
フォルクスワーゲンのベストセラーカー「ゴルフ」は近年、本国からの新型車供給の問題で、日本での販売台数が伸び悩んでいた。しかし、その問題も解決し、2024年末には最新の第8世代「ゴルフ」をベースにしたアップデートモデルを投入、販売の立て直しが行われている。
その中で2025年1月には、もっともパワフルなゴルフと言われている「ゴルフR」が日本で初公開された。「ゴルフR」といえば、そのルーツは2002年の「R32」だ。コンパクトハッチのボディーに3.2L狭角V6エンジンを搭載した〝スーパーゴルフ〟は、ハイパワーを受け止めるためにリアサスをマルチリンク式に改め、4輪駆動システムの4モーションが投入された。
日本では初代の「R32」は、2003年の日本導入から2024年11月までの間に1万1800台もの登録があり、フラッグシップに位置するホットハッチとして人気を集めた。最新の「ゴルフR」のベースになっているのは第8世代の「ゴルフ」だが、LEDヘッドライトやイルミネーション付きのVWエムブレム、リアコンビネーションランプ、形状が新しくなったバンパーとベンチレーショングリルが新型「ゴルフR」を表わしている。
内装ではタッチ式スイッチ類や大型のパドルシフトを備えたスポーツハンドルが目につく。デジタルメーターは、中央に大きくエンジン回転計を配する。専用デザインは、Rモデルだけの装備だ。シートはヘッドレスト一体型のハイバックスポーツシートで、R専用デザインに、サイドにブルー色のアクセントを配したマイクロフリースシートを採用している。試乗したのが上級グレードの「アドバンス」だったので、シート側面にカーボン調のエレメントを配したナバレザーシートが標準装備されていた。
グレードはノーマルのRと上級のRアドバンスの2つが用意されている。違いはいくつかの装備とオプション選択。機能面ではプログレッシブステアリングとパワーシート、アダプティブシャーシコントロール(DCC)がアドバンスには装備されていること。タイヤ/ホイールがアドバンスは19インチを標準装着。車両本体価格はRが704万9000円、Rアドバンスが749万9000円となっている。車両重量はノーマルの1510kgに対し、Rアドバンスは1520kgと10kgほど重い。
パワーユニットは直列4気筒2.0Lガソリンターボ。性能は「ゴルフ」ファミリーの中で最も強力。最高出力は333PS/5600~6500rpm、最大トルク420Nm/2100~5100rpm。ミッションは7速DSGで、4WDはトルクベクタリングを備え、後輪左右のトルクの配分を0~100%の間で調整ができる。シャーシ全般を電子制御するVDM(ビークルダイナミクスマネージャー)は電子制御デフやDCCの統合制御に加えて4WDもコントロールすることで、旋回性能のレベルを高めている。
ここからはいよいよ試乗の話。Rアドバンスのホールドのよいシートに体を沈める。着座位置はやや高めに設定しても、ドアの上縁に頭をぶつけることはない。高めにセットすると前方視界も良い。圧迫感のないポジションだ。スターターボタンを押して、Dレンジにシフトする。小さなつまみのシフトノブは見た目もスッキリしている。アイドリング中でも若干低いエキゾースト音が耳に入ってくる。
走り出す前に走行モードを選択。センターパネル下の小型タッチセンサーの「MODE」スイッチを押すと、画面にエコ/コンフォート/スポーツ/レース/カスタムの項目が出る。まず「コンフォート」を選択。スタートは軽い。ターボエンジンは2000回転あたりからアクセルレスポンスがよくなる。60km/hでの走行は6速で1400回転。そのまま車速を高めれば、100km/hの巡航は7速で1800回転。6速は2400回転なので、高速巡航時もトルクは余裕がある。動力性能も0→100km/hの加速は5秒台後半。直4、2.0Lのエンジンは6000回転まで上昇し加速する。その動きは、ホットハッチの軽快さより、重量感のある高級モデルに近い感覚。ヤンチャな動きもない。
「スポーツ」モードに切り替えると、3000回転以上にならないとシフトアップしないので、街中は2速から3速で走ることになる。エンジン音もやや大きく、アクセルレスポンスは敏感になるので、落ち着きがなくなる。街中は「エコ」か「コンフォート」で走行。「スポーツ」は積極的にシフトして走る時か、ワインディング走行で使いたい。こういうシーンでは吸排気可変バルブタイミングや排気側の2段階バルブリスト量可変機構の働きで、ターボラグを感じさせない高出力、高トルクを生かした走りが楽しめる。もちろん4WDの効果も安定感を増す要因だ。
乗り心地はコンフォートモードでも細かいゴツゴツ感があり、高速域では目地の乗りこえで突き上げに近いショックもあった。アドバンスは19インチホイールが標準。試乗車はハンコック「VETUS S1エボ3」の235/35R19を装着していたが、タイヤを変えると印象は変わるかもしれないと感じた。
「ゴルフR」は、スポーツハッチというより余裕のある出力、トルク+4WDで安心、安全なモデル。もちろん、その気になればスポーツカー顔負けの走りもできる。現代版の小さな高級車というのは、こういうクルマなのかもしれない。
■関連情報
https://www.volkswagen.co.jp/ja/models/golfr.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博