
年収によって、契約できる賃貸物件の家賃帯・間取り・エリアの幅は異なるものだ。では、年収400万円以下の人と年収1000万円以上の人では、選ぶ物件にどれほどの違いがあるのだろうか?
プロパティバンクはこのほど、運営する不動産・住宅情報サービス「プロパティバンク」において、この2年間で都心エリアで実際に成約した約1,200件分の成約者と賃貸物件のデータを元に、年収・年代・業種・性別毎に実際に選ばれている家賃帯・間取り・人気エリアを発表した。
年収別に見る賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
実際の約1,200件の成約データをもとに、年収帯による家賃・間取り・居住エリアを以下のようにまとめた。
物件選びを成約データから紐解くと、年収帯によって選ばれるエリアや住まいのスタイルが明確にわかれていることがわかる。
年収~400万円の賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
年収400万円までの層の成約が多いのは江東区・墨田区・大田区・台東区など、比較的家賃を抑えやすく、かつ交通アクセスの良い地域だ。例えば江東区なら都心へのアクセスが良好な東西線や半蔵門線沿線にコンパクトな1Kや1Rが多く、通勤時間を抑えながらも家賃10万円前後に収められる物件が選ばれている。
年収400~600万円の賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
年収400~600万円の層になると、成約割合が最も高いのは江東区・墨田区・台東区・品川区といった「都心隣接エリア」だ。賃料相場は1Kで10万~13万円台、1LDKでも15~17万円前後が中心で、東京メトロやJRでの主要エリアへのアクセスを確保しつつ、生活利便性の高いエリアが選ばれる。
年収600~800万円の賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
年収600~800万円の層では、さらに選ばれる地域が広がり、比較的賃料が高く都心の港区・新宿区・中央区・品川区での成約も目立つようになる。間取りも1LDKや2LDKがメインになる。家賃帯は16~22万円になる。
年収800~1,000万円の賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
年収800~1,000万円になると、選ばれる地域の傾向は一段と「都心プレミアムエリア」寄りになる。中央区・港区・目黒区・文京区での成約割合が高くなり、1LDKや2LDKを中心に22~28万円の賃料帯を許容する層が増えてくる。
年収1,000万円~の賃貸契約者が実際に選ぶ家賃帯・間取り・エリア
そして年収1,000万円以上の層は、データ上も明確に港区・中央区・文京区・渋谷区といった都心の高級住宅地に集中してくる。広めの1LDKや2LDKだけでなく、70m2を超える3LDKといったファミリータイプも成約しており、月額賃料が30万円を超える物件も少なくない。
賃貸契約者の業種
実際の成約データをもとに、賃貸契約者の業種を以下のようにまとめた。都心の高級賃貸物件を探している賃貸契約者はコンサルティング・IT・製造(メーカー)・金融・医療・広告の業種が多いことがわかる。都心にオフィスを構えている大手企業勤務の職住近接志向の賃貸契約者のニーズが反映されている。
成約データを職種ごとに見ると、住まいの選び方には明確な違いが表れている。
・最も成約件数が多かったのはコンサルティング職で、特に20代後半から30代前半の男性に顕著だ。業務の都合上、朝早くから深夜まで外出することが多く、タクシー移動もしやすい港区や中央区を選ぶ人が多くなっている。1LDKで18~22万円台、2LDKになると25万円を超える物件も珍しくなく、白金高輪・麻布十番・赤坂など、ビジネスエリアへの近さと静かな住環境を兼ね備えた街が人気だ。
・次に成約件数が多かったのがIT・Web関連職で、特に港区や渋谷区など都心エリアでの契約が目立つ。1Kでも平均賃料が15万円台、1LDKになると20万円台という高水準の物件を選ぶケースが多く、深夜までの勤務やリモートワークを考慮して、職場まで短時間でアクセスできる立地を優先する傾向が見られる。
・医療職では看護師や薬剤師といった夜勤のある職種が多く、治安や夜間の利便性が重視される。文京区や世田谷区など、夜でも比較的人通りがあり安心感のあるエリアが好まれている。賃料は1Kで11万円前後、1LDKで15万円前後が中心だ。
・広告職では20代後半~30代前半の男性成約者が目立つ。居住エリアは渋谷区・港区・中央区が多く、住まい選びに「利便性」へのこだわりが強い傾向が見られる。広告業は勤務時間が不規則になりやすく、夜遅くに帰宅するケースも珍しくない。そのためタクシーでの移動がしやすい主要幹線道路沿いの街が好まれるのが特徴だ。間取りは1Kや1LDKが中心で、1Kの賃料帯は14万~16万円台、1LDKの賃料帯は18万円~22万円台だ。
・医師や士業は、家族構成やエリアの快適性を視野に入れて住まいを選ぶ人が多く、港区・中央区・文京区といったエリアの2LDKや3LDKを選ぶケースが目立つ。賃料は30万円以上が中心で、長期居住に適した管理体制の整ったマンションが好まれている。
間取り別の成約割合から見える傾向
実際の成約データをもとに、全年収帯の間取り別の成約割合を以下にまとめた。1R・1K・1DK・1LDKの成約が約76%と非常に多いため、都心エリアで賃貸物件を探しているメインのユーザーは単身者や二人暮らしのカップル・夫婦ということがわかる。
・最も成約件数が多いのは 「1LDK」で、全体の約3割を占めている。1LDKは、ひとり暮らしでもゆとりを重視したい人や、これから同棲を考えるカップル層に人気で、30m2後半から40m2台前後の専有面積がボリュームゾーンだ。
・次いで多いのが 「1K」。1Kは賃料を抑えつつも生活に必要な機能をコンパクトにまとめた間取りで、初めての一人暮らしをする20代の成約が多いのが特徴だ。賃料は10~15万円前後が中心。通勤の利便性を最優先しつつ、夜間も人通りが多いエリアを選んでいることが読み取れる。
・「2LDK」 は全体の中で3番目に多く、特に30代以上でパートナーやお子さまがいる世帯の成約が増える。50m2以上の広さを求める傾向がある。賃料は20~30万円台が中心で、住環境の質や資産価値を重視する声が多く、今後の生活設計を踏まえた選択がうかがえる。
・一方、「3LDK」やそれ以上の間取りは全体の中では少数派だが、成約している物件は港区や千代田区、文京区などのハイグレードエリアに集中している。70m2を超える物件を選ぶケースが多く、月額賃料も30万円を超えることが一般的だ。子育て世帯や、リモートワークで複数の部屋を用途別に使い分けたい高年収層が選んでいることがデータからわかる。
1Rは単身者向けの間取りであるにも関わらず成約割合6.38%と数字が低いのは室内にキッチンがあることが忌避されており、特に料理をすることの多い女性からは不人気だ。1Rの成約者の殆どは男性となっていることに加えてマンション開発会社もニーズが低いことがわかっているため、1Rの住戸を作らないことが多く、その結果が成約割合に表れている。
また、3LDK以上の間取りの賃貸物件は供給数自体が非常に少なく限られているため、必然的に部屋数の多い物件や広い物件を求めるファミリーは賃貸物件ではなく新築分譲マンション・中古マンション・戸建などの売買物件を探していることもうかがえる。
年代別に見る間取り・広さの選び方
年代によって選ばれる間取りには明確な傾向が見られ、ライフスタイルや家族構成の違いがその背景に大きく影響している。
・まず20代では、1K・1DK・1LDKなどのコンパクトな間取りが好まれている。家賃を抑えつつも一定の居住スペースを確保したいというニーズから、単身者向けのコンパクト賃貸物件が中心だ。一方で1Rの割合も高く、バス・トイレ別や収納スペースよりも賃料や立地重視で選ぶ層が多い。
・30代になると、1LDKや2LDKが高い選好率を示している。この年代では同棲・結婚・子育てを視野に入れた生活設計が進み、広さや間取りの多様性が重視されていることがうかがえる。また、3LDKの割合もやや高くなり、ファミリー層の動きも見られる。
・40代では、1LDK・2LDKなどの中間的な広さの間取りが支持されており、広さと居住性のバランスを重視する傾向が強くなっている。生活基盤が安定し、子どものいる家庭や二人暮らしなどのライフスタイルに対応する間取りが中心だ。1DKや1Kの選好率もなお高く、単身世帯での利用も一定数存在している。
・50代以上では、単身世帯・二人暮らし世帯・ファミリー世帯、それぞれのライフスタイルによる間取り選定の違いがより一層際立つ。当社では単身世帯や二人暮らし世帯のお問い合わせが多いことと、都内への転勤に伴う一人暮らしやセカンドハウスの需要もあり、1LDK・1DKの成約が多くなった。ファミリー世帯では2LDK・3LDKの間取りの割合が多く、広さを重視して物件を探していることがわかる。
男性・女性それぞれどのエリアの物件を選んでいるか
成約データを性別で切り分けて分析すると、住まい選びにおける志向の違いが明確に現れる。
・まず男女共通の傾向としては、江東区・台東区・墨田区の割合が多いことだ。これは昨今の賃料上昇の相場により、賃料が比較的安価な上に都心のオフィスエリアへのアクセスが良いからと考えられる。特に江東区は再開発が進む湾岸エリアの街並みや居住性の良さから選択されることが多くなった。
・男性は都心志向が強く、利便性とブランドを重視する傾向が顕著だ。「港区・渋谷区・新宿区・中央区」といった都心エリアでの成約が多い。特に港区の1Kや1LDKは、平均賃料が14万~18万円台と高水準ながらも、20代後半~30代前半の男性から多く選ばれている。
こうしたエリアは交通手段が豊富なため、夜遅くの帰宅や急な会食・打ち合わせの後でも安心して帰れる点が評価されている。男性の多くは「職場への距離」「タクシー圏内」といった実務的な要素に加え、ステータスを感じられるエリアにこだわる傾向がある。
・一方、女性は安心感や生活のしやすさをより重視する傾向が見て取れる。成約データでは、女性の契約エリアは「中央区・品川区・大田区・世田谷区」が多く、男性に比べてやや都心から外れた落ち着いた住宅街が選ばれる傾向がある。2階以上やオートロック、夜道が明るい環境を優先条件にしているケースが多く、同じ価格帯の物件でも「安全に暮らせるか」を軸に選んでいるのが特徴的だ。
まとめ:選ばれている物件の条件は「自分のライフスタイルに合った最適な賃料・間取り・エリア」
成約データからは、間取り・賃料・エリアの選び方が「年収」「性別」「年代」「職業」と密接に関連していることわかる。例えば
・年収500万円台の広告業の20代男性なら、江東区1Kで10~13万円台
・年収800万円台のコンサルティング業の30代女性なら、文京区1LDKで18~20万円台
・年収1000万円以上の士業の40代男性なら、港区2LDKで30~50万円台
などだ。「家を選ぶ基準」は個人によって異なるが、統計的に見ることで都心の人気エリアのトレンドやニーズの裏付けを得ることができる。ぜひあなたが都心で高級賃貸物件を探す際の参考にしてみてほしい。
<調査概要>
データ数:1,190件
期間:2023年6月1日~2025年5月31日
対象:プロパティバンクに掲載された東京23区の賃貸物件
集計方法:プロパティバンクに掲載された東京23区の賃貸物件のうち、プロパティバンクと提携不動産会社で契約した成約者と成約物件
出典元:株式会社プロパティバンク
構成/こじへい