
男性部下の育休に対する上司の怒り、背景に職場の不公平感とストレス
男性が育児休業(育休)を取りにくい職場の空気はどこから生まれるのか。今回、男性の育休に対する上司の怒りは、業務負担や部下に対する責任感といった職場ストレスが原因となり、不公平感を介して生じている可能性があるとする研究結果が報告された。研究は筑波大学人間系の尾野裕美氏によるもので、詳細は「BMC Psychology」に7月1日掲載された。
日本では男性の育児休業制度は国際的にみても手厚く整備されており、法的には長期間の取得が可能で、一定の所得補償も用意されている。しかし現実には、男性の育休取得率やその取得期間は依然として低く、制度が十分に活用されているとは言いがたい。従来の研究では、育休取得によるワークライフバランスの向上や仕事満足度の向上といった肯定的側面に主に焦点が当てられてきた。一方で、制度活用が職場内で生じさせる不公平感や、上司が感じる感情的な負担といった側面には、これまで十分な検討がなされてこなかった。そこで本研究では、男性部下の長期育休取得に対する上司の否定的感情が、職場におけるストレッサー(不明確な役割や能力を超えた業務など)を通じてどのように形成されるのかを明らかにすることを目的とした。不公平感が怒りの媒介要因となるという仮説モデルに基づき、その相互関係を検証するためのオンライン調査を実施した。
2024年3月にインターネット調査会社を通じて、30~60歳の民間企業の管理職400名(男女各200名)からデータを収集した。質問項目は、男性育休への怒り、男性の育休に関する不公平感喚起状況(育児関与の希薄さ、手厚い恩恵の享受、自身の仕事量の増加)、職場のストレッサー(質的負荷、量的負荷、部下に対する責任)、属性情報(性別、年齢、職業など)で構成された。
性別と子の有無を要因とする二元配置分散分析を行った結果、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」において性別の主効果が有意で、女性の得点が高かった。一方、怒りと不公平感喚起状況との交互作用は認められなかった。職場ストレッサーでは「部下への責任感」にのみ有意な交互作用が認められた。単純主効果検定により、子どものいない男女間では男性が有意に高く、また女性では子ありの方が有意に高かった。一方、「質的負荷」「量的負荷」には交互作用・主効果ともに認められなかった。怒りは、男性育休に関する「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の業務負担の増加」の3つの不公平感要因および職場ストレッサーと正の相関を示し、不公平感要因は職場の様々なストレッサーとも関連した。
次に共分散構造分析により、職場のストレスが不公平感を介して上司の怒りに至る理論モデルを検証した。質的・量的負担や部下への責任感が、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の仕事量の増加」といった男性育休に関する不公平感を高め、これらのうち「育児関与の希薄さ」「自身の仕事量の増加」が怒りと有意に関連した。また、量的負担は怒りに直接影響し、責任感は怒りを抑制する効果を示した。モデルの適合度指標はいずれも良好で、仮説モデルの妥当性が確認された。
本研究について著者は、「職場のストレスにより、男性社員の育休取得に対して上司が不公平だと感じ、それが怒りにつながることがある。ワークライフバランス施策には、意図しない負の影響が生じる場合もあり、本研究は、男性の育休に対する職場の反応がどのように職場環境に左右されるかを示すことで、職場の公平性に関する理解を深める手がかりとなる」と述べている。(HealthDay News 2025年8月8日)
Abstract/Full Text
https://bmcpsychology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40359-025-03003-5
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構成/DIME編集部
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