
人生100年時代。年齢を重ねることは、経験と知恵が深まる素晴らしい旅です。でも、一方で記憶力や集中力の低下に不安を感じることがあるかもしれません。
そんな中、脳科学者・西剛志氏が提案するのは、「脳の若さ」を保つためのシンプルな習慣。実際に、80歳を過ぎても好奇心を持ち続け、学びを楽しむ人たちが実践していることとは?
この記事では、書籍『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、脳を元気に保つヒントを抜粋・再編集してわかりやすくご紹介します。
年齢に関係なく、今から始められる「脳のメンテナンス」を一緒に学びましょう。
運動するならウォーキングより「脳活ドリブル」
ここで問題です。
「ウォーキングには脳を活性化する効果がある」
〇か×か?
■答え △
脳を活性化させるために運動は有効です。免疫機能を上げたり、筋力をつけたりと、さまざまな効果があることもわかっています。では、脳の認知機能を一番高める運動はなにかと聞かれたら、みなさんはなんと答えるでしょうか? 実はどんな運動でもいいわけではないのです。そこそこ効果がある運動と、高い効果がある運動があります。
そこそこ効果が認められた運動
ウォーキング、ランニング、筋トレ など
高い効果があった運動
ドリブル、平均台などバランスをとる運動 など
過去30年間の運動と脳に関するさまざまな調査を網羅的に分析したところ、最も高い効果があったのは、「コーディネーション運動」と呼ばれるものでした。ちなみにウォーキングなどの有酸素運動や筋力のエクササイズの約2倍の効果があったそうです。コーディネーション運動とは、複数の動きを同時にする運動のことで、運動神経を上げるための方法として開発されました。脳から体への伝達速度をよりスピーディーに、より正確にすると言われています。
この運動の何がすごいかというと、リズム、バランス、スピード、筋力、柔軟性といった、運動に必要な要素を兼ね備えているということです。
コーディネーション運動を詳しく説明すると、大きく7つの要素に分けられます。
(1)リズム能力 目や耳から入ってきた情報を使い、タイミングをうまくとる。
(2)バランス能力 崩れたバランスを素早く整える。
(3)変換能力 相手の動きに合わせて瞬時に変換できる。
(4)反応能力 状況を察知しすばやく瞬間的に反応する。
(5)連結能力 身体をスムーズに動かす、流れの中でうまく動かす。
(6)定位能力 ボールがどこに落ちるかを予測するなど変化を調整していく。
(7)識別能力 ボールなどを精密に扱う。
この7つがミックスしているコーディネーション運動こそ、認知機能の向上に最も効果がある運動なのです。中でも特に手軽に、楽しみながらできるのが「ドリブル」です。といっても、足で扱うサッカーのドリブルではなく、手を使うバスケットボールのドリブルです。私はこれを「脳活ドリブル」と呼んでいます。ドリブルは、ボールひとつあればできる運動なので、やりやすいですし、高齢になってからでもけがをしにくい運動です(もちろんけがのリスクがゼロというわけではないですが)。研究でも、バスケットボールなどを使ったコーディネーションを含む運動を行ってもらうと、認知機能が大きく向上することがわかっています。

調査では2カ月~5カ月半、1日30分のコーディネーション運動をした結果、十分な効果をあげることができました。30分もし続けるのは至難の業ですが、短い時間でも続けて行えばうまくできるようになり、自分の成長を感じることができます。この「上達している感覚」が大切で、脳の認知機能が高まることにつながります。
また、脳を鍛える運動は男女でやり方を変えたほうが効果的という研究結果も出ています。
男性に向く方法
少しずつ強度を上げていくと運動がより効果的(たとえば、ドリブルを10回できたら、15回、20回、30回…にしていく)
女性に向く方法
強度を上げず、穏やかな低~中程度の強度のままで運動することが効果的(ハードな運動はむしろ逆効果)
では、次に脳活ドリブルのやり方を紹介します。
■脳活ドリブルのやり方

(1)立った状態でバスケットボール※(バレーボール)を利き手で10回ドリブルしたあと、反対の手でドリブル10回と、交互に行う。
※100円ショップなどで売っているゴムボールなどでもOKです。自分がやりやすいボールを使ってください。
(2)座りながら(両ひざ立ち)、利き手で10回ドリブルして、終わったら、反対の手で10回ドリブルする。
(1)、(2)を1セットとして、5分を目安にやってみてください(長くできればさらによし)。5分できない場合は自分ができる範囲でやってみて、少しずつ時間をのばしてみてください。
〈室内などドリブルがやりにくい場所の場合〉

(1)バスケットボールを頭の上に投げてキャッチ。これを5回行う。
(2)ボールを頭の上に投げて、手を1回たたいてキャッチ。これを5回行う。(男性は手をたたくのを2回、3回と増やす)

(3)座りながら、ボールを頭の上に投げてキャッチ。これを5回行う。
(4)座りながら、ボールを頭の上に投げて、手を1回たたいてキャッチ。これを5回行う。
(1)~(4)を1セットとして、5分を目安にやってみてください(長くできればさらによし)。5分できない場合は自分ができる範囲でやってみて、少しずつ時間をのばしてみてください。
*バスケットボールが重い場合は、軽いボール(ハンドボールやテニス、野球ボールなど)を片手で上に投げて、反対の手でキャッチしたり、卓球のボールが下に落ちないようにラケット上で何回うち続けられるかカウントしてみるのも効果的です。
ちなみに、コーディネーション運動はどの年齢でも効果があるので、若いときから始めていれば脳の老化予防につながります。
ドリブルだけでなく、ほかのコーディネーション運動も効果があります。飽きてきた場合は「寝ながらキャッチボール((1)仰向けに寝て、利き手でボールを持ち、そのまま天井に向けて投げる。(2)落ちてきたボールを利き手でとる)」「ダーツ」「お手玉」「卓球」「ボーリング」なども脳活効果が期待できる運動なので、おすすめします。
☆ ☆ ☆
未来の自分のために、今日からできることを!
年齢に関係なく、脳も心も、日々の習慣で変えていけます。小さな一歩が、未来の自分を大きく変えるかもしれません。ぜひ、今日からできることをひとつ、始めてみませんか?

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』
著者西 剛志
発売日2022年8月13日
価格1400円(税別)
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いくつになっても脳が若いままの人と、老化が進んでいく人の差はどこにあるのか?脳科学者が伝えたい「老人脳」にならないための方法を伝授!スーパーエイジャー(高齢になっても超人的な認知・身体能力を持つ人)たちの脳の使い方をひも解き、いつまでも若々しく幸せなシニアライフを送るコツを届ける一冊です。
(著者情報)
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院非常講師や特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。 子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子どもまで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポート。テレビなどの各種メディア出演も多数。著作は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)をはじめとして累計発行部数10万部を突破。
構成/DIME編集部