
人生100年時代。年齢を重ねることは、経験と知恵が深まる素晴らしい旅です。でも、一方で記憶力や集中力の低下に不安を感じることがあるかもしれません。
そんな中、脳科学者・西剛志氏が提案するのは、「脳の若さ」を保つためのシンプルな習慣。実際に、80歳を過ぎても好奇心を持ち続け、学びを楽しむ人たちが実践していることとは?
この記事では、書籍『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、脳を元気に保つヒントを抜粋・再編集してわかりやすくご紹介します。
年齢に関係なく、今から始められる「脳のメンテナンス」を一緒に学びましょう。
脳の老化スピードが速い人がよく使う言葉とは?
「あー、疲れた」
「もう、嫌になる!」
「そんなことできるわけない」
こんな言葉を、日頃何気なく使っていないでしょうか?
実は、こうした言葉は脳に影響を及ぼしています。「脳のプライミング効果」というものです。
ニューヨーク大学の実験でこのようなものがあります。学生のグループを2つに分けて、言葉の羅列で文章をつくってもらうという実験です。ひとつ目のグループには「グレー」「孤独」「忘れやすい」「退職」などの年配者のような言葉を使ってもらう。もうひとつのグループにはニュートラルな言葉で文章をつくってもらう。「のどがかわいた」「キレイな」「プライベート」などです。
そしてグループごとに移動をしてもらったところ、なんと年配者のような言葉を使ったグループメンバーの歩くスピードが遅くなってしまったのです。これには私もビックリしました。
この実験からわかることは、使った言葉がその後の行動に影響を与えるということです。どういう言葉を使うかで、無意識のうちに行動が変わります。どういう言葉を使うかは、大切です。
下の表は、脳にマイナスになる「使わないほうがいい言葉」です。
これらの言葉は、使った瞬間に脳が悪い影響を受けてしまいます。

たとえば、「疲れた」と言った瞬間に、疲れたイメージが脳に出てきます。その結果、疲れたようなパフォーマンスをしてしまい、本当に疲れた状態になってしまうのです。実際にはそこまで疲れていなくても、脳が勝手に疲れた状態をつくり出してしまうことになります。
「わからない」「難しい」などの言葉も、脳にとっては危険な言葉のひとつです。思考をフリーズさせないためにも、使わないほうがいいと思います。
ただ、そうはいってもついつい言ってしまうこともありますよね。それに、使わないように無理やり我慢すると、逆に感情が苦しくなってしまう人もいます。私も実験をしてみたのですが、たとえば、疲れているのに「疲れている」と言えないと、何かモヤモヤした感じになってしまう人が多数いました。
そこで考案したのが、「『でも』の法則」です。マイナスの言葉を言ったあとに、必ず「でも」を付け加えるという方法です。
たとえば、「疲れた」と言ったら、こんな感じです。「疲れた。でも~」。どうでしょうか。「でも」以降はどんな言葉を付け加えてもらっても大丈夫です。実際にいろいろな人にやってもらったところ、こんな言葉をみなさん付け加えていました。
「疲れた。でも、がんばった」
「疲れた。でも、いい疲れだ」
「疲れた。でも、寝れば回復するだろう」
「疲れた。でも、その分成果が出た」
こう答えるとどうでしょうか。これは、実は日本語の特徴と脳科学をミックスした方法です。
脳は、文章の一番最後にきた情報を印象に残しやすいという性質があります。なので、「疲れた」が最後であれば「疲れた」という情報を残しますし、「でも」のあとに「がんばった」と言うと「がんばった」という情報を残します。
プラスの言葉のあとに「でも」を使えばマイナスの言葉が来ますが、マイナスの言葉に「でも」を使えばプラスの言葉が来るわけです。
実際に私の実験でも、「『でも』の法則」をやってもらうと「気持ちがラクになった」「疲れを感じにくくなった」という人が多数いました。実際にこの2文字で人生が変わってしまった人もいたので、私自身もその効果に驚いたほどです。
研修で出会った50代の女性がいたのですが、その人は、マイナスの言葉をひとりごとでも、相手に対してでもよく使っていました。ついついそういう言葉を使ってしまうクセがついていて、そんな自分に嫌気がさしていると話していました。そこで、その人に「きょうから『でも』という言葉を1000回使ってみてください」と伝えました。そして、1カ月後の研修で会ってみると、まるで別人のように状態が変わっていたのです。
話を聞いてみると、「『でも』を使ってみてと言われて、半信半疑で使ってみました。でも、でも、最初は何だかバカらしく感じました。ただ、言っているうちに、『でも、元気に生きてるな』『でも、きょうは天気がいいな』『でも、ランチが美味しかったな』『でも、きょうはきれいな花を見たな』など意外と自分は小さな幸せをたくさん体験しているんだな、環境に恵まれているんだな、いいこともあるんだな、ということを感じたんです。いままでだったら、朝起きたときも、なんで決まった時間に起きれなかったんだろうと自分を責めていました。
ただ、いまでは、『でも』という言葉が自然と出てきて、『でも、よく眠れたな』『でも、面白い夢を見たな』『でも、朝食用に美味しいパンを買ってきたな』という言葉が出てくるようになったんです。
そしたら急に、私はいままでできなかったことばかりに目を向けていて、たくさんのできていること、有り難いこと、美しいものに目を向けていなかったことに気付きました。世界の見え方が少しずつ変わってきたんです。
そんな毎日を過ごしていたら、周りからもなぜかよく声をかけられたり、明るくなったねと言われるようになりました。こんなに短期間で周りの言葉が変わってきたことに、私自身が一番驚いています」
私もその話を聞いて、言葉の力は本当にすごいと改めて感動しました。
うまくいく人は、脳にいい言葉の使い方をしている人が多いのです。
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未来の自分のために、今日からできることを!
年齢に関係なく、脳も心も、日々の習慣で変えていけます。小さな一歩が、未来の自分を大きく変えるかもしれません。ぜひ、今日からできることをひとつ、始めてみませんか?

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』
著者西 剛志
発売日2022年8月13日
価格1400円(税別)
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いくつになっても脳が若いままの人と、老化が進んでいく人の差はどこにあるのか?脳科学者が伝えたい「老人脳」にならないための方法を伝授!スーパーエイジャー(高齢になっても超人的な認知・身体能力を持つ人)たちの脳の使い方をひも解き、いつまでも若々しく幸せなシニアライフを送るコツを届ける一冊です。
(著者情報)
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院非常講師や特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。 子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子どもまで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポート。テレビなどの各種メディア出演も多数。著作は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)をはじめとして累計発行部数10万部を突破。
構成/DIME編集部