
人生100年時代。年齢を重ねることは、経験と知恵が深まる素晴らしい旅です。でも、一方で記憶力や集中力の低下に不安を感じることがあるかもしれません。
そんな中、脳科学者・西剛志氏が提案するのは、「脳の若さ」を保つためのシンプルな習慣。実際に、80歳を過ぎても好奇心を持ち続け、学びを楽しむ人たちが実践していることとは?
この記事では、書籍『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、脳を元気に保つヒントを抜粋・再編集してわかりやすくご紹介します。
年齢に関係なく、今から始められる「脳のメンテナンス」を一緒に学びましょう。
「自分は重要な人」を実感できる場をつくると脳が喜ぶ
日本では認知症を発症する人が増えています。認知症はここまで解説してきたように、生活習慣やストレスなどの影響を大きく受けます。この章では特にストレスと認知症を遠ざける方法を紹介します。
ここで質問です。あなたは自分も写っている集合写真を見るとき、最初に誰から見ますか?
自分を最初に見るんじゃないでしょうか(好きな人を最初に見てしまうこともあるかもしれませんが……)。なぜ、自分を見てしまうのでしょうか? その理由は「自己重要感」にあります。
自己肯定感という言葉はよく耳にすると思いますが、自己重要感は自己肯定感のひとつです。
自己肯定感―ありのままの自分を肯定的に、好意的に受け止める感覚。
自己重要感―自分は他者や社会にとって重要な存在であると思う感覚。
人は、自分のことを重要な存在であると思いたい欲求があります。たとえば、会社で管理職だった人が退職して、家族の中で居場所がなく、友人もいない。誰からも頼りにされない存在になってしまうと、自己重要感を感じることがなかなかできなくなってしまうことがあります。
自己重要感を感じることができないことは、脳にはストレスです。ストレスが脳にダメージを与え、最終的に認知症のリスクが高まります。
自己重要感は「他者から重要と思われていること」がベースになります。ですから、人とのつながりが前提です。働いているときや子どもが小さいときは、おのずと人とのつながりが生まれやすい環境にいますが、リタイアしたり、子どもが成人してしまうと、そういった環境から遠ざかってしまうこともあります。こうした場合、自らつながりをつくりに出て行かないといけなくなります。
重要な存在である自分を認識してほしいという感情が、キレる老人の原因になっていることもあります。
キレる老人は、間違った形で社会や他者とのつながりをつくってしまっている例です。キレることで自分に注目してもらい、自己重要感を満たそうとしてしまっているのです。
ある温泉施設を利用していたときの話です。その施設にはVIPルームというのがあり、そこへ連れて行ってもらったことがあるのですが、そこでこんな光景を目にしました。
一人の年配の男性がスタッフと話をしていました。私のすぐ隣で話していたので、会話は筒抜けで、内容が聞こえてきました。
「俺は〇社の役員をやっていた。その俺が見る限り、ここのサービスはなっていないし、君のサービスもダメだ。サービス業というものがどうあるべきか、君はわかっているのか。俺のいた会社ではこういうことは絶対にやらなかったし、君は常識がわかっているのか……」
延々と説教が続いていました。隣で聞いていてもいい気分のしない話だったのですが、その元役員の人は周りを気にすることなく、持論をそのスタッフに展開し続けます(「あなたが周りの不快感を生み出すことをしているのに、サービスとはみたいな話をしても説得力が全然ない!」と心の中でつぶやきました)。
まさに、自己重要感の間違った満たし方です。結局その人は1時間近くスタッフをつかまえて、説教をしていました。そこで私が感じたのは「この人はきっと寂しいのだろう」ということでした。会社の後ろ盾や肩書がなくなり、周りから重要な存在として扱ってもらえなくなったのかもしれないと。
満たされる場が家庭にもなく、社会にもなくなってしまったとき、お客として大切に扱ってもらえるであろうお店や施設などで自己重要感を満たそうとするわけです。
■自己重要感を満たすなら自分でコントロールできることから考える
自己重要感のNGな満たし方でもうひとつ、「マウンティング(自分のほうが相手より立場が優位であることを示そうとする行為)」があります。たとえば、お店でお金を払うとき、お金を投げるように払う人がいますが、これも自分のほうが上だというマウンティングのひとつです。
自己重要感を満たしたいという欲求は誰でも持つものです。ですから、逆に相手の自己重要感を満たすような言葉をかけたり行動をしたりすると、よりよい関係性を築くことに役立ちます。たとえば、夫婦であればどうしてもお互いの存在が空気のようになってしまい、相手の自己重要感を満たすことがなくなりがちです。そんなときは意識的にパートナーの重要感を高める言葉をかけてください。
自己重要感は、相手が自分をどう思うかということなので、自分でコントロールするのは難しいものです。自分でコントロールできないことにフォーカスすると、脳は恐怖を感じます。その恐怖が脳にダメージを与えます。その結果、認知症のリスクが上がります。ガンコ、キレやすい、マウンティングの傾向がある、そんな人は将来認知症になるリスクがあります。一方で、コントロールできることにフォーカスすると幸福度が上がることもわかっています。
ですから、まずは自分がコントロールできることをするのが一番です。その中で「人の役に立つことをやる」「人の喜ぶことをする」ことなら、自己重要度が満たされそうですよね。
パートナーが喜ぶことをする。友人が喜ぶことをする。困っている人を助ける。なんでもいいと思います。
面白い調査結果があります。会社をリタイアした人たちにボランティアで学生の家庭教師をやってもらったところ、その人たちの脳の認知機能が高まりました。
これは自己重要感が満たされた結果です。自分が教えることで学生が「わかった!」となれば、自分の重要度をダイレクトに実感できますよね。自己重要感を高めたければ人に喜んでもらうことをする。誰にでもできる方法です。
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未来の自分のために、今日からできることを!
年齢に関係なく、脳も心も、日々の習慣で変えていけます。小さな一歩が、未来の自分を大きく変えるかもしれません。ぜひ、今日からできることをひとつ、始めてみませんか?

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』
著者西 剛志
発売日2022年8月13日
価格1400円(税別)
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いくつになっても脳が若いままの人と、老化が進んでいく人の差はどこにあるのか?脳科学者が伝えたい「老人脳」にならないための方法を伝授!スーパーエイジャー(高齢になっても超人的な認知・身体能力を持つ人)たちの脳の使い方をひも解き、いつまでも若々しく幸せなシニアライフを送るコツを届ける一冊です。
(著者情報)
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院非常講師や特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。 子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子どもまで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポート。テレビなどの各種メディア出演も多数。著作は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)をはじめとして累計発行部数10万部を突破。
構成/DIME編集部