照】
EVERING
キャッシュレス決済機能搭載のスマートリング「EVERING」 全国ドコモショップにて販売拡大-PR TIMES
全国のauショップなどで「EVERING」発売
東京メトロ全線でクレジットカード等のタッチ決済による後払い乗車サービスを2026年春に開始します-東京メトロ
文/澤田真一
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