
アウディの「Q6 e-tron」は、新たにグループ内で開発された「PPE」(プレミアムプラットフォームエレクトリック)というプラットフォームを採用してフルモデルチェンジしたアウディの電気自動車だ。
PPEを用いることによって、30%のエネルギー消費を削減し、33%の出力を向上、よりコンパクトな設計と軽量化などを実現して走行性能を向上させた。「Q6 e-tron」には、リア1モーター版の「Q6 e-tron」、2モーター版の「Q6 e-tron quattro」、高性能版の「SQ6 e-tron quattro」の3モデルが用意されている。先日、一般道と自動車専用道で、2モーター版の「Q6 e-tron quattro」(税込車両価格998万円)を1時間半試乗した。
機械として優れているか?★★★★☆ 4.5(★5つが満点)
スペックはシステム最高出力285kW、最大トルク(フロント/リア)275Nm/580Nm、0-100km/h加速5.9秒、満充電での走行可能距離644km、車両重量2410kg、総電力量100kWh。一般道で静粛性高く、滑らかな加速はEVなので驚くに値しないが、自動車専用道に乗って速度を上げていっても、車内の静かさはまったく変わらない。
速度を上げていって周囲のクルマの流れに合わせて巡航し続けていくと、風切り音の小ささに驚かされた。確かめるために、4枚の窓ガラスを開け閉めしてみてよくわかった。開けると車外のさまざまな音が聞こえてくるのに、閉めるとピタリと何も聞こえてこない。
他社のEVの中には窓を閉めて速度を上げるとドアミラーやルーフとAピラーの角などから風切り音が発生してしまうものもある。エンジン音が存在しないから、風切り音がかえって目立ってしまう「EVの逆説」が生まれるのだ。しかし「Q6 e-tron quattro」では、風切り音が巧みに抑制されていて、それがなかった。
ただし、その代わりにタイヤノイズが伝わってくるのが残念だった。40km/hぐらいから、ゴーッというタイヤと路面が擦れるノイズが路面を問わずにつねに車内に侵入してきていた。タイヤノイズに関しては「EVの逆説」が発生してしまっていた。
モデルチェンジでは、新しい「FSD」ダンパーが採用された。実際にも、舗装の荒れた路面や中高速域での乗り心地を向上させているが、より効能を働かせられるだろうと推察できたのは長距離やペースを上げて走った時だろう。もうひとつの目玉は、減速時の回生を強め、慣れればアクセルペダルのON/OFFだけで停止まで行える「ワンペダル」設定が設けられたことだ。ワンペダルは便利で、特に市街地走行をサポートしてくれる。
そして、回生に関しては、以前はたしかアウディでは「アダプティブ」と呼んでいたが、回生のオートモードが「自動回生」と呼び直されて健在だった。ACC用のカメラを用いて、前車との車間距離の増減と緩急に合わせて回生の効かせ具合をクルマに任せられる安全で便利な機能だ。働きぶりも優れていた。
自動回生は「iX1」や「iX」などBMWのEVにも採用されているが、BMWはマニュアルで回生を強弱させるハンドル裏のパドルを止めてしまった。対して「Q6 e-tron」にはパドルが残されている。自動回生を用いると、パドルはほとんど使わなくなるが、残しているのはアウディ流の考え方なのだろう。
車内は広く、運転席周りにも余裕があって快適だが、シート位置をいろいろと調整しても最適な位置が定まった感じがしなかった。前後して試乗したエンジン車の「A5 avant quattro」とは対照的だった。
商品として魅力的か?★★★★4.0(★5つが満点)
ダッシュボードやインパネなどの操作&表示系がガラリと改められた。メーターとセンターディスプレイが一体化され、湾曲した大きなパネルとなって見やすく使いやすくなった。物理的なボタン類も残されているが、ボタンの頭がパネルから飛び出しているのではなく、パネルの面と揃えてフラットにしている。ルックスと使い勝手を両立させようとしている。アウディは以前からこうした工夫が上手い。
助手席前には、助手席用の独立したディスプレイが設けられ、SpotifyやYouTubeなどの多彩なアプリが予めインストールされている。走行性能だけでなく、外出先での充電中など車内で過ごす時間をいかに充実させるかに抜かりなく対処している。
ただし、 エンジン車のような造形が施された大きなフロントグリルやボディサイドのさまざまなプレスや曲面など、外観からは煩雑な印象を受ける。抑制され、ミニマライズされているインテリアと調和が取れていない。
「Q6 e-tron quattro」はタイヤノイズとドライビングポジションの定めにくさ以外は、上質で優れたEVに仕上がっていた。全国のアウディのショールームには150kWの(日本では)高速のチャージングステーションを備えつつある。試乗中にアウディ厚木のチャージングステーションで試してみたが、専用アプリなども含めて使い勝手に優れたものだった。アウディのEVへのリアルな取り組みが伺えた。
■ 関連情報
https://www.audi.co.jp/ja/models/q6-e-tron/audi_q6_e-tron/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)