
人生100年時代。年齢を重ねることは、経験と知恵が深まる素晴らしい旅です。でも、一方で記憶力や集中力の低下に不安を感じることがあるかもしれません。
そんな中、脳科学者・西剛志氏が提案するのは、「脳の若さ」を保つためのシンプルな習慣。実際に、80歳を過ぎても好奇心を持ち続け、学びを楽しむ人たちが実践していることとは?
この記事では、書籍『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、脳を元気に保つヒントを抜粋・再編集してわかりやすくご紹介します。
年齢に関係なく、今から始められる「脳のメンテナンス」を一緒に学びましょう。
老人脳を防ぐ7つのスーパー栄養素
老人脳を防ぐには、食生活が重要です。先ほど「噛む」意義や、動物性タンパク質の必要性について書きましたが、それ以外にも食材に含まれる栄養素が老人脳と密接に関係しています。栄養素に関してはさまざまな情報が氾濫していて、どれがいいのかよくわからなくなっている人もいるかもしれません。
EPAやDHAを含む青魚やビタミンB群、チロシンなどのタンパク質に含まれる各種アミノ酸が脳にいい栄養素とよく言われています。
どの栄養素がいいのかを選ぶうえで、私が特に注目しているのが若返り遺伝子として有名なサーチュイン遺伝子です。「休め遺伝子」と同様に長寿遺伝子のひとつで、2000年に発見された新しい遺伝子です。この若返り遺伝子が活性化すると、神経の衰えがゆるやかになる、心筋の保護をする、シミやシワが改善される、難聴・視力低下が回復する、炎症や免疫が改善される、肝臓の代謝が改善される、インスリンの分泌を促すなど、老化を穏やかにすることで寿命が延びることが科学的に証明されています。
これまでサーチュイン遺伝子は、食事を制限したり、食べないことで活性化することが広く知られてきました。ですので、若返るために食事制限に走ってしまう人もいるようです。ただ若いときはそれでよいかもしれないのですが、高齢者が過度に食事制限をしてしまうと、やせることで筋肉が落ちて死亡率が高まってしまいます。そのため最近では、食べることで若返り遺伝子を活性化できる方法が世界的にも注目されています。食事をとりながら若返り遺伝子を活性化することが高齢者にとっては老人脳を防ぐ効率的な方法なのです。
■若返り遺伝子を活性化させる栄養素とは
サーチュイン遺伝子を活性化させる栄養素が7つあります。
これらの7つの栄養素は、どれも単体で効果があるという研究結果が出たものなので、すべてをとらないといけないわけではありません。
この7つの栄養素を食生活やサプリメントなどでうまく取り入れていくことで若返り遺伝子を活性化させ、老化を予防します。
・ナイアシン
かなり強くサーチュイン遺伝子を活性化させる栄養素です。いま健康食品の業界でも関心が集まっているもので、特にかつお節に多く含まれています。かつおそのものにも含まれますが、かつお節のほうが含有量が多くなります。
ほかにはマイタケ、たらこなどにも含まれます。たらこは生にも含まれていますが、焼くとさらに含有量が多くなります。
・エラグ酸
ポリフェノールの一種でイチゴやブラックベリーに含まれます。ブルーベリーにも含まれますが、ブルーベリーに比べブラックベリーは300倍ほどの含有量になります。ほかにクランベリーやザクロにも含まれ、美白効果もあります。
・レスベラトロール
ワインなどに含まれるポリフェノールの一種です。ただ、サーチュイン遺伝子を活性化させるには毎日10Lの赤ワインを飲まないといけないので、量が非現実的です(もし飲んだとしてもアルコールの摂取しすぎになるのでほかの問題も起きます)。ほかの食材にも含まれますが、ピーナッツ(22kg食べる)、ココア(13kg飲む)と現実的に食べるには無理があるので、摂るならばサプリメントになります。
・プテロスチルベン
ブルーベリー、オメガ3系の油、青魚、マグロのトロなどに含まれます。これもかなりの量が必要なので、食材だけから摂るのは現実的ではありません。現在はサプリメントなども販売されています。
・EPA、DHA
すでに一般化されていますが、サバやアジなどの青魚に多く含まれていて、頭がよくなる脂と言われています。EPA、DHAは若返り遺伝子を活性化することがわかっています。
1日に5gの摂取が必要です。マグロのトロであれば寿司1カンで3.2g摂れるので、2カン食べれば大丈夫です。青魚であればサンマ1日3尾、サバを3切れ(1切れ100g)ほど食べるイメージです。
ほかにはオメガ3系の油、ブリ、ウナギ、あん肝などにもかなりの量が含まれています。大ブームになったサバの水煮缶もいいですね。
EPA、DHAは魚に豊富に含まれていますが、一方でほかの食材にはほとんど含まれていません。
たとえば、野菜には全く含まれていませんし、肉類、乳製品にはある程度含まれているのですが、魚と比較するとけた違いに少ないのです。「老化を遅らせたければ魚も食べなさい」この言葉を覚えておいてください。
特にマグロをはじめ、サバ、サンマ、ブリなどもその脂身部分に多くEPA・DHAが含まれるので、旬の脂ののったものを食べるとより効果が期待できます。
ただ、マグロなどの大型の魚には食物連鎖の影響で水銀が多く含まれているので、食べ過ぎには注意が必要です。
・ビタミンC
1日1g、ビタミンCを摂取すると若返り遺伝子が活性化することがわかっています。
ビタミンCの摂取でおすすめしたいのはアセロラです。アセロラはビタミンCの含有量がかなり多い果物です。ゆずもビタミンCを含みますが、アセロラはその10倍以上です。
・ビタミンD
ビタミンDには、キノコ類に含まれるビタミンD2と、あん肝、しらす干し、イクラ、ウナギなど、魚介類の脂の中に多く含まれるビタミンD3があります。基本的に野菜には含まれていません。
若返り遺伝子を活性化させるためには、ビタミンD3を1日286マイクログラム摂る必要があります。これは実践するには非現実的な量です。また、上限も1日100マイクログラムとなっていて、過剰摂取すると組織へのカルシウム沈着、腎障害などが起きるため危険です。
ただし、ビタミンDは骨粗鬆症を防ぐ効果があり、免疫を活性化してガンのリスクを下げ、神経系への作用も報告されているので、摂取することは大切です。ビタミンD不足は転倒のリスクを高めることも示されています。
■太陽の力でビタミンDをつくる
ビタミンDを供給するには日光を浴びるのがいいとよく言われていますが、これは本当にいい方法です。皮膚にはもともとビタミンDの前駆体といって、ビタミンDになる前の物質があります。日光にあたるとそれがビタミンD3に変換されます。つまり、食べ物だけでなく、皮膚でもビタミンDを合成することができるのです。
紫外線を浴びすぎると日焼けやシミになるのでは? と心配になる人もいるかもしれませんが、実は朗報があります。効果的に日光を浴びられる時間が地域によってそれぞれあるのです。たとえば、北海道札幌市では、7月ならば午前9時台に14分間日光を浴びれば1日に必要なビタミンDが皮膚でつくられます。
季節や時間帯、住んでいる地域によって日照量が変わるため、日を浴びる時間も変わってきます。たとえば、茨城県つくば市では、日を浴びる時間は、7月のお昼12時だと6分間で十分ですが、12月になると41分間必要となります。札幌市では12月の正午で139分間となります。12月の午前中は紫外線のリスクはほとんどないのですが、その代わりビタミンDが十分につくられないので、お昼に日を浴びるといいでしょう。特に冬はビタミンDが不足する傾向にあるため、日光だけでなく食べ物からも積極的に摂ることがおすすめです。

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未来の自分のために、今日からできることを!
年齢に関係なく、脳も心も、日々の習慣で変えていけます。小さな一歩が、未来の自分を大きく変えるかもしれません。ぜひ、今日からできることをひとつ、始めてみませんか?

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』
著者西 剛志
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(著者情報)
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院非常講師や特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。 子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子どもまで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポート。テレビなどの各種メディア出演も多数。著作は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)をはじめとして累計発行部数10万部を突破。
構成/DIME編集部