
およそ8年ぶりに刷新されたプジョーの新型3008は、ステランティスが新開発したC-Dセグメント用のSTLA-Mediumプラットフォームを初採用したCセグメントのクーペSUVだ。
モダンでスタイリッシュな外観と圧巻のインテリア
“クーペのエレガントさとSUVの力強さを融合させた”と謳われるファストバックデザインのボディは全長4565×全幅1895×全高1665mm。ホイールベース2730mm。つまり、比較的短めの全長に対して、ワイドな車幅を持つクーペSUVということになる(新型メルセデスベンツAクラスセダンと全長、ホイールベースは同一)。エクステリアの特徴はボディ前後にあり、とくにフロント部分はブランドエンブレムを配した大型フレームレスグリルを採用。洗練されたダイナミックさが目を引く。厚みあるリヤエンドも立体造形の3本のLEDランプがデザインされ、モダンでスタイリッシュな印象を受ける。
ちなみに19インチのアルミホイールの名前は「YARI」。日本の槍ヶ岳から命名され、鋭い山頂部をデザインに落とし込んでいるという・・・。
新型プジョー3008のハイライトとも言えるのが、インテリアではないだろうか。先代モデルで好評だったテキスタイル調トリム採用によるリビング感覚のデザイン性の良さはもちろんだが、新開発されたフローティングデザインの「プジョーパノラミックアイコクピット」の採用が特筆点。何しろメーター~センターディスプレイに続く21インチのドライバーに向けてゆるやかにカーブする大型スクリーンの先進感が素晴らしく、小径ステアリング、個性的なセンターコンソールのデザイン、テキスタイル調トリムの採用と合わせ、極めて居心地のいい、しかし機能的な空間が演出されている。
ちなみに試乗した3008GT Hybrid アルカンタラパッケージの場合、全グレードにプジョーコネクテッドアドバンストナビゲーションが標準装備されるのに加え、ブラックアルカンタラ/ブラックテップレザーシート、フロントシートヒーター、ステアリングヒーター、フロント電動調整シート&マルチポイントランバーサポート&プジョー初のアダプティブボルスター(コーナリング時などサポートが必要な場面で脇の部分が膨らむ機能)、リヤシートヒーターも加わることになる。いわゆるマッサージ機能も進化版(フィアット600のものよりもみ玉が多い)が装備されているから、運転時の肉体的疲労も軽減されるに違いない。
新型3008にはハイブリッド(HEV)と電気自動車(BEV)の2種類の電動パワートレインが採用され、まず日本に上陸したのは前者の48Vマイルドハイブリッドモデル。マイルドハイブリッドのパワートレインはフィアット600やアルファロメオジュニアにも採用される直列3気筒1.2Lターボ+モーターで、エンジンは136ps、23.5kg-m、モーター22ps、5.2kg-mというもの。システム最高出力は145ps(アルファロメオジュニアと同一)となっている。組み合わされるミッションはステランティスでお馴染みの電動モーター内蔵の6速デュアルクラッチミッション(6AT)である。素晴らしいのはWLTCモード燃費で、1620kgの車重の2WDクーペSUVながら、19.4km/Lを達成しているところだろう。
もちろん、先進運転支援も充実。フロント&バックソナー、アクテイブセーフティブレーキ、ACC(ストップ&ゴー機能)、ブラインドスポットモニター、レーンキープ機能、リアトラフィックアラートなど満載である。
そんな新型プジョー3008の室内空間は、プジョーパノラミックアイコクピットによる先進感、居心地の良さはもちろん、全長4565mmから想像するより遥かにゆったり。身長171cmの筆者のドライビングポジション基準でかけ心地とホールド性抜群の前席頭上に最大240mm(筆者にとって適切な運転視界を確保するため、電動シートの座面を上げても220mm)、後席頭上に150mm、膝周りに230mmものスペースがある。エアコン吹き出し口もあるシートヒーター付きの後席について補足すると、フロア中央の出っ張りは最小限。フロアからシート座面先端までの高さ=ヒール段差は375mmとかなり高く、椅子感覚、太腿がしっかりとシート座面に密着する着座姿勢がとれるから快適だ。着座、立ち上がり性も文句なしなのである。つまり、後席重視のクルマ選びでも、このプジョー3008は候補に挙げるべき1台となりうるわけだ。
もうひとつ、付け加えさせてもらえば、リアドア部分のサイドシル地上高は約480mm(三菱アウトランダーと同数値)。シートサイドに隙間がなく、例えば愛犬を後席に乗せた際、乗降時に抜け落ちやすい抜け毛が隙間に入ることがなく、それが原因となる車内の動物臭も低減できることになる。さらに、後席は4:2:4分割で可倒できるため、やむ終えず大型犬をラゲッジルームに短時間、乗せる場面でも(愛犬の特等席はあくまで後席)、中央の2部分をアームレスト代わりに倒せば、後席との間にスルー空間ができ、後席エアコン吹き出し口からの冷風が届きやすくなると同時に、愛犬と後席の飼い主とのアイコンタクトが容易になり、お互い、より安心してドライブを楽しめることになる。
SUVは荷物を満載して遠出する機会も多いジャンルのクルマだが、ハンズフリー電動テールゲートを備えるラゲッジルームは後席使用時で520L(アルファロメオジュニアは415L)、後席を倒すと最大1480Lもの容量になる。そのスペースは実測で開口部地上高790mm。後席使用時のフロア奥行き約910mm。スクエアなフロアの幅約960mm。天井高約580mmとなる。使い勝手のポイントは、フロアボードを上下2段にセットできること。上段にセットすれば開口部とフロアに段差がなくなり、フロア下全体が隠し収納になり、下段にセット(開口部段差約100mm)すれば天井高が稼げるというわけだ。
ロングドライブを乗員誰もが快適に楽しめるグランドツアラー
フィアット600にないドライブモードをまずはノーマルにセットして走り出せば、エンジンは早期にかかるものの(気温35度でエアコン21度設定)、エンジンは静かに、3気筒感など皆無に回り、モーターアシストもあってスムーズに発進、加速する。225/55R19サイズのミシュランe-PRIMACYタイヤのロードノイズもしっかりと抑え込まれているから、速度を上げても車内の静粛性の高さは保たれる。※電子パーキングブレーキは備わるが、フランス車はかたくなにオートブレーキホールド機能を装備していない。クーペのように寝たルーフエンドと厚みあるリヤエンドによって、リヤウインドーの天地、後方視界が狭いのはデザイン優先だからなのだが、駐車時にはカメラ画像があるから心配は無用だ。
低速域では6速デュアルクラッチミッション(6AT)の変速に伴う僅かなショック、荒れた路面、段差での足回りからボコボコしたノイズ、振動が気になることもあったのだが、車速が60km/hを超えたあたりからそうした点は解消され、6ATはスムーズさに徹し、段差なども気にならない快適でラグジュアリーと表現してもいい乗り心地に終始してくれた。
トライブモードをスポーツにセットすれば、右足とエンジンが直結したかのようなレスポンスと力強い加速力を発揮。アルファロメオジュニアほどではないにしても、しなやかできびきび感ある走りも楽しめることになる。
メーターに「CHARGE」のバーグラフが黄色で示されるのだが、アクセルオフ、ブレーキング時にはけっこうな回生があり、自然な減速感が得られ、街中などでの走りやすさに貢献。しかも、長い下り坂、スロープの走行では6ATがギアアップすることなく一定の安全な速度を保ってくれるため、そうしたシーンでも安心、安全。ブレーキを踏む機会が大幅に低減される印象だ(ブレーキパッドの減り低減にも有効だろう)。
高速走行では車内の静かさ、ジョイントをしなやかにこなす乗り心地の良さとともに、SUVならではの重心高、視界の高さにもかかわらず、レーンチェンジ時の姿勢変化最小限かつ水平感覚でこなしてくれる走りやすさ、安定感、安心感に感心させられたのだった。
繰り返しになるが、WLTCモード燃費19.4km/Lの好燃費性能、前後シートのかけ心地の良さ、前席のマッサージ機能、静かでスムーズな走り、カーブでも発揮される安定感の高さ、そして後席とラゲッジルームを含めたパッケージの優秀さなどを総合すれば、新型プジョー3008 GT Hybrid アルカンタラパッケージは、家族や仲間を伴ったロングドライブを乗員誰もが快適に楽しめるグランドツアラーとしての魅力十分。それにインテリアの特徴的なスタイリッシュさ、先進感が加わるのだから、日本車やドイツ車とは一味違うSUVを探している人、今はBEVじゃなくHEV!!と思っている人には、約560万円という価格を含め、もうこれしかないオシャレすぎる選択と言っていいかも知れない。愛犬家と愛犬にもお薦めできるドッグフレンドリーカーとしての資質も十二分である。
文・写真/青山尚暉