
「カローラ」は1966年に初代が誕生した日本を代表するクルマであることはご存じの通り。当時は4ドアセダンだけだったが、時代の変化と共に2ドアクーペ、ハッチバック、ワゴン、SUVなど様々なボディー形状が開発され、生産台数でトップのクルマになった。成長の過程の中で、当然、モータースポーツ用のベースモデルも生まれ、積極的に参加してきた。中でも1970年代は「レビン/トレノ」といったスポーツモデルが加わり、次々と名車が生まれた。モータースポーツを起点とした〝もっといいクルマづくり〟の礎を築き、その走りは多くのファンを生んだ。
その頃の熱い「カローラ」を取り戻したいと考えたのは、モリゾウこと、会長の豊田章男氏だ。自らが開発ドライバーになり、レースやラリーに出場し「カローラ」を逞しいクルマに仕上げていった。開発コンセプトは、「レースに勝つために鍛えたクルマを市販にする」というモリゾウ流のいいクルマづくりだった。ベースに選んだのは、5ドアハッチバックの「カローラスポーツ」。このクルマのボディを基本骨格とした。
パワーユニットは3気筒1.6Lのガソリンターボ。「GRヤリス」に搭載し、モータースポーツを席巻しているスポーツエンジンだ。駆動系も「GRヤリス」に搭載されているスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を「GRカローラ」用にチューニングした。「ヤリス」よりホイールベースが長い「カローラ」は、直進性安定性や限界領域のコントロールのしやすさが特徴で、コーナーでの安定性をさらに向上させるために、フロント60mm、リア85mmもトレッドが拡げられた。
外観はこの拡大に合わせて、片側30mmずつフェンダーが張り出し、迫力あるスタイルになった。こうして販売された「GRカローラ」だったが、2025年2月に改良を受けて再登場。スーパー耐久シリーズなどに参戦する中で得たノウハウを生かし、高速コーナーでの旋回性能や加速、冷却性能など改良を行なった。
オプションとして日本仕様にだけ「スポーツパッケージ」(25万3000円税込)も用意された。メカニカルな面では、304PS/6500rpmの最高出力は変わらないが、トルクは370Nm/3000~5550rpmから400Nm/3250~4600rpmに引き上げられ、発生エンジン回転数も領域が狭くなった。さらに変速機は「GRヤリス」にも展開されている8速AT(GR-DAT)が搭載できるようになった。6速マニュアルも選択できる。
駆動方式は「GRヤリス」と同じく、電子式多板クラッチの前後駆動力可変システムのスポーツ4WDシステム「GRーFOUR」。今回から「GR-FOUR」モードとドライブモードを別々のセレクターにしたことで選択の組み合わせが拡がった。
ボディー本体の強化も実施。リアホイールハウス間、床下トンネル、タンク前の床下にブレースを追加。ルーフにはCFRPCカーボンファイバーレインフォースドプラスチックを採用。剛性だけでなく、軽量化も行なった。
フロントバンパーとグリルの造形から変わった新型「GRカローラ」の8速ATモデルに乗り込む。本格的なバケットシートに座り、ポジションを調整。ハンドルはやや細身で、アルカンターラが全体を包みこむ。モータースポーツの血を受け継いでいる雰囲気が車内に漂う。「GR-FOUR」はノーマルモード、ドライブモードが設定されているが、まずはノーマルを選択して走り出す。
アイドリングから3本出しのマフラーは低音域の効いたサウンドを轟かせている。Dレンジでスタート。1.6Lの3気筒ターボは2500回転あたりからアクセルレスポンスが良くなり、加速が速まる。8速ATのシフトアップもノーマルモードでは早く、3000回転以下でシフトアップ。おとなしく100km/hでの高速巡航は8速1700、7速2100回転。アクセルを踏み込むと即座にシフトダウンし、加速する。
ワインディングに入り、ドライブモードをスポーツモードにシフト。Sモードでは加速は3000回転を目途にシフトアップ。ブレーキを踏み減速すると、ブリッピングを繰り返しながら、シフトダウン。あえてマニュアルモードにしなくても、十分スポーツ走行が楽しめる。
テストコースで「GR-FOUR」モードをノーマルから「GRAVEL」にシフトする。ノーマルモードでは前60、後40だったが、前30、後70のトルク配分に変わった。FR的な走りができるようになるというわけだ。と、カタログ上での変化はわかるのだが、実際に公道でその違いを確認するのはドライの路面では無理だろう。一般のドライバーは雰囲気を楽しむだけにしておいたほうがよさそうだ。
その点では、ダイヤルをプッシュしてシフトするTRACKモードは、前50、後50の平均したトルク配分なので、バランスの良さを体感することはできる。でも「GRカローラ」の生い立ちを思い出してほしい。モータースポーツからのクルマづくりがテーマなのだ。走る楽しみの原点がモータースポーツという競技からきているということは、すなわちレースで勝つことが命題ともいえる。その覚悟がないドライバーは無理をしないのが賢明だ。
街中や一般道、高速道路での「GRカローラ」は、乗り心地も硬めで、細かい上下動もあり、落ち着きがないように感じる。サーキット専用モデルとは言わないが一般道の走行はけっして快適とは言えない。3気筒、1.6L、8速ATで598万円という車両価格は、趣味で乗るクルマとしても上限に近い設定だ。もちろんライバル車も存在するカテゴリーで明確なターゲット層が見えづらいのが気になる。本格的に走りを楽しみたい人は「GRヤリス」のほうが痛快さを楽しめるかもしれない。
■関連情報
https://toyota.jp/grcorolla/
文/石川真禧照 撮影/萩原文博